第参十八話! 事件当日! 日脚を拘束した警察官はその後、2か月の再発防止研修と停職処分となった!

 4月20日 和光市民病院 一般病棟


 先生曰く、俺の精神状態が安定したのは入院して5日後の事だった。


 事件当日。俺は腕に手錠を付けられ病院に送られた。搬送した救急隊の人は、壊れたみたいに泣き叫んでいると俺の状況を病院に伝えたみたいで、着くと一般病棟ではなく精神病床がある閉鎖病棟に運び込まれ、手足を拘束して治療を受けた。幸い大きなケガは無く、打撲や擦り傷程度だったみたい。その日の昼過ぎには母さんが来たみたいだが、面会謝絶により合う事が出来なかった。


 1日目。夜中に40度を超える高熱を出し1日中うなされ、点滴による投薬治療を行った。しかし、なぜか高熱の原因がわからなかったと言う。それでも事件当日ほどではないが泣き叫んではいた。


 2日目、3日目と徐々に熱が下がり、精神状態も安定したみたいで閉鎖病棟から一般病棟の個室に移され、母さんもやっと面会が出来た。死ぬほどうれしかったらしく先生にも静かにするよう注意もされたが、事件当日から3日までの記憶が無い。


 4日目。この日からの記憶は鮮明に覚えている。朝7時に目が覚めて、ベットで朝食を食べていると一人のおじさんが入ってきた。上着からドラマでよく見る黒に金文字で書かれた警察手帳を見せて来て、「本田日脚君? どうだい体の具合は?」と聞いて来たので「はい......何とか大丈夫です」と答えた。


 「そうか、それは何よりだ。突然驚かせてすまない、容態が安定したので事件に全容を話しておこうと思って」事件の全容......聞いた瞬間。断片的ではあるが、頭の中で当日の記憶をが蘇った。「つらいとは思うが、最後まで聞いてくれるかな」俺はゆっくり頷くと、警察のおじさんが語り始めた。


 事件の犯人は2年1組の増田雄大、入学式にボコボコにした上級生だった。動機はもちろん暴行された復習。


 そしてもう一人、南高の生徒が関与していると取り調べで分かった。名前は不明。事件を裏で計画、実行した真犯人。


 事件の発端は増田がこの生徒に相談した事から始まった。10万円......決して高くは無いが、払えなくもない金額で請け負ったと思うと身の毛がよだつ。増田が学校で逐一俺と会長の行動を知らせていた。


 そして事件前日の夕方。正門で西高の成田さんとの立ち話を利用され、対立関係にある西高の沢渡呉羽率いるみるくてぃーと東高の新井真澄率いる真澄会に、うちの会長と成田さんが共に手を組んだと嘘の情報を流し利用した。


 みるくてぃーは自身の高校を、真澄会は俺の高校を裏を合わせて同時に襲った。襲撃された時間、俺は外でのんきにばななちゃんと一緒にいた。警察はばななちゃんが朝うちの学校に来たのは俺を外に誘導させる作戦の一部ではないのかと考えているが、当の本人はまだ同じ病棟で目が覚めておらず、詳しい話を聞けていない。


 鈍器で頭を強く殴打、命に別状はないがそれが原因で今も昏睡状態。医師によると今のところ覚醒する兆しはないとの事。


 「ところで会長は! 石浦瑛馬さんはどうなったんですか?」


 「石浦さんなら......」警察のおじさんが会長について話そうとした時、病室の扉が開いた音がした。


 「............ひあしくん......」扉の方を向くと、スイカの断面が印刷された白いパジャマ姿に髪を降ろした女の人が立っていた。


 「日脚君のお友達?」


 「さ、さぁ? わかんないです」


 「わ、私だよ日脚君!」髪を束ねて後ろで掴んで「生徒会長の石浦よ?! わかる、せ・い・と・か・い・ちょ・う!」


 「あ......あぁ......!」そこにはいつも学校で見る会長の姿があった! 「あぁ......か、かいちょう......ぶじでよがっだ......」いつもと変わらない会長の姿に、目の奥から自然と涙が大量にあふれる......


 「うん......無事だよ」ベッドの脇でお互いが無事である事を確認し共に安堵の気持ちに浸っていた。


 警察のおじさんによると、食堂から自分の部屋に向かう途中3階で増田と鉢合わせし、鈍器で窓ガラスを割って脅され、そのまま4階の旧資料保管室開かずの部屋に監禁された。


 部屋には増田以外に3人の生徒と南高の奴がいた。会長の証言では、みんな増田と同じ鈍器を所持して弄ぶように体中つつかれ、常時殺意のようなものを向けられたと言う。その中でも増田は人一倍多く、何度も頭に鈍器を振りかざし寸止めで止めを繰り返して会長のこわばる顔を見て笑っていた。


 そして会長のスマホをとパスワードを盗み、俺に到底無理である校内にいるヤンキーを全滅させたら会長を解放してやると脅された。必死の抵抗むなしく、グランドでヤンキー達に取り押さえられ、スマホ越しに会長が撲殺されたと思っていた。


 しかし会長は背中と左腕の打撲とだけ診断された。


 「実はね......いざ本気で私を殴ろうと振りかざしたんだけど、自分がしている事に怖気づいたみたいで、ためらって躊躇してたの。そして一か八か、タイミングよく鈍器が当たる寸前で倒れて殴られたふりをしてみたの! これが上手く行っちゃってね......少し側面には当たったけど、死んだふりをしたらいきなり追い打ちで背中と左腕殴らオーバーキルれちゃって。痛すぎて泣き叫びそうになったけど、必死に死体役演じてやったよ!」


 これが会長が軽傷で済んで、俺が死んだと思いこんだトリックだ。「ホントに......すぐ頭のおかしい事思い付くんだから......」


 「ごめんね、また心配かけちゃって......でも日脚君が助けに来てくれるって信じてたかからこそ出来たんだよ!」


 でも俺は助けられなかった......会長を助けたのは安西だ。学校が襲撃された時、校内にいたほとんどの不良を安西が倒してくれた。そして会長の場所を探し当てたのも彼だ。なのに俺は南高の奴に嘘を吹き込まれて、安西を犯人だと決めつけ襲った。


 「以上が調査で分かった事件の詳細。それと当日、通報を受けて校内に踏み込んだ警官が勝手に日脚君を犯人だと思って拘束してしまい、ホントに申し訳ございませんでした」


 最後に警察のおじさんが謝罪の言葉を述べ、部屋から出て行った。


 色々と疑問が残るが「会長......」


 「なに? 喉乾いた? オクトコ買って来ようか?」とてもじゃないけど炭酸なんか飲める気分じゃない......


 「なんでパジャマなんですか......」


 「えぇ?」自分の着ている服を確認して「ギャアア?! ホントだ!!!」驚いて俺の布団を奪ってパジャマを隠した。


 「ちょ! それ俺の布団なんだけど......」話の最中ちらちら視界に入って来るスイカの断面が気になって仕方が無かった......「なんでそんな恰好で来たんですか、服ぐらい着替えればいいのに......」


 「朝ご飯食べてたら、ママンが慌てて日脚君やっと面会できるようになったよ! って言われて......嬉しくなってそのまま走って来ちゃった!」嬉しいけど......なんか複雑だ。「すぐ! 着替えてまた戻って来るね!」


 「え、戻てくる?! あぁちょっと!」慌てて部屋から飛び出てちゃった......

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闘魂技 タコス総督 @takosu

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