第56話 【名門!カクヨム学園】その3~チャンスの神さま~
俺の名前は月本招(つきもとまねき)。
もちろん偽名だ。
ではカクヨム学園の第3回行ってみよー!
――――
「アンタ、今の作品を捨てる気はある?」
死角から突然飛び出してきた言葉の一撃に、俺はうろたえていた。
「ハァ? 何だよ突然。あるわけないだろ、そんなこと」
ヒカリは腕組みし、「やっぱそうか」と言いながら、上履きでトントンとリズムを刻んでいた。しばらくして、タンッと廊下を足裏で叩いて止めると、ヒカリは顔を上げて俺を見た。
「ちょっと行くよ」
「へ? どこに?」
「いいからついてきなさい」
何を考えているかはよく分からなかったけど、とりあえず素直について行く俺。ヒカリと一緒に向かったのは……
「何だよ、学内中央広場じゃん。何でわざわざこんなところに?」
目の前には円柱を三段に組み上げた立派な噴水が涼し気な音を立てている。だがしかし、今は真冬。水音で寒さが増幅されるようである。いつの間にか自分だけマフラーをぐるぐると巻いているヒカリを見る俺の目は、きっと恨めしそうだったはず。
「それはまぁ、気分だよ気分」
「バカか! めちゃくちゃ寒いだけじゃんかよ」
「女子のオシャレは我慢と根性」
「意味わかんねーし!」
不毛なやり取りが続いた後で、ヒカリは白い息をこぼした。
「月本さぁ。アンタ、前に今年の目標は★4桁作品って言ってたよね?」
「ん? あぁ言ったな」
「それ、実際問題として、どうやって達成するつもり?」
「そりゃまぁ面白い作品を書いて、どっかのタイミングで『注目の作品』に載ったりして、めちゃバズって一気に★ゲットってな感じ?」
「……脳みそ腐ってんの?」
ヒカリが自分の身体を両腕で抱え、寒さに震えながら俺を睨んだ。そんなに寒いのなら早く戻った方がいいのでは? と一瞬思うものの、俺が反射的に口にしていたのはもちろん……
「何だよ? 面白い作品を書いたら誰かが見てくれるんじゃないのかよ? 俺たちはそのためにカクヨム学園に入学したんじゃねーか!」
俺が語気を荒くして吐いたセリフにも、ヒカリは眉一つ動かさない。
「いやいや、執筆科の生徒だけで何人いると思ってんの? ざっと数十万人はいるんだよ? そんな希望的観測が通るほど、この学園は甘くない」
「でも……」
「それにさっきアンタに聞いたよね? 『今の作品捨てる気ある?』って」
「あぁ」
「それは今のアンタが★4桁を目指すのなら、本当に選択しなくちゃいけない道だと思う」
その言葉を口にしたヒカリの表情は今までに見たことがないくらい真剣だったので、俺は言葉を見つけられないでいた。
「おそらく、今のアンタのメイン作品。このまま頑張っても★4桁に届く可能性は限りなく低い。それこそしばらく連載を続けて、Twitterとかで宣伝しまくれば1%くらいの確率はあるかもしれないけど、その代わり酷使したTwitterのアカウントはボロボロになるかもね。宣伝ばっかりしていると、どうしたってそれを嫌うユーザーも出てくるし」
「まぁ確かに」
「それなら、今書いているメイン作品には次の作品への土台になってもらうんだよ」
「土台? それってどういう……?」
「アンタが今やるべきことは、今の作品を完結させて、それまでにフォロワーを少しでも増やすこと。あと、アンタ、生意気にも創作論なんて書いてたよね? それも定期的に投稿して、見てくれる読者をきちんと維持する。そうやって自分を見てくれる人を増やす作業に専念することが次に繋がっていくってことを肝に銘じないと」
「言っていることはわからなくはないけどさ。でも、それなら作品を捨てるなんて言い方をしなくてもいいじゃんか」
灰色の雲に覆われた空の下で、俺は身体を縮こませながら口にした。あと、とにかく寒いんですけど……。
「本当にバカだね月本は。今のうちにメイン作品を使って色々試す必要があるんだよ。カクヨム学園で大事なのは、まずは導線。これは分かるよね?」
「あぁ、中央廊下のデジタルサイネージ。ホームページでいうところのファーストビューだっけ? 注目の作品とか」
「そうそう。他にもランキングとか自主企画とか、レビューコメントとかいろいろあるけどね。やっぱりトップページとランキングに載るってのが大事になってくる。で、それと同じくらい大事なのがタイトルとキャッチコピー」
「え? そうなの?」
「そうだよ。アンタ、クリック率(CTR)って聞いたことある?」
ヒカリがまた訳の分からないことを言い出した。
「何それ?」
「……でしょうね。クリック率ってのはwebサイトとかでブログにバナー広告が埋め込まれていたりするのを見たことがあるでしょ? あれが押される確率を数値化したものなの。クリック率が低いバナー広告は、利益につながらないからってすぐに取り替えられちゃうんだって」
「……それとタイトルに何の関係があるんだよ?」
