森の中、目覚めたら動物になっていた
黒白 黎
第1話
暖かい布団の中で眠っていたはずが、気づけば森の中にいました。周りは鬱蒼とした緑に包まれており、獣道もなければ指標もありませんでした。円を描くようにしてぽっかりと開いた空は青く白い雲が優雅に泳いでいることから風がわずかながら吹いているのがわかります。
体を起こすと目の前に何かがいるのと同時に自分の体に異変を感じます。
「え」
体は動物のようで毛がふさふさで手は人間のようでありましたが、足は大きくどっしりとしていました。靴はなく裸足でありますが爪が飛び出ている辺り何らかの動物のようです。
そして気づきます。目の前に二足歩行の動物が立っていることに。
「な、何者だぁああ!!」
目の前の動物が急に叫びびっくりします。ですが、それと同時に同じ動物でありながらちゃんとした言葉で話していることに驚きます。
「しゃべったぁあああ!!」
「しゃべったぁあああ!!」
相手も同じようにオウム返しします。
「ていうか、俺もオオオ!!」
自分も同じように喋れることに驚きます。
「ていうか、手足変。なにこれ、どういうこと!?」
「あ、あなたも私と同じ何ですか?」
そこに森の中から見慣れない動物が出てきました。姿からして梟のようです。羽毛が柔らかそうで「抱き枕だ」と、自分の中で飛びかかりそうな気持を押さえつけます。
「あ、あなたも…って、あなたもですか?」
少しきょどりながら動物は不思議そうに尋ねます。
「実は私もです。朝おきたらこうなっていました。私を見て、あなたたちはどんな生き物に見えていますか?」
手で羽ばたくようにして浮こうとしています。その姿からして二人は答えます。
「梟ですね」
「梟です。毛深い」
「そうですか、梟なんですね。ですから鳥みたいなんですね」
梟は妙に納得しているようでした。特に体の変化に驚くこともなく普通にしゃべっていることにも気にする様子はありません。
「ところで、俺達はどんな動物かわかりますか?」
梟は腕を組みながら、こう答えます。
「ビーバーだと思います。あなたは豚だと思います」
梟は素直に答えた。
「ビーバーって、え、俺、普通にしゃべっているけど…あああああああああって言わなあかん?」
ビーバーの急な叫び声に梟とブタが驚きました。
「えっと、あの、貴方の名前はなんですか?」
「ああああああああ」
「私の名前はユニといいます」
梟がそう答えるが、ビーバーは叫びます。
「ああああああああ」
無言で梟がブタに指さします。
「わたし? あっしはガブリと申します」
最後にビーバーに名前を尋ねようとしますが、
「ああああああああ」
「意思疎通できなさそうですね。どうやら野生に戻ってしまったようです」
諦めて二人で話しを勧めようとしたとき、開き直ったのか突然こんなことを言いだします。
「俺って、元人間なんだけど、信じる?」
「は?」
梟とブタは意味不明だという顔をしました。
「俺って、人間って言ったら笑う?」
「えーあなたは頭でも打ったんですか」
梟の素早いツッコミにブタは笑うしかなかった。
ビーバーはブラックと名乗り、決着はしたものの、森の中からどう外に出るのか考えていました。
「ブタさ、鼻で道を見つけられない?」
「あたしはガブリ。そう命じたはずだ」
キッと睨みつかせた。それにゾワッと背中の毛が立ったような気がして、ユニの後ろに隠れる。
「実際はどうなんでしょうかね。有名なキノコを見つけるってぐらいだし、嗅覚は鋭いのですよね」
ユニの問いに「有名なキノコ…は知りませんが、あいにく無理みたいですねー」と自分ではできないとガブリはそう言った。
「なら、空から見下ろすってどうでしょうか。ちょうど空を飛べる梟ですし」
ガブリの提案にユニは賛同する。
「いいですね。やりましょう。ですが、空を飛べる自信がないので、失敗しても笑わないでくださいね」
「誰が笑うか。誰にでも失敗はあるもんですよ」
