虹の橋
@nekonoko2
第1話
「かえるさんがね、葉っぱから葉っぱにピョンって跳び移るんだよ。すごーく遠くの葉っぱまで行くんだよ」
鈴音は赤い長靴を履き黄色い傘をさして嬉しそうに話す。
「そうか、かえるさんは凄いなあ」
「うん。鈴音はね、あんなにピョーンって跳べないの」
鈴音は少し寂しそうな顔になった。
「そしたらさ、晴れたら俺とピョーンってして遊ぼう。今は雨が降ってるから濡れちゃうからね」
「うん!約束だよ」
僕は鈴音と手を繋ぎ家路に着く。手を離すとそれこそどこかに跳んでいきそうなくらいスキップしてしまうのだ。危ないので決して手離さない。
「鈴音は雨が好きだね」
「うん。雨はね、お花や葉っぱのためになってるんだよ」
「そうか。鈴音は物知りだな」
「そしてね、雨が降ったあと、綺麗な虹が出るの。鈴音はかえるさんに乗って虹の橋渡りたいな」
「そうだね、いつか行こうね」
家に着き、鈴音を風呂に入れる。身体が雨に濡れて少し冷えていた。
「さあ、ちゃんとあったまるんだぞ」
「うん。ねえ、今日はお仕事無いでしょ。鈴音と一緒に寝てくれる?」
「ああ、もちろん」
風呂を出たあと、鈴音の好きなハンバーグを夕食にだした。鈴音は嬉しそうに食べている。
食べ終わってからソファーでテレビを見ていると、鈴音はウトウトし始めた。雨の中をはしゃいで疲れたせいだろう。
僕は鈴音を抱き上げてベッドに運んだ。スースーと気持ちよく寝ているので、布団をかけて部屋を出ようとしたら鈴音が僕の服の裾を掴んだ。
「一緒に寝てくれるって約束したよ」
半べそをかきながら怒る鈴音の横に行き布団に入った。
「ごめんごめん。さあ、おねんねしよう」
僕は鈴音を抱きしめて背中をトントンと叩いた。少ししゃくりあげていた鈴音は、いつの間にか気持ちよさそうに寝ていた。
鈴音がこんな風になった原因は、彼女と結婚し、2年が過ぎた雨の日に起きた交通事故だった。あれから半年、頭を強打した後遺症でだんだんと幼児退行していったのだ。脳の深い血管に瘤ができ、手術では取れないらしい。いずれこの瘤が破裂すれば鈴音の命はない。そんな彼女が僕といる時には幸せそうな顔をしてくれる。
彼女がかえるの背に乗り、虹の橋を渡ってしまうまで、僕は彼女の傍を離れない。
虹の橋 @nekonoko2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます