サイバースティール

オールマッド

第1話 カリーナという女

──「白い竜ホワイトが金庫に姿を現した!総員、奴を追え!必ずここでやつを仕留めろ!」


軍服の男が叫ぶと50人近くがたった1人のために金庫やその周辺の警備に当たる。


「いたぞ!」


白い竜ホワイトはビル10階にある大きな部屋で見つかる。


白い竜ホワイトの目の前にあるのは大きな窓。しかしそれに動じる様子を見せず、持っていた拳銃で窓の一部を破壊すると、そのまま窓へ突進して飛び降りる。


「逃がすかッ!当たれ!」


大きな発砲音がたった一度、部屋中に響き渡り、床にガラスの破片と僅かに血液を残し、虚しく消えていった。


────────── ・ ・ ・


ここはとある名もないスラム。

ゴミにまみれて知能を持たず欲だけを持つ貧民が住まう場所。

ここでは法がなく、ここに男が迷い込めば身ぐるみを剥がれた後に食肉として加工され、女が迷い込めば性の捌け口となり、子を孕むまで使い潰される。


そして名前すら忘れ去られた女が産み堕とした子供が一人。

火炎のように赤く燃える紅蓮の髪を持つことからスラムの貧民に「スザク」と呼ばれる青年。


「スザク!お前は無能なんだから見張りくらいしっかりしろよ!お前がサボったらその代償はテメーの母親が払うんだぞ!」


スザクの仕事はスラムに迷い込む人を貧民達の元へと連れていくこと、そして政府の人間が来た時に撃たれて政府の人間から貧民が逃げるための囮役となっている。


「ウーッス。.....ケックソジジイ」


スザクは貧民に悪態をつきながらスラム街の入口に作られたハリボテ小屋へ入っていく。


「今日は雨か...この雨が飲み水になるなら俺達の生活も少しは楽になるのかな...母ちゃん」


空を見上げながらスザクがつぶやいていると、スラムの向こう側から左足を引き摺り、こちらへと歩いてくる人を見つけた。


「...女か?カッパも着てねーし、死ぬ気か?」


スザクは小屋から出て女へと近寄るとその女は力なく、スザクに身を委ね、意識を失ってしまう。


「おい...気失ってんのか?」


スザクの目線が万乳引力謎の力に惹きつけられて、ごく自然に、スザクは胸へと向かった。


「女...女か...いつも頑張ってるし...自殺願望あるなら...最期にちょっと俺に良い目見せてくれてもいーよなぁ...」


スザクの手が胸へと伸びるが、足下に溜まった女の血を見て手が止まる。


「...それじゃあのジジイ共も一緒じゃん」


────────────


「...ここは?あれ、ガンは...?」


女が目覚めると横に干からびた死体とスザクが座っていた。


「起きたか?持ち物はそこのテーブル。それにしてもビックリしたぜ。スラムの前でぶっ倒れるんだもん。足もなんか穴空いてっし...テキトーに痛み止めと包帯巻いたけどよ...」


スザクは不安そうに目を逸らしながら女にくどくどと言い訳をする子供のように女が気を失っている間の説明をした。


「アリガト、私はカリーナ。あなたは?」


「俺はスザク。アンタ、なんでこんなとこに来たんだよ。スラムに入れば二度と出てこれねーなんてのは常識だぜ?」


「必死に逃げていてどこを歩いていたのかすら分かっていなかったの...助かったわ。良い人なのね」


カリーナに褒められてスザクは少し頬を赤らめる。


「な、なァ...あんた。どんな男がタイプなんだ?」


スザクが聞くとカリーナは布団から出てスザクの隣に来てスザクの顎に左手を当て、右手をスザクの頭の後ろに回しながら唇が触れる直前まで近づけて口を開いた。


「殺しても許してくれるヒト♥」


カリーナはスザクの頭を90度勢い良く回して首を折る。


「ぐ...ぇ...」


「ごめんなさいね。助けてくれたのは嬉しいけれど、あなたと長話をしている暇はないの...こんなことしているウチに帝国兵が追いかけてくるかもしれない...」


カリーナはテーブルから自分の持ち物を取って小屋の扉を開ける。


「終わりだ白い竜ホワイト


真上から帝国兵が散弾銃をカリーナに向けて発砲するが、間一髪真後ろに飛んでカリーナは事なきを得る。


「チッ...もう嗅ぎ付けてきたのか...帝国兵...」


帝国兵は着地し、散弾銃を再びカリーナに向けた。

その帝国兵は通常国防色の軍服が漆黒に染まり、真っ黒で目の部分だけ穴の空いた仮面を付けていた。


「しかもあの能力者ギフター、血濡れのエルヴィン大佐とは...私も運がないわね...」


カリーナは手に持っていた銃をエルヴィンへ向けて構えた。


「帝国崩壊を目論む白い竜ホワイトにも知られているとは光栄だな。そのガンを下ろせ。グラップネイルガン...だったか?それを撃たれると非常に困るのでな」


「エルヴィン大佐ともあろうものが...そんなつまらないジョークを言わないで欲しいわね、あなたの装備は対ネイルガン特化装備。私もここで終わりなのね」


カリーナは素直にネイルガンをエルヴィンの方へ投げて両手を上げた。


「お前が素直に応じるとはな、これは伏兵の可能性も考えるべきだな」


するとエルヴィンは銃口をグレイの母親に向けて1発、グレイに向けて1発うって、生存確認を行う。


「どうやら死んでいるらしい。白い竜ホワイトもこうなってしまえばおしまいだな。死ね」


カリーナは目を瞑り、死を覚悟する。


そしてエルヴィンは散弾銃の引き金を引いた。


「っっってーな!何すんだこのアマ!!」


スザクが突然起き上がり、そしてその直後に散弾銃の射線上に入り、カリーナの身代わりとなった。


「...え?まさかあのさっきの青年が能力者ギフターだったなんて...でも、それなら利用出来る」


カリーナは驚くが、すぐさま冷静になってスザクに呼びかける。


「...青年くん、ここは私に手を貸して。理由ワケは後で説明するわ。」


するとスザクの目が覚め、立ち上がる。


「このスラムの貧民が...私と同じ能力者ギフターだとはな。しかも散弾銃も残り1発と来たもんだ。近接で貴様らガキ2人の骨を折ってから撃つべきか...。やはり、勝負の命運を分けるのは銃ではなく鍛え上げられた己の戦闘スキルというものだ。さあ、来い。ガキども」


しかしスザクにはカリーナに加担する理由もエルