二章 オタクJK、冒険者にジョブチェンジします

宿屋さんのおいしい朝食

「おはようございまーすっ!」



 身支度を整えた私は、宿屋さんの一階、食堂へ向かった。

 すでに朝ごはんのいい匂いがしてきて、思わずゴクリとつばを飲んでしまう。



「あら、カエデちゃん。おはよう。昨日は良く眠れたかしら?」



 くるり、と振り返って問いかけるのは、この宿屋の女将、リナさんだ。

 長い藍色の髪はピンク色のリボンでひとつに束ねられていて、こちらに向けられたリボンと同じピンク色の瞳は優しげ。若い人のはずなのに不思議と包容力があった。



「はい。とってもよく眠れました!」

「それは良かったわ。もうすぐ朝食が出来るから、少し待っててね」

「はい!………あっ、何かお手伝いしましょうか?」

「あら………ふふ、カエデちゃんったら優しいのね〜。でも大丈夫よ、ありがとね」



 にっこり笑顔で言われてしまっては、私もそれ以上食い下がれないので、テーブルへ向かう。

 うぅ、皆さんが働いてる中で何もしてないの、辛い……………

 少し居心地の悪さを感じながら、セーラー服のリボンをいじいじしてみたり。


 私が通っていた高校の制服はセーラー服だ。といっても、胸元にあるのは一般的なスカーフではなくリボンなんだけど。

 ちなみにこのセーラー服も異世界に来た時にクレアちゃんたち神様が作ってくれた物で、なんと汚れないし破れないらしい。


 洗濯いらず!すごい!



 ………………なんて考えていると、大きなお盆を手にしたリナさんがやってきた。



「カエデちゃん、できたわよ〜」

「わぁ…………!」



 出てきたのは、バターの香るクロワッサンと、コーンポタージュのスープ。そしてお肉と卵を一緒に焼いたベーコンエッグだった。



「おいしそう………」



 思わずもれたつぶやきに、リナさんがふふふと笑って答える。



「おかわりもあるから、エンリョせず食べてね、カエデちゃん♪」

「い、いただきます!」



 ★★★★★★



 で、結局おかわりまでしてしまいました。


 だって仕方ないじゃん、おいしかったんだもん。なんかもぉ絶対あの料理には魔法かかってるって。美味さ半端ないって。


 そんなこんなで今、私は食堂のテーブルに着きながらローザさんを待っていた。

 なんでも、クレアちゃんに頼まれたお仕事の、『討伐』のほうに冒険者登録をする必要があるそうだ。

 それに、世界の『創造』をするために色々なところへ行かなきゃいけないから、冒険者登録をしていると、入国審査等がスムーズになって便利なんだとか。


『まぁ、主の力を使えば侵入とかはたやすいですけどねー』


 とクレアちゃんは言っていたけど、さすがにそれはちょっとアレだし…………


 まぁ、何事も穏便に、が一番いいよね。



 今の私の格好は昨日と同じ。セーラー服にローファー、赤いシュシュで茶色がかった黒髪を耳の下で二つ結びにして、前髪は左側の髪をを少し✕字にとめ、あとは下ろしている。

 しかし、ひとつだけ加わっている物があった。


 今、椅子にかけられているカバンである。

 このカバンは昨日あの後に作ったもので、モデルは私の学校の学生カバンだ。

 ちょっとレトロなデザインのカバンは、キャラメル色の革製で、手に持つことも出来るし背負うことも出来るというスグレモノ。


 デザインが可愛くて気に入っていたので、異世界でも使えてうれしい。


 このカバンの中には現在、『創造はじまりの本』と『つむぎ硝子筆ガラスペン』が入っている。

 このカバン、アイテムボックスみたいな感じでいくらでも入るし、入れてる間に壊れたり経年劣化したりもしないんだよね。すごーい、◯次元ポケットみたい。


 ちなみに、このカバンの設定に『秋月 楓が昨日から使っている』と書きこんだので、「あれ?そんなの持ってたっけ?」となる心配もない。



『さーて、そろそろですかねー?』



 クレアちゃんの声が上から聞こえるのと同時に、宿屋さんの扉のベルが、チリリン、と爽やかな音を奏でた。



「おっはよーこざいまーす。レナ、カエデはいるかい?」

「いらっしゃいローザちゃん。テーブルの所にいるわよ」



 扉から入って来たのは、茜色の髪に黄色い瞳、皮の鎧をまとった、どこかカッコいい雰囲気の女性―――――――ローザさんだ。



「ローザさん!」

「おっ、おはようカエデ。昨日は良く眠れた?」

「はい!とっても!」


 カバンを背負いながら答えると、ローザさんは満足げに微笑んだ。





「じゃあ、まずは行こうか…………冒険者ギルドへ!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

すみません、この話を書くにあたって、ローザさんとレナさんの互いの呼び方を変更して、「女将さん」「ローザさん」から「レナ」「ローザちゃん」にしました。


「色々あった一日でしたね、マジで…………」の方も変更になっています。

急な設定変更ごめんなさい。


次回はドッキドキワックワクの冒険者登録!

楓の選ぶ職業ジョブは何でしょうね…………?


(えっ?考えてないなんてまさかそんなことはありませんよ?)

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