ソレが居る世界。

或日空

第1話 都合と記憶.1

 やあやあどうも。

人はときに自分の都合のいいように記憶を変えることがある。

今日はそんな自己中人間の哀れな話をしようと思う。

 

 高校一年生の4月頃、奇妙なことが起きるようになった。

その奇妙なものというのが毎晩夢を見ているとこちらに向かってゆっくり、ゆっくりと歩いてくる黒いシルエットが歩いてくるというものだった。

そして毎回歩いてくるというのは一緒だったが景色だけが違っていた。

僕は特に霊勘(?)的な力を幼い頃から持っていたわけでもなくこれといって心霊スポットと呼ばれるようなところにも行ってないので余計に気味が悪かった。

ただまあこれといって実害はなかったから少し疲れてるのかなとでも思っていた。

それからは部活やテストなどで忙しく奇妙な夢のことを気にしなくなった。


 夏休み明け、4月から続くこの夢もだいぶ慣れてきて全くと言っていいほど気にしなくなった。

友人達に連れられ少し遠くの街のショッピングモールに向かっていた頃だった。

友人達と話しながら歩いているとふと町並みに違和感があった。

見たことがある。

僕にはそう感じた、ここでもう一つの違和感に気づく。

何故この町並みを来たことがあるとではなく見たことがあると感じたのかと。

その違和感の正体に気づいたとき、サーっと背筋が凍るような感触を覚えた。

 ――近づいてきている――

その結論に至ったとき、僕の頭はもう真っ白だった。

その後のことはよく覚えてない。

 

 気がつくと僕は病院にいた。

見舞いに来てくれた母によると、あのあと僕は急に意識を失ってしまったらしい。

救急車を呼んでくれた友達に感謝しなさいよと母が言った。

とくに何か悪いわけでもなかったのですぐに家に帰ることができた。


 その日もその夢は続いていた。

夢の中のソレは今日僕が歩いた道を歩いている。 

朝起きると、僕は夢の事についてで頭がいっぱいになった。

――追ってきている――

 この事実だけで僕を恐怖に落とすには十分だった。


 次の日。

僕は昨日のことを聞いてきた友人達に最近起きてるこの夢のことを話した。 正直誰も信じてくれないと思っていた。

しかし、友人達はお祓いにいったほうがいい、一緒に探すからと心配してくれた。 後日友人が見つけてくれたお祓いをしてくる寺に行くことになった。

とある県の山にある有名なお寺らしい。

お寺に着くとすぐに中に通された。

本堂らしき建物で待っていると奥からお坊さんらしき人がでてきた。

お坊さんは僕の前にくると一言。


「僕では手が負えないから帰ってもらえませんか」


どうにかしてもらえないかと言ってみたが、帰りなさいの一点張り。

しょうがなくその日は帰った。


 学校ですぐに友人たちにこのことを伝えた。


「祓ってくれなかった。もう駄目なのかもしれない。」


そう伝えると友人達は残念そうな顔をした後、もう夢のことについて触れてくることはなかった。

彼らなりの気遣いであったかもしれないその行動は味方がいないと僕に思わせる行動であった。

もしかすると彼らの本能が夢について触れることを無意識に拒否していたのかもしれない。

だとしても僕は不安でいっぱいだった。

あの黒いアレが僕の前に来た時、僕は死んでしまうのだろうか。

「死」というものが僕の頭の中で強く認識されるごとに不安で押し潰れそうだった。

放課後になっても不安は消えなかった。

周りが部活やらで教室をでていくなか、僕はただ呆然としていた。


 どれくらい時間が経っただろうか。

時計を見ると5時35分であった。

僕は急いで帰宅の準備した。

机の中の教科書を乱暴に鞄に詰めていた時、僕は背中に視線を感じた。

まだ教室に誰か残っていたんだろうと最悪のシナリオを回避するようにはぐらかしたが。

急に正気に戻った。

僕の席は教室の廊下から一番遠い列の最後尾である。

そこに人が居るはずない。

何もできずにフリーズしていると背中に生暖かい感触が伝わった。

びっくりして後ろを振り向く。

そこに居たのは一人の男子生徒であった。

無気力そうな少年であった。


「君、すごいの憑いてるねぇ〜」と少年が言う。


 だらしない寝癖とお洒落な丸眼鏡、そして着崩した制服。

如何にも不真面目そうな少年が僕の前で立っている。


「君はだれかな?あと君が言っているのはどういう意味?」


「そのまんまの意味。」


「やっぱり僕の夢に出てくるのは悪霊なの?」


そう言うと彼は僕を見て、笑った。

 

 

 

  

 

 


 


 


 

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ソレが居る世界。 或日空 @Ramunesann

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