第2話「再生の能力者」

「本当に良かったの?」


「良いんだ。どうせ母ちゃんももういねぇし、なんか...ちょうどいい機会だしな」


カリーナとスザクは燃えるスザクの母親が眠っていた小屋を背にスラムを後にする。


「そう...あなたのお母さんはどんな人だったの?」


「んー、まぁ物静かでいっつも寂しそうで...でも優しかったかな。もし母さんに何かあったらスラムを出ておとーさんを探しなさいとか言っててぇ...」


「お父さんはわかるの?」


「ぜんぜーん。っと、そろそろスラム出るぜ」


スザクとカリーナは出会った場所へ戻ろうとしていた。

すると、スラムの貧民が1人、スザク達の方へ近づいてくる。


「おいスザク!てめぇ門番サボりやがって!てめぇのせいでスラムはめちゃくちゃだ!」


「あーどうしたんすか?」


「政府の人間が俺達にテロリストを匿ってるなんて容疑で次々処刑していくんだ!奴らに法律なんかありゃしねぇ!スザク、てめーのやったことは許してやるから俺を逃がしやがれ!」


スラムの貧民が図々しくスザクに迫るとカリーナはスザクに近づき、腰に手を回す。

そして小さな声で

「スザク、私に掴まって」


スザクはカリーナの囁き声にまた顔を赤らめて両手で抱きつく。


「オジサマ、スザクは私のよ。あなたの下衆な願いを叶えるためのおもちゃじゃない。せいぜいあの世で反省しなさい。じゃあね♥」


カリーナはグラップネイルガンで宙を舞うように飛び、スラムを抜ける。


(スゲー良い匂い...そんでもってカオもイイし...イイ声だし...好き.......)


「ねぇ、スザク。あなた、なんで能力ギフトを持っていたのね」


「ぎふと...?そういやさっきあのオッサンもそんなこと言ってたな」


「あなた...能力ギフトを知らずに血濡れのエルヴィン大佐に立ち向かうなんて余程の命知らずなのね」


カリーナは面白そうに笑う。カリーナの笑顔を、スザクはボーッと見つめる。


「あなたの能力ギフトは再生...かしらね」


「ずっと思ってたんだけどその能力ギフトってのはなんだ?」


「まぁ知っておいて損はないわね、ギフトは本来人類が持ち得ない力のことよ。知っての通りこの世界には人間以外にも二足歩行の知的生命体が何種か存在する。彼らに対抗する為に人間が進化した形とも言われているわね」


「じゃあ俺は何度でも戦えて最強ってことか!」


「それは彼に聞けばわかるわ。通称知識の能力者ギフターであり、私達のボス【ドミネーター】。彼はなんでも知っているから。...もうすぐ着くわよ、着陸体勢に入って」


カリーナはいくつものスラムや裏路地を抜け、スザクは遠のく光を子供のような輝かしい目で見つめていた。


「着いたわ、私達の本拠地であり、あなたの新しい住処。【NewOrder】本部がね」


NewOrderの本部があるのは中間層、地上50mの寂れた薄暗い【黄昏街】の外れにある。


コンコン...


「...合言葉は?」


「【我らが黄昏の桃源郷】。私よ、開けて」


「入れ、白い竜ホワイト。ドミネーターがお呼びだ。連れも入れ」


重厚な金属の扉が開くと同時にカリーナは中へ入る。スザクは中にいた巨漢に腕を引っ張られる形で本部の中へ入るとそこは外よりも暗く、最低限人がいることが認識できる程度の明かりが着いているだけだった。


「ドミネーターの部屋はこっちよ」


カリーナの後をついて行くと、鉄や金属板でツギハギされた冷たい印象を受ける廊下と違い、アンティークで高級感のある壁と、木造のドアが目の前に現れる。


少し歪なその扉にカリーナは3回ノックする。


「カリーナだね、どうぞ入って」


カリーナ達がドミネーターと呼ぶ男が座っていた。足を組み、へその下で手を祈るような形で置いている。


とてつもなく麗しいという言葉が良く似合う美男であった。


「失礼するわドミネーター。あなたなら紹介しなくても分かっているのでしょう?」


「あぁ、そっちの子はスザクだね。それにしてもキミが男を連れてくるなんて珍しいじゃないか。カリーナ」


「彼が能力者ギフターだったから。それに命知らずだったから使えると判断したまでよ」


「相変わらず素直じゃないねカリーナ。キミの義理堅さと優しさは私の脳の中にある1ページが証明しているというのに」


「...それで、わざわざあなたが呼んだのだから理由あってのことでしょう?」


「そうだったね。これはスザク君にだけ話したい内容だからカリーナは席を外してくれるかな」


「わかったわ。スザク、また後で会いましょう」


カリーナはドミネーターの部屋を後にすると、スザクは少し寂しそうにするが、それ以上に目の前にいる【ドミネーター】という男の黄金の瞳に吸い寄せられる。


「そういや、アンタなんでオレの名前知ってんだ?」


「カリーナから聞いているだろう?私は知識の能力者ギフターなんだ。私に聞きたいことがあるのならばなんでも聞いてみるが良い。この世の人間に答えられて私に答えられないことはまずないからね」


