推し

ネルシア

推し

「皆の者!!集ったか!!」


画面に向かい叫ぶとコメントで応!!と答えてくれる。


「今日やるゲームは前回から引き続きの、『Where do you want to go?』!!!!」


コメントで

また切れ散らかりそう。

キレ芸期待してます。

怒ってるときの素の声好き。

などなど流れる。


そうしてプレイ開始して、切れながらゲームを進めて、配信して、終わる。

同時視聴者数4万人。

登録者数は14万人。

今後もっと増えるだろう。

配信を終え、ヘッドディスプレイなどを取り外し、天を仰ぎ、ふぅとため息をつく。

目をつむって秒を数える。

1,2,3,4,5・・・。

10まで数えてゆっくりと目を開ける。

開いていた自分のアカウントから、自分が見るようの別のアカウントを開く。


登録チャンネル数、1個。

動画投稿、なし。

プロフィール画像、デフォルト。

チャンネル名、適当。


登録チャンネルの新規投稿1件あり、心臓の鼓動が速くなる。

そのタイトル名

「寝かしつけ。」


その時点で背筋から脳へと電気信号が駆け巡る。

私の激推しの底辺ASMR投稿者。

登録者数100数十名。

投稿動画数、178。

最高再生数、32。


本当に底辺中の底辺。


心を落ち着かせ、動画を開く。


ごそごそと布の音が聞こえる。

おそらく、布団に潜り込む音だろう。

自分が布団に入っている妄想を膨らませる。

イヤホン、音量ともに完璧。


「どうしたの?」


始まった。

あぁぁぁぁ…この声だよ…。


「眠れないの?じゃぁ、よく寝れるようなおまじないしてあげるね。」


「いい子、いい子、今日もよく頑張りました。私のために明日も頑張って?」


またもぞもぞと布のこすれる音。


「ふふ、今日はいつもよりあまえんぼだね。

 でも、寝ないと私のために頑張れないよ?」


プロの声優じゃないから活舌よくないし、

訓練を受けていないから声圧も強くはない。

特別可愛い声ではないし、かっこいい声というわけでもない。

魅力のある声か、と聞かれるとそういうわけでもない。

でも、私はこの声に脊髄が反応してしまう。


「ほら、ねーんね、ねーんね、ねーんね…。

 ふふ…可愛い寝顔…。お休みなさい。」


そして最後にキスの音。


ごちそうさまでした。

ゲーミング用チェアで正座してお辞儀する。

はぁ~、一体どんな子なんだろうなぁ・・・。


でも、その疑問はすぐに解消されることになる。


学校でぼけーーーーーーーーーと過ごす。

別に学校内では目立った存在でもないし、絡む友達もいない。

勉強もできないわけではないし、運動もそこそこできる。

ただ、いわゆるクラスのマドンナってわけでもない。

普通のモブキャラ。


学食行こ。


普段絶対に行かないが、なぜかその日は行く気分になった。

何が売ってるんだろうなぁとぼんやり考えつつ、学食に行くと、真ん中にうるさい集団がいて思わず顔がゆがむ。


適当に総菜パンを買い、椅子に座り、頬張る。

食べてる最中、嫌でも、うるさいグループの話し声が聞こえてくる。


「ねぇこれ見てみてマジやばくない!?!?」


「うっわほんとだ!!ヤバ!!!!」


「えーどれどれ!!?!?」


最後の声にびっくりして勢いよく振り返ってしまった。

聞き間違い・・・?

そう思って止まっていた食を進める。


「うわ、これマジwwww」


いやいやいや、聞き覚えありすぎて困るんだが?

間違いない。

私の激推しの声ではないか。

まじかー、こんなギャルだったとは・・・。

学食にいる間は気になって気になって何回もチラチラ見てしまった。


そしてチラチラ見てりゃ向こうも気が付いて一瞬だが目が合ってしまう。

急に恥ずかしくなり、思わず目を逸らして勢い良く立ち上がり、その場を去ってしまう。


クラスに戻って授業受けてても頭の中はヤバいでいっぱいになってしまった。

今日の授業が終わっても頭の中がグルグルする。

クラスに残っている人もまばらになっているのにも関わらず、席から立つことができない。


「お、いたいた。」


頭に突き刺さる憧れの声。

私じゃありませんようにと祈ったが、それは届かず。

逃げるように帰ろうとしたが、腕を掴まれる。


「話があんだけど。」


「ひゃい。」


涙目になりながら強引に連れていかれる。


「まぁ、この辺でいっか。」


憧れの人が周囲に人がいないのを確認すると息を深く吸い込んだ。


「間違ってたら悪ぃんだけどさ……。キレ様で間違いないですか……?」


思考停止に陥る。

多分向こうからしたら宇宙顔になっていると思う。

確かに顔出し配信してるけど、バレないように化粧はしてのに……。


「あ、えっと、そのぅ……。」


歯切れが悪くなる。


「ど、どうなのよ。」


向こうもモジモジしてる。

?がどんどん増えていく。


「……はい。私がキレで間違いないです。」


観念して俯く。

てか、なんか私だけ身バレするのズルくない?

そう思うとムカついてきた。

私ではなく、キレになるのが分かる。


「そういうあんたはあまやかチャンネルじゃないの!?」


「え!な!」


驚いているのにの関わらずまくし立てる。


「知ってんだからね!!コメントで男たちの欲求に応えてちゃんとその旨の動画作ってることとか!!しかもコメントすると前コメントした人の事覚えてるし!!私あんたの声好きすぎなんだよバーカバーカばーか!!!!」


ふーふーと威嚇する。


「えっとぉ……。ちょっと我慢できないかなぁ。」


身長は相手が高く、私はチビだ。

私の両腕を片手で壁に固定する。


「そんなに可愛くキレられると意地悪したくなるなぁ……。」


あの憧れの甘い声で自分がとろけてくのが分かる。

ギャルって思ってたけどよく見るとカッコイイのも相まって照れ隠しでまた喚き散らかしてしまう。


「別にあんたの声が好きなだけであってあんたなんてどうでもいいもん!!」


「ふーん、これでも?」


頭に残ってる手を乗せられて優しく撫でられる。


「よしよし、そんなに怒んなくても大丈夫ですよー。」


「あ……あう……。」


まさに絶句。


「いい子いい子。私の事しゅきですか〜?」


「うん。」


食い気味に返事をしていた。


Fin.


あとがき


3億年ぶりくらいですね。

小説書こうと思っても元気なときで無いと書けないのが中々辛い。

多分そんなに書くのが好きでは無いんだろうなぁという自己分析のお話でした。


また5億年後くらいに。

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