第10話-A 滅びの炎、魔法の少女
それは、試練を突破して二週間程経ったあたりだった。
いつものように帰りに嬉々さんの店に寄っていた。偶然、柚来さんも来たがここ最近は以前に比べたら良好な関係を築けていると言えるだろう。
そして、来たのが柚来さんだけなら良かったのだが、前と同じように炎禍が現れたのだった。
「それで、今回は何?」
嬉々さんが真面目なトーンで尋ねる。
「おうそんなにイライラするでない。今日も客としてきたのじゃ。少なくともこの店には。唐揚げ7個セットが欲しいのう」
「……はぁ。わかりました。唐揚げ7個ですねー」
諦めたのか、嬉々さんは律儀に唐揚げを揚げ始めた。そして、途中で彼女はこちらに話しかけてきた。
「二人共!来てもらって悪いんだけどこのまま自宅に直行できるかな?」
「え、と……」
柚来さんと顔を合わせる。
多分嬉々さんは私達が危ない目に合わないようにそうしてくれてるんだろうけど……。
「「嫌ですっ!」」
「へ?」
「私達が帰ったら嬉々さんが危ない目に合うじゃないですか!付き合い短いとはいえ恩はあるんだから返させてください!」
「そ、そうですよ。昔からお世話になってるんだからこういう時に恩返しさせてください」
「ふ、二人共……」
私達のやる気が伝わったのか「目を離したほうがもっと無茶しそうだし……あーもう!」と頭を抱えながらここに残ることを許可してくれました。
「ひゃひゃ。妾は唐揚げを食べた後そこの二人にこの店を人質に決闘を申し込もうと思っておったが……この様子じゃその必要すらなさそうじゃ。どうだ、妾と戦ってはくれんか?」
いつの間にか隣の席まで移動してきていた炎禍がとんでもない提案をしてくる。
正直、戦いたくない。痛いし汚れるし暴走しちゃうし……酷いこと、言っちゃうし。
でもこの店を守るためならそんな事を無視して戦う覚悟がある。
「その顔、肯定と判断させてもらうぞ。ひゃひゃひゃ。じゃがまずは腹ごしらえからじゃのう」
数分後、嬉々さんが揚げたての唐揚げを持ってきて炎禍がそれを食べる。とても美味しそうに食べるのでつい「こんな子が世界滅ぼそうとしてるだなんて……」という考えが頭をよぎる。
「ごちそうさまじゃ。さて、それでは戦おう」
炎禍は立ち上がり、公園の広場の方へと歩く。私達3人はそれに着いていく。
「ごめんね、二人共。巻き込むつもりは無かったのにこんな事になってしまって」
嬉々さんがとても申し訳無さそうな顔をしている。
「気にしないでください!私達にこうやって戦う術をくれたんですから、逆に感謝したいぐらいです!」
ああ、柚来さんはやっぱり柚来さんなんだな。人の気持がわかって、気配りができて、周りに優しくて自分に厳しい。
「……では変身してみせい」
「「言われずともっ!」」
「地獄の名の下に!」
「我が魂の真の姿を映せ!」
『
『
ミラーブレスの光に身体が包まれ、姿が変わる。
「っし、いくぞ奇術師!」
「機械、いきなり性格変わってません……?」
――――――――――――――――――――――
決戦・炎禍
最初に動いたのは機械だった。彼女は安直に炎禍めがけて突進した。
「少しは頭を使わんか」
その動きには流石の炎禍も呆れ、あくびをしつつ片手で炎の壁を張った。しかし――
「奇術師!」
「うん!
地獄の熱風よ!彼の者を吹きとばせ!」
『
奇術師の魔法により炎の壁は消された。
「ほう?少しは連携もとれるようになったのか」
「軽口を叩く暇なんかないっ!」
機械は奇術師の突風の勢いにのり、重い一撃を炎禍の腹に炸裂させた。
「あれ?」
しかし当たった感触がない。感触が無いどころではなく、拳が炎禍の身体を通り抜けた。そして通り抜けると同時に声が聞こえてくる。
「それは炎で作り出した妾じゃ。どうじゃ?上手く出来てるであろう?」
「っ!どこから話しかけてる」
機械は辺りを見渡す。
「機械、上!」
奇術師の声に反応するよりも先に、炎禍の蹴りが顔面に炸裂した。
喰らったことの無い重さ。まるで車に轢かれたかのような重い一撃だった。もちろん機械は耐えられるはずもなく、その勢いで広場の端へと転がっていく。
「そしてこれは炎を背中から出して急加速する技じゃ。名前はつけておらんが……そうじゃな、『
誰に話しかけているのかは定かではないが、炎禍は楽しそうに話し続ける。その間、機械は飛ばされて動けずにいた。
(痛……あー……動けねぇー……)
語るのに飽きたのか、はたまた別の理由か。炎禍は話を止め奇術師の方へと少しずつ歩み寄る。
「くっ!地獄の炎よ、今我らを癒やし給え!」
『
唱えられると同時に青白い炎が機械を包み込む。炎禍はこれを見たことがあった。
「なんじゃ、回復が早い早いのう」
「こうでもしないと勝てないからね……!」
威勢良く返したものの、奇術師の魔力は既に4割ほど減っていた。炎禍の蹴りが重く、回復に大量の魔力が必要だったのだろう。
「あれ、うごける。まあ、いいや、殴れれば」
今度は奇術師が見たことがある番だった。
「あれって確かこの前みたいな……機械!落ち着いて戦ってね!絶対だよ!」
「あ?うるさいな……できるだけ落ち着いてやるよ」
どうやら理性はまだ残っていたようだ。奇術師は安堵しつつ、炎禍を見つめる。
先程の蹴りにより、機械と奇術師は挟み撃ちの形になっていた。
「同時に来てもええのじゃぞ?」
「舐めやがって」
「行きますよ!」
機械は地面を強く蹴り、突進する。奇術師は腕を前に出し、魔法を放つ。そして炎禍はニヤリと笑い、2つを片手で受け止める。
濃い煙が立ち込める。煙が晴れるとそこには……。
魔法少女ふたり 十七夜 蒼 @SPUR514
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