「そーいや、カリーナが言ってたけど俺には再生の能力ギフトがあって...アンタに聞けば分かるって言ってたし教えてくれよ」


するとドミネーターは目を瞑り、「分からない」という意図で頭を横に振った。


「わからない、前例がないと言ったら良いかな。これまでの歴史の中でその能力を持つものは伝説に数えられる」


「ってことはオレは最強ってことか?」


「それは君次第だろうね。そもそもと 能力ギフトとは何かについて教えてあげよう。ギフト、と呼ぶように一説によるとこの世界の多様な種族の中で特殊な能力を持たない人間から100人に1人程の確率で与えられる特殊な力。その有用性はピンからキリまであって

そしてお迎えだ。早速で悪いがここから先、君にはカリーナと同じ第十三班で任務に当たってもらう。最近は君以外にも十三班に人員が補充されてね。その関係で交流会をするんだ」


「...その交流会って何すんだ?」


ドミネーターはニッコリと微笑み、麗しい唇を再び開く。


「楽しくお酒を飲んだり、食事を楽しむコト、かな」


───────────


スザクはこれまで見たことの無い食事に目を輝かせ、作法を知らないために汚く貪り食う。


「うめぇ...!うめっ...うめー!」


スザクの礼儀作法のない食べ方を見て周囲にいる者たちは苦笑する。


「カリーナさんもまた変なのを連れてきやがって...新人達の交流会だからって変なもの連れてきやがって...まぁいい、俺はタロウ。刀の能力ギフトを持ってる」


センター分けで黒髪、左頬に傷があるタロウが呆れながらため息を吐いた。


「まーまータロウくんも落ち着いて私はレイコ、紙の能力ギフトを持ってるわ。一応みんなから見たら先輩かな、よろしくね!」


顔の右半分に火傷跡をもつレイコは呆れたタロウを慰める。


「とりあえず新人のみんなから自己紹介をお願いね!」


「はっはい!自分はブルーノ!能力はありませんが運動は少し得意ですっ!この黒い短髪が特徴です!」


「...ワタシはエミ。能力ギフトはあるけど言いたくない。んで、さっきから飯食ってるコイツなに」


エミはスザクに指をさして不服そうな表情を浮かべる。


「うめっ...うめぇっ...」


「なんか言えって言ってんの!何こいつ...ホント嫌なんですけど」


ドンッとエミはテーブルを叩く。


「あーその子はスザクって言うらしいの...エミちゃんも仲良くしてあげて...」


「レイコせんぱーい、私コイツと仲良くしたくありませーん」


レイコは困惑して半べそをかきながらエミやタロウを諌め、スザクに自己紹介を頼み続けるが誰も耳を貸さなかった...



「おいっ!スザク!てめー次の任務で私と勝負しろ!」


酒が入り、エミはどんどんと感情を露わにしてスザクに喧嘩を売った。


「俺はこの飯が食いてーんだ邪魔すんなよ」


「〜〜〜ッ!!勝った方が負けた方に何でもひとつ命令できるってのでどうだ!どんな命令でも絶対だ!」


その言葉を聞いてスザクはついにエミの方を向く。正確にはエミの聳え立つ二つの山万乳引力がスザクの目線を釘付けにした。


「デケェ...その勝負、乗ったぜ!」


「やる気になったのね!良いじゃない!あんたなんかに絶対負けないから!」


「やめよーよー2人ともォタロウくんもなんか言ってよー」


「はァ...お前ら、言っとくけど次の任務は秘密裏に政府が行った人造能力者ギフター実験対象の回収だ...殺しても構わんらしいがバレないようにだな...」


「おうわかったぜタローチャンよォ!そいつら全員ぶっ殺しちまえば解決なんだろ!!おい乳デカ女!そいつら倒した数で勝負だ!」


「誰が乳デカ女よ!っ乗ってあげるわよ...。あなたになんか負けるもんですか...!」


スザクとエミは立ち上がり、至近距離で睨みを効かせ合った...。


「もーみんな喧嘩しないでよォ...」


交流会は睨み合うスザクとエミ、泣きべそをかくレイコ、無視して酒を飲むタロウ、そして空気なブルーノという形で幕を閉じた...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイバースティール オールマッド @AllMad_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