ブラックがそう励ますように言うと、ガブリが「あーちょっと離れてもらってもいいですか?」とブラックを払いのけようとする。
「あっちょっと、待ってよ、ねえ」
ユニからブラックを放した。どうやらブラックはユニの羽毛にしがみついていたようだ。モフモフとした柔らかさに睡魔が襲うかのようで、半分寝ぼけてしまっていたようです。
「ユニはあなたの寝袋ではありませんよ」
「ちぇっ」と諦めた。
地面に向かって両手で羽ばたく。地面をけり上げ風が上へと噴き上げると同時に羽ばたき、空高く飛んだ。ユニはあたたかも空への自由を手に入れ、大いに泳いだ。そして森から外へ出られる道を見つけると、その方向へ誘導するかのようにブラックたちの上へと離れなようにゆっくりと飛行しながら森の外へと案内した。
森を抜けると、大きな村に出た。家自体は数少なく見ずぼらしい。町みたいに大きな建物はなくどれも木造かレンガで作られている。非常に貧相で着ている服は何年も着ているのかボロボロだ。
畑は大きく、昔プールで五十メートルを泳いだ過去の経験からそれ以上の面積があることが伺える。道行くなり進むと、大きなお屋敷のようなものがあった。ただ、中はガラガラでなにもなく。残っているのはベッドとテーブル、数人の椅子しか置いてなかった。
「あら、なにかご用?」
村人であろう人間がこの家を見ていた動物たちに話しかけた。
「えーっと、あたしらを見て何も思わないんですか?」
動物の姿で人間よりもはるかに大きい。そのうえ見下すような人間の頭よりも数センチほど高い。
「別に驚くことはないわよ。ここの家主にご用?」
人間は驚くことなく、この家の主にご用はあるかと尋ねた。
特にご用はないのだが、なにか気になる物があり、人間に尋ねてみる。
「一応、ここに住んでいる方はどこにいるのですか?」
「そうね。今は外に出ているわね。何でも弟子がいなくなったからって探しに行っているわね」
「弟子…ですか」
「そうよ。たいそうに可愛がっていたわよ。なにせこの村では子供がめったに少ないし、なによりも食べて行くだけでも大変なのよ。もし子供でも生まれたら川に流されるか山に埋められてしまうわね」
生活が苦しいのか。だからこの村では子供を見かけないのか。
「そのお弟子さんはこの村の生まれ何ですか?」
「そうね。唯一の子供ね。私たちはとてもじゃないけど川に流すよう提案したんだけど、聞き入れてくれなかったわね。弟子として認めて以降、一緒にいるわね」
「先ほどから川に流すとか山に埋めるって、どういうことなんですかね」
ユニの問いに人間は特に気にかけることなく素直に答えた。
「私たちの村ではね。悪い子供は川に流して浄化し、良い子供は山に帰してあげるの。川で流すことで穢れがとれて、浄化され、山に帰される。山に帰された子供は山の一部となって、この村に富をもたらせてくれる。そういう考えなのよ」
「へーそうなんだー」
ブラックは特に気にすることなく納得した。
「ところで、ここで物知りな人って知っている? できたら教えてほしい」
「え、家主に用じゃなくて?」
ガブリが慌てて切り替える「本当は家主に用があるんだけど。家主がいないんじゃ、どうしようにもないから、他に頼れそうな人っているかなって」
人間は「そうね…」と言いつつ、考える。しばしの後「この村の上にお店があるからそこへ行ってみるといいわね。あそこなら町へ出かけることもあるし、なんらか知っているかもしれないわね」と丘の上にある家に指さした。
「どうもありがとうございます」
ユニがお礼を言うと「別にいいのよ。困ったらお互い様でしょ。そうだ、もし家主が戻ってきたらお客様がいらっしゃったわよって伝えておくわね」とそう言って別れて行った。
「よし、情報ゲットだぜ」
グッドポーズをかますブラックに「お前、なにもしてねえーだろ」とガブリからツッコまれた。
