横浜駅のトイレでの出来事

ふさふさしっぽ

横浜駅のトイレでの出来事

『カナコの日常ブログ』


 ブログタイトル『はずかしい~~!』


 こんばんは、カナコです! いつもわたしのブログを読んでくれてありがとう! みんなのおかげで、このブログもついに、二年目突入です!

 さて……タイトルからわかるとおり、今日とってもはずかしいことがあったんです。

 もう穴があったら入りたいくらいの気持ちなので、どうか、聞いて下さい(切実)。


 今日は、横浜に住んでいる母に会いに行く予定でした。

 母は五十代半ばなんですけど、この前玄関でつまづいて、腰を痛めちゃって……。実家で一人暮らしなので、様子を見にね。

 で、いつものとおり、車で行こうと思ったんですけど、夫が使うって言うんですよ、仕事で。

 仕事じゃしょうがないですよね、わたしは電車で行くことにしました。実家まで、電車で一時間くらいかな。


 ただ、わたし、電車って、まったくわからないんです。いつも自転車か車だから。

 案の定、横浜に行くつもりが、気がついたら新宿にいたんです。詳しくはわからないですけど、相鉄線に新宿行きの、新しい路線が開通したみたいですね。相鉄線の大和駅で乗り換えて、そのまま乗っていれば横浜だとばかり思って疑わなかったので、乗ったらすぐに座席で寝ちゃったんですよ。


 気がついたら新宿で、本当にびっくりしました! 急いで母に連絡して、到着が遅れることを伝えました。

 いやいや、はずかしいことって、これじゃないんです。すみません、もったいぶって。


 急いで何とか引き返して、横浜に着いたときは午後になってました。午前九時に家を出たのにですよ。新宿駅で、めちゃくちゃ迷いましたからね。もうへとへとです。ふと、トイレに行きたくなったので、横浜駅でトイレに寄りました。母の家までは、駅から十五分ほど歩かなくてはならないので(泣)。


 そして、ことは起こったんです。


 トイレから出て、駅の出口はどっちかな、とキョロキョロしてると、突然「wait! wait!」って外人の女の人に呼び止められたんです。

 彼女もトイレから出てきたみたいなんですけど、大声で、わたしに向かって何やら叫んでくるんですよ。まわりに注目されてしまうし、なんだか怒られているみたいに感じて、わたしは恐ろしくなり、その場から早足に立ち去りました。黒人系の女の人です。


「わたし、トイレちゃんと流したよなあ」などと思いつつ(笑)実家にたどり着きました。正直あれは何だったんだろう、という思いで、わたしの頭の中はいっぱいでした。

 実家のインターホンを押すと、腰を痛めた母がよたよたと出てきて、わたしを招き入れてくれました。そして、わたしの後ろ姿を見るなり、


「あんた、その恰好でここまで歩いて来たの」


 と手を叩いて、爆笑しだしたんです!


「え?」とわたしは玄関に置いてある姿見で、自分の後ろ姿を見ました。そして真っ青になりました……。


 そう……わたし、その日は柔らかい生地のスカートをはいていたんですが、静電気が何かで、上にまくれあがって、ショーツが見事に見えていたんです! しかも、ネットで買った三枚千円のショーツ(笑)。 もう気づいたときはその場から消えてなくなりたかったですよ! 思わず両手のエコバッグ取り落としましたもん!


 だけど、それで腑に落ちました。あの黒人の女の人、わたしに教えてくれてたんですね。「ちょっと待って、大変なことになってるよ」って。必死だったから、怒っているように見えたんですね。ああ、あのとき、びっくりして立ち去らなければ、こんな恥をさらさずに済んだのに。

 横浜駅で親切に教えて下さった女性、この場を借りてお礼申し上げます。そして、無視して立ち去ってごめんなさい(ぺこり)。


 以上、今日の恥ずかしかった出来事でした~。みなさんも、外出中のトイレにはくれぐれもお気を付けを! 




 ――ここまでスマートフォンで文字を打ち込んで、可奈子は今日のブログをインターネットにアップロードした。

 ふうっと、一息つく。

 夫と結婚してからインターネットでブログをはじめた可奈子だが、なんだかんだですでに二年目に突入している。

 書いている内容は何の特徴もない、日々の些細な出来事ばかり。けれど、毎日欠かさず更新しているからか、今では読者がそこそこついていて「私って文才あるのかも?」と可奈子は少し得意気味になっていた。


「ねえ可奈子、これいくつかもらっていい? うちの残り少なくなってきてて」


「いいよ、お母さん。たくさんあるから」


 可奈子は今日結局、実家に泊ることにした。子供がいるわけではないし、母の腰も心配だし、何より道中色々あって、疲れていたからだ。

 まあトイレでの出来事は、ブログのネタにはなったけど……と可奈子は両腕を上げて伸びをする。


 母親は、可奈子が両手に持っていた、わずかに膨れたエコバッグから、トイレットペーパーを三つほど取り出し、トイレの棚に並べていた。


「もっと取っていいよ」


 可奈子は母親を振り返り、そう言った。


 帰りもトイレに寄ったついでに調達できるだろうし。旦那は以前これを見てめちゃくちゃ怒ったから、旦那の見てないところで家にしまわなきゃ。なんであんなに怒ったんだろう?


 そんなことを思いつつ、アップロードしたばかりのブログを見直す。読者の好意的なコメントがもう二つほどついていて、可奈子は「やっぱり私ってば文才あるんじゃない」と顔をほころばせた。

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