闘魂技強化編
第参十七話! ヤンキーの世界には、2つの生きる伝説が存在する! 今でも語り継がれ、ヤンキーどもの目指す的となっている!
「急遽この時間は番組の内容を変え、報道特番を放送いたします」升アナウンサーの落ち着いた言葉で収録が始まった。
埼玉県立和光第二高等学校で起きた暴動事件は、あの後瞬く間に全国区規模のニュースとなった。報道番組は連日この話題を取り上げ、著名な教育学者などをお呼びして、日夜学校教育の見直しについて議論している。
私もテレビ局の意向である人物と特番を製作する事になった。この私に一体どういう番組を作れと? 令和の時代にヤンキーの抗争が起きるなんて誰が予想できた? しかも息子の高校だなんて......周りからは少し休めと言われるが、仕事をしないと何かに押し潰されてしまう......
「え~では、本日は専門家の方をスタジオにお呼びいたしております。満天堂大学で生物学の研究をしております、早乙女一花教授です」
いつも収録の時はスタジオの片隅でコーヒー片手に進行を見守るが、この日はなぜか手の震えが止まらない。
「本日はこのような場を設けていただきありがとうございます。短い時間ではございますが、どうぞよしなに」
早乙女一花......奇抜な紫の長髪をシャーペンをかんざし代わりに後ろで止め、ブルーライトカットの丸メガネに薄汚れた白衣を着た女性。まるでアニメの怪しい科学者みたいな風貌。企画書で見たまんまの姿でスタジオに立っている。
「え~では簡単に経歴を紹介しますと、22歳で満天堂大学に入学。生物学を専攻し、大学院で博士号を取得したのに現在は大学で教授をなさっているとの事......あれですね、随分入学が割と遅めですね」
「えぇよく言われますよ。二つあって原因があって、一つは一浪したんですよ。こんな見た目ですんで、あまり頭が良くなくて」自虐のつもりなんだろうが、升さんが申し訳ないって顔してるぞ。「二つ目は、みんながせせこま受験に勤しんでた時......私はベッドで意識を失ってたんです」
「......大変失礼な事を聞いてしまい申し訳ございませんでした......」
「いや、いいんだよ! つらい過去は笑い飛ばすにかぎる!」スタジオ中に響き渡る高笑い、いるのよね......不謹慎な事でしか笑えない奴。
「えっと、それで現在は生物学の研究の傍ら、大学での授業、雑誌でコラムの連載、
「恐眠症と言いますか、眠る事に強い恐怖心を抱くんですよ。常に体と頭を動かしておかないと落ち着かないんですよ。そのため、よく仕事が早いってお偉いさんにはしょっちゅう褒められるんですけどね!」また高笑い......だから笑えないって、若いADさん引いちゃってるし。
「ハハ......え~では、今も生物学の研究をなさっているのですが、具体的にどのような事を研究しているのですか? 生物学と言いますと、人間も含めた生き物全般が対象ですからね」
「私の対象は人間。その中でも非行青年と限定的に絞って研究しています」
「非行青年......ですか?」
「わかりやすく言えば、ヤンキーの研究です」
「や、やんきーのけんきゅう? ぐ、具体的にどのような......」
「知ってますか?!
「さ、さぁ......なぜなのですか?」升アナを含め、全員が理解できず首を傾げた表情を浮かべる。
「誰もがヤンキーにはなれず、選ばれたごく少数の少年少女しかなれないんです」
「え、選ばれた......えぇ! す、すいません!」冷静で落ち着きが売りの升アナがNGを出した?! 台本ではすぐに聞き返す段取りなんだが......「もう少し具体的に言いますと......」
「
「え~そうなんです。なぜ番組側は生物学に精通した方をお呼びしたかと言いますと......今の時代のヤンキーと呼ばれる青年達には、闘魂技と呼ばれる未知のエネルギーが体内にあるのではないかと示唆されているのではないかと」
「示唆されてますも何も、事実宿っているんですよ」
「ではですね、番組を見ている方々に闘魂技とはいったいどういったものなのか? 今一度ご説明のほどお願いしても......」
「ええ勿論。闘魂技とは、ヤンキー達の体に宿る謎のエネルギー。目視で確認できず、無味無臭無色透明。それはヤンキー達の闘う活力であり、技を繰り出す為の燃料。ごく一部の人間の体内に先天的に封印されており、解放するには体に闘魂技を喰らわないと解放出来ない」
「えぇこのように闘魂技とは......」
「以上が去年論文にまとめた内容ですが、その後の研究ではより詳細なメカニズムの解明に成功しました!」うん? この部分は台本に無い、段取りと違う! 「ますヤンキー達に宿る謎のエネルギー。これを闘魂エネルギーと名付け、このエネルギーが心臓で生成、蓄積される事が判明したんです! そう、これを私は闘魂エンジン......」
「ちょっと! 一回カメラ止めろ!」ヒートアップしてこれ以上段取りを乱す前に慌てて止めに入る! 「今のところ、台本には載ってませんが! ちゃんと台本通りにやってもらわないと困るんですが......」
「ごめんごめん、つい熱くなちゃって」
「つい熱くって......ホント、頼みますよ......」
「わかってるって、でもちょっと休憩したいな。喋り過ぎて喉乾いちゃった」
「はぁ......10分休憩!」周りのスタッフに呼びかけ収録は一時中断した。
「ねぇ、ちょっといいかな」いきなり声をかけられ、「あれから5日だけど、日脚君どう?」スタジオの隅で立ち話を始めた。
「少し落ち着いた。このまま治療を続ければ週末前には退院できるらしい」
「そう、後は彼自身がトラウマを乗り越えるしかない。時間はかかると思うけど、闘魂技は宿主の精神状態に左右されやすい。トラウマや強い憎しみ殺意といった感情が強ければ強い程、陰が増幅して支配される」
「......本当に闘魂技とかいうくだらない物が存在すると信じてるわけ?」
「それはあなたが一番わかってるんじゃないんですか? 昔なんて呼ばれてましたっけ? まさか忘れたわけじゃ......」
「昔は捨てた。日脚とこの仕事が私の全て」
私に過去なんてない、だからこの女の言う事なんて1ミリも信じない。
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