清掃戦線異常なし
@Thinker_ix
第1話
突然だが私は清掃員である。
それもただの清掃員じゃあない、ビルの窓を丁寧に拭く清掃員だ。
「あーい、この階しゅーりょー。 ワンフロア分下ろして」
一息つけつつ、肩に括りつけた無線機に屋上で私の乗るゴンドラを操る助手に合図を出す。 ガゴン、と大きな音と揺れと共に下へと降りていく何時ものことだ。
「さてと、それじゃあ│
掃除用具の横に置かれた大きなバッグ、その中から取り出すのは
「対物狙撃銃、ねぇ……。 今回のターゲットはマフィアのボスだったか? このデカさの銃からすると……目標のいる部屋はガラス張りしかも防弾付きだろうなぁ」
そう、中身は分解されコンパクトになった大口径弾使用の対物狙撃銃である。
そんな金属の塊を手早く組み上げ、1通りの動作確認を終わらせ掃除に戻る
「ふむ……目標は向かいのビルの中腹あたり、ちょうどど真ん中のこちら側ね」
掃除しつつ、今回の各種情報がコンタクトレンズに投影され確認する
ゆっくり、丁寧に拭きつつそのコンタクトレンズに表示された位置に移動する
そこはちょうど使用されていない部屋の面であり、目標の少し上となる場所であった。ここならば狙いやすい
拭く手を止め、弁当箱みたいな巨大なマガジンを装着し、ゴンドラの柵へとその重さを預ける。
「はーい、おいちゃん位置についたー」
スポッターの役割でもある助手に声をかけ、準備完了を告げる。
『ラジャー、状態はグリーン。オーダーはワンショットワンキル、手早くとも。少しビル風が出てきた、注意されたし』
いつもの冷静な声を聞きつつ、缶ボトル大の初弾を薬室に送る。
「はーいおっけーおっけー、んじゃ撃つよー。 撃ったらゴンドラ上げて駐車場なー」
完全に薬室を封鎖し、スコープを覗く。 目標はパソコンに向かい後頭部を晒している。
「そいじゃーの、いい来世送れよ〜」
トリガーを引くと、爆音と激しいマズルフラッシュを残し弾頭が飛んでいく。
使っているのは五十口径、いくら防弾とはいえ薄い鉄板程度撃ち抜くこの銃には紙のようなもので
「はいパーン」
スコープから顔を除け、双眼鏡を覗き込む。 視線の先には頭が潰れたトマトと化した目標が室内に血を飛び散らし死んだことを確認できた。
「よーし、んじゃおしまい、帰ろうか」
小さいモーター音と共にゴンドラが上がって行く
これが私の副業である。
ここは、ニューヨーク。数年前この街は地獄と化した。
以前から中南米地域から流れてきた違法薬物が流行し、更には中毒性の高い麻薬が流れたことで治安が悪化した。
それにより、裏社会の力が増大。ニューヨークは1920年代の暗黒街が復活した。
そんな状態で横行するのが暗殺だ、同業他社または目障りな
自分、エマ。
そんな中、とある1つの暗殺業兼清掃業者に所属する暗殺者の1人だ。
といっても、実行の可否は委ねられて居るし、自由裁量は認められている。
そんなこんなで、こんな所で清掃なんかしながら人を殺してるわけである。
「よ、おっちゃん。帰るよ、またいつものように港寄ってね」
「はいよ、今日のエモノ捨てんだな」
「そ、今日のは久々のオオモノだから分解までは時間かかるだろうけど離れたとこに捨てりゃ大丈夫でしょ」
私のモットーは「武器は一期一会、銃は銃であり物でしかない」であり、こんな厄ネタはさっさと投げ出したいのである。
「とりあえず、メリーランドの田舎に捨てれば分からんべ」
「了解、一市民として大人しく行きますか」
「ついでに美味いレストラン行かん? ずっと行きたかったんよね〜」
「……お前さんも神経図太いな、あんな最悪のトマトソース見た後に飯の話は勘弁してくれよ」
「えー?べっつにいつものことじゃん、その花火がデカいか小さいかの違いよ」
「はあ……お前さんの事情は少しは知ってるがお淑やかにだな……」
「うっさい、早く行くよ」
「はいはい」
おっちゃんことエドはため息を吐き出し、タバコに火をつけ、車を滑らせた。
そんなこんなで今日は過ぎていく、『ダストオール社』での一日が。
清掃戦線異常なし @Thinker_ix
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