第3話 怪盗と名探偵の日常その3
身を潜めながらビルの地下駐車場にたどり着いたガイストは、待機していたバンに密かに乗り込んだ。
「お帰りなさいませ、タケルさま」
運転席に座るカトウが振り向いて言った。
「様子はどう?」
ガイストが運転席を覗き込むと、カトウがカーナビの画面を切り替える。
画面には街中に設置されている監視カメラをハッキングした映像が映し出された。
「予定どおり、警察はガイストの姿を模したカモフラージュドローンを追っていますな。ロア様たちも同じくですが、ロア様の事ですから。じきに気がつくとおもわれます」
ガイストは、仮面を外した。加工された声は地声に戻る。
「だろうね。でも、明日は機嫌が悪いぞ」
「では、覚悟されておいたほうがよろしいかと」
「慣れてるさ」
ガイストの服装から着替えたタケルはノートPCを開くと盗ってきたUSBメモリーを差し込んだ。
「暗号ロックがかかってるフォルダがあるけど……無駄なんだよね」
タケルはロックを解除してしまう。
フォルダが開き、データが表示された。
「おっ……あるある、スパイラルのダミー会社へ金の流れがばっちり記録されてる」
「やはり、犯罪結社スパイラルの関係会社でしたか」
「ああ、表向きは健全な企業だったが扱ってるのは品物だけじゃないってわけだ」
「いかがなさります?」
「ネットに流しても大したダメージはないだろうさ。それにガイストのダイヤモンド騒動に目を奪われてデータを盗まれた事は気づいてない筈さ。奴らの動きを把握するのに僕がうまく使うさ……ん?」
「どうしました?」
「いや、このファイルなんだけどね……」
それは、十年前に世間を賑わした怪盗紳士についての調査報告書だった。
怪盗紳士とは、世界的大泥棒だ。
覆面で顔を隠し、予告状を出して盗みを働く怪盗で、いまだに警察には捕まっていないし盗難品も見つかっていない。
その金額は国家予算級だという噂だ。
盗みのテクニックは大胆不敵で巧妙。
タケルはその盗みのテクニックを徹底的に研究し、ガイストとしての仕事に活かしている。
だがそれはついで。
実のところ、タケルが怪盗紳士を研究しているのは、そのキザな行動なのだ。
盗む家に美女がいたら紳士的で華麗な振る舞いで美女を口説き落とす。
怪盗紳士のロマンスの噂は山ほどあるのだ。
奥手なタケルには、まさにこっちの方を手本にしたい相手なのだ。
なぜならタケルは……
「タケル様」
「えっ! な、何?」
「その情報はもしかしたら古いものなのでは?」
「え? ああ、そうかもね……いや、更新の日付がごく最近になってる。でも、昔の怪盗の情報をなんで今頃集めてるんだろう?」
「何か裏がありそうですな」
「うん……僕は、このデータをもう少し洗ってみる。今夜は徹夜になるかな……あっ! 明日は日直だった」
タケルは明日の学校の事を思い出した。
「では、データは私が調べておきましょう。学校生活に滞りが合ってはよくありませんからね」
「ありがとう。頼むよ」
カトウの運転するバンは地下駐車場から走り出した。
怪盗は名探偵の心臓(HEART)を狙う ジップ @zip7894
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