丘の上にある家に入ると、左右に棚が置かれており、見たこともない品物が置いてありました。それぞれ手ごろな価格で販売されているものの、この国における通貨は誰一人として持っていませんでした。
店の中は窓の外から太陽の日差しが入るためか明るく、電気もいらないほどでした。
「いらっしゃいませー」
ぽっちゃりとした店主が暖かく出迎えてくれます。
二人を後ろにブラックが先頭立って店主の前に立ちます。
「情報くれ」
「は?」
ガブリは思わずツッコミを入れます。
「単調だな」
「動物の姿であなたよりも大きいのですが、気にしないですか?」
ユニの問いに店主は「いんや、気にしはしねーよ。町でもあんたらみたいなやつらはいるからな。それよりも、品物を買うっていうような奴じゃないな。なんだんだ、お前らは」と明らかに警戒されています。
「ブラックが余計なことを言うから」
「ゲームなら普通情報だろ。情報くれってだけでいいんじゃん」
「手順っていうものがあるんだよ。いいから、お前は黙っとけ」
二人を遮りユニが問う。
「私たちは旅のものです。実は、町から来たんですが、どういうわけか眠っている間に森の中に置き去りにされてしまったみたいで、荷物がなにひとつないんですよ。それで、この姿と言い、店主さんならなにかしっていないかなって」
「そうか。おまえたち強盗に襲われたのか。それは災難だったな。町から出ると盗賊や山賊といった奴らがいてな。俺らでも大金をはたいて護衛をつけていくんだが、そうか、わかった。とりあえず、俺の方で警察に連絡しておこう。もし、あんたらの荷物がわかれば対処しやすいはずだ。具体的なことを聞かせてくれ」
妙に心身と対応してくれる優しい店主さんだ。しかし、ガブリはなにか腑に落ちないような気がしていた。
ユニが店主さんと話している間、商品をまじまじと見ていく。ブラックも同様に付き合う。
商品棚に置かれた商品を見て、あっと思ったものを見つけた。それはガブリが身につけていたスマホが置かれていた。宝石箱に入れられ、厳重に開けられないようにしていたが、箱を揺すると中のスマホが光り、パスワードが出てきたため、これは自分達のものである事だと分かった。
それと同時に、ブラックは商品棚から目を疑うものを発見した。
アイドルを着飾った人形が置かれていた。丁重に作られており、どれも傷一つはなかったものの、すでにいくつかなくなっており、売られてしまっていることに気づいた。その中でも人形にはブラックのサイン入りが入っており、これは自分が作ったものだということがわかった。
ガブリとブラックは二人で頷く。これは盗まれたものがここに売られている。そして、店主はそのことに関与していると。
ブラックたちはユニに近づき、こっちで話せないかと誘った。
「なあ、やっぱ変だぜ」
ブラックの違和感にガブリも同じように反応する。
「店主やっぱなにか隠してる。ここにあるもん。あたしたちの荷物だよ」
ユニも心底頷く。
「だよね。それも思った。けど、店主を揺さぶろうにも口、堅そうだよ」
「なら、褒めて吐かせる」
ブラックの提案に二人は気は乗らないが「それしかないか」と納得した。
「店主さんは美男ですね」
「かっこいいな~」
「男前です」
突然褒めだす三人に店主さんは怪しいながらも滅多に褒められたことがなかったためか素直に照れだす。
「えーと、お前ら、なんだ、いきなり…」
「かっこいいな~」
「聞きましたよ。この村で一番の物知りだって」
「そうそう。私たちそう聞いてきたんです。博識だって」
「まあ、たしかに」
「かっこいいな~」
ブラックは同じことしか言っていないが、気にすることもなく話しは続ける。
「村長的な立場だもんな」
「そうそう。立候補したらいいじゃないですか」
「立候補するか」
「博識で村一番の店主。勝人なんて誰もいませんよ」
「うれしいぜ」
「かっこいいな~」
「なにゆえ?」
ユニが突然説得を中断した。かすかに怒っている様子だ。なぜに?