「だ・か・ら~っ。クリックされないタイトル・キャッチコピーはクリック率の低いバナー広告と同じだって言ってんの! 仮に注目の作品に載ったとしても、タイトルとキャッチコピーが悪かったらクリックしてもらえないでしょ。つまり、チャンスを逃してるって話だよ!」
「チャンスを逃してんの?」
「そうだよ! だから、今のうちにタイトルやキャッチコピーのコツや反応を実戦で掴むんだよ。そうやって得た経験を全て次の作品に活かすために。だから、タイトルだってキャッチコピーだって、今のうちにどんどん変えて失敗しちゃえ。そうすれば、何が良くて何がダメかもわかるようになるでしょ」
「でも、そうなると今のメイン作品は、次の作品のための実験台ってことか。それはそれで何だか悲しくなってくるな」
俺は伏し目がちで言った。すると、ヒカリはパンと手を叩いて自らに視線を誘導する。
「こらこら、全然違うって。タイトル・キャッチコピーを色々試すことも、少しでも話を面白くしようとプロットを作ることも、書けない時にもがき苦しんで何とか話をひねり出すことも、フォロワー獲得を目指して完結させることも、みーんな経験。アンタの血肉になるってことだよ」
「……そっか。全部の作品が未来の★4桁作品に繋がっていくって考えたら、今のうちに苦しむのも悪くないかもな」
「でしょー」
ようやく笑顔が戻ったヒカリ。すると、突然近寄ってきて自分のマフラーを俺の首にも巻き付けてきた。めちゃくちゃ顔が近い。それに何だかいい匂いがする。
「えっと……なにこれ?」
「……月本。アンタさ、『チャンスの神さま』って聞いたことある?」
「いやいや、それってどんな神さまだよ」
「本当にバカだね月本は。いい? チャンスの神さまには前髪しかないんだよ。だから、チャンスは来たらすぐに掴まないとダメ。通り過ぎちゃったら後ろから掴むことはできないって話」
「ん~っと、つまり、作品の評価もワンチャンでモノにしろってこと?」
俺が言うと、ヒカリは明らかなジト目を向けてくる。何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか。その直後、一人思い悩む俺を置き去りにして、ヒカリの目に再び光が宿ったことを俺は見逃さなかった。
「あ……雪だ」
「ほんとだ……どうりで寒いはずだな」
「……月本」
「うん?」
「この、見た目に華があって、創作界隈にも顔が広い素敵女子であるアタシとマフラーをカップル巻きしている状況に何も思わないの?」
「お前、自分で言ってて悲しくならないのか……」
「はぁ!? もういいっ。月本のバァカ!」
ヒカリは俺からマフラーを強引に取り上げると、自分の首にもの凄い速さでむちゃくちゃに巻いた。そして、俺に向かってひと睨みを入れると、肩をいからせてプリプリしながら昇降口に向かって歩いて行ってしまう。
「おい待てって。俺も戻るし。あー、くっそ寒ぃ」
「ちょっとついてこないでよ! チャンスの神さまに後ろ髪はないの!」
「だから何の話だよ?」
この後、ヒカリの機嫌が戻るまでに俺は帰りに何度も甘い物をおごらされたり、買い物に付き合わされたりする羽目になった。
それからしばらくして、ヒカリはずっと書き溜めていた新作を公開。
それほど多くなかったけど、日頃から近況ノートでも交流を深めていた
ヒカリは自らの手で理論を証明してみせたのだった。
「次はアンタの番だね。せいぜい頑張って」
廊下を歩いていた俺の後ろからやってくると、ヒカリは背伸びして俺の耳元でそう囁いた。そのまま走り去ると、少し先で立ち止まり、こっちを振り返って笑顔で手を振っている。その表情には充実感と喜びが溢れていた。
気づけば俺はヒカリに向かって走り出していた。
〈ひとまず……完〉
→→次回は「カクヨム学園」に出てきた手法のまとめ
―――――
★月本のひとり言
いや、全然ラブコメちっくにする予定じゃなかったんだけど、カクヨム学園第1回で「ラブコメかー!?」ってコメントをもらったので、何となくそっちに引っ張られてしまった結果、いつの間にかこうなってしまった(;・∀・)
こんなことになるなら、月本なんて自分のPNを話の中で使うんじゃなかったぜ。。(/ω\)
元々創作論なので、あんまり物語形式を埋め込むのもどうなのかと思い、とりあえず何とか3回でまとめてみた。
(良かったら感想など待ってるよー)
てなワケで、次回はカクヨム学園に出てきた手法の解説回の予定なのだ!
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
ここまでお読みいただきありがとうございます(≧▽≦)
もし、月本にこんなことを書いて欲しいなどのリクエストがありましたら気軽にコメントください。
ご質問・ご感想もお待ちしています!
↓が月本のメイン作品です。よかったら読んでみてください(,,>᎑<,,)
ファンタスティックアベンジャー~呪われた人生に復讐するために、時空を超えて集う者~
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