「あ! 冷やかしか」
「突然!? ていうか、落ち着けって!」
ガブリが二人を止めに掛かる。
「まあまあ、落ち着けって。俺に任せろって」
ブラックが二人の間に割り込み、キッと店主に睨みつかせてこう言う。
「俺達の荷物を返してもらうぜ!」
「バカだ~」
ガブリがガックリとすると、「そうだ、やれやれ!」とユニが応援する。「さっきの茶番はなんだったの!!?」とすぐさまツッコミを入れた。
「そうか。お前ら、家主に頼まれてきたんだな。動物の姿も俺を騙すつもりで来たんだな」
店主は指を鳴らすと、店の外で待機していたであろう男が二人入ってきた。それぞれ木の棒を持っている。
「知った以上は、ここで黙って返すわけにもいかない。そうだな、悪い子には川に流させてもらうぜ」
戦闘突入だ。
カウンターを乗り越え、店主がいきなりブラックに向かって襲い掛かってきた。ブラックはひらりと身をかわすと店主がもっていた木の棒に噛みつきガリガリガリと激しく口を動かし、武器を使い物にならなくする。
「おのれ! 獣め!」
仲間Aが木の棒でブラックの頭を殴りつけようとしたとき、どこかともなくブタが突進してきた。腹を打ち、そのまま店主とともに吹き飛ぶ。
「お前ら、何者だ!?」
仲間Bが出口で番をしていると、二人が睨みつかせる。
「くっ、仲間がやられちまったがな。俺はこの村一番で力持ちだ。いくら何でも家畜同然が俺に敵うはずがないんだ!」
仲間Bは木の棒を半分に折り、二刀流で構えた。
その間、ユニは捕らえた荷物を奪還するべく、商品棚から荷物をせっせとリュックの中に入れていた。
「あ、盗人の梟め! やっぱ最初からそのつもりだったんだな!! 強盗め!」
隙をつき、二人が一斉に飛びかかる。
「俺達を前にしてよそ見とはいい度胸しているなぁ」
「あたしらに勝負を仕掛けてきた時点で負けだー!」
「ぬわあああ!!!」
ボコボコにされる中、一通り回収を終えたユニが撤収だと伝えた。三人はさっさと店を後にして家主がいる屋敷に向かった。すると、家主がいた。ただ、家主を先頭に村人たちが三人を取り囲むようにして立っていた。
「騒ぎを聞きつけて、何事かと思いきや…」
「まったくどこの者だ」
「うるさいったらありしない」
村人は口々に言う。家主は「やめなさい」と言うと、村人たちは口をそろえて静かにした。どうやらこの村を仕切っているボスのようだ。
「動物の見た目をしているようだが…魔術によって変えられたようだな」
そこに遅れて仲間Aが後を追いかけてきた。
「店主と仲間Bがやられちまった。再起不可能だ」
仲間Bは三人にやられ商品を奪われたと言ってきた。
「それを奪い返したんだ。元々、荷物は俺らのもんだ!」
と吐き捨てるかのようにブラックが言った。
「とはいえ、殺したとなれば、たとえ動物に変えられた人間であったとしても、お前らは許されないだろう」
人間たちは農作物用のクワやらカマを取り出した。三人は囲まれ、逃げることはできなくなった。
それからどうなったかは覚えていない。
戦い、倒され、励まして、また戦い。それを繰り返した。
気づけば、ユニもいない。ガブリもいない。
また、森の中にいた。
体はボロボロになり、自慢だった歯もすっかり削れてしまい、痛みで立ってもいられないほど傷つけられた。後ろからナニカが走ってくる音がするも足に力が入らない。
「おのれ! 母さんの恨みだ!!」
ガツンと叩かれ、その場に倒れた。真っ赤なものが広がっていく。意識が消えていく。眠い。ユニの腹の上で寝たかった……。
目が覚めればそこは森の中。目の前にはオレンジ色のブタと山羊が石の上に座っていた。梟が上空から降りてきて「村を見つけた。どうやらこの先まっすぐらしい」と指示をしていた。
「さてと、いくとするか」
山羊が重い腰を上げると、手を引っ張っていく。
「ブラックさん。急ぎましょう。このままでは夜になってしまいます」
オレンジ色のブタがそういうなり、背中に乗せてもらう。
「やれやれ応急手当が間に合ってよかった」
「それにしても傷だらけ、なぜあの場に倒れていたのか謎ですね」
「おそらく倒れていた位置から見て、この先で何かがあったようだぞ」
森を抜けると、村があった。ただ、村にはにつかわない物が飾られていた。
「ユニ……ガブリ……!」
ユニとガブリの毛皮を剥いだものが案山子となって飾られていた。ブラックはすべてを思い出した。ユニとガブリは殺され、村人の手によって皮を剥ぎ取られ、そして美味しく食べられてしまったのだと。
山羊たちを取り囲み、クワやらカマやらを向ける村人たちを前に、山羊たちは来てはいけなかったことを後悔していた。
ブラックは豚の背中から下ろしてもらいこういう。
「お前らは森を抜けて別のところへ行け! あとは俺がやる。ユニとガブリの恨みだ」
そう言って、囮となり、村人に襲い掛かった。
山羊たちが去ったのを見て、二人だったものを視ながら村人たちを一人残らず殺していったそうだ。
それから、この村では囁かれるようになった。
親から子供へと受け継がれるかのように。
『殺した動物は川に流しなさい。川が浄化させてくれるまでは決して殺しても埋めてもだめ。彼らは復讐にくる。最後、殺してしまったら全力で逃げなさい。さもなければ、助からない』。
森の中、目覚めたら動物になっていた 黒白 黎 @KurosihiroRei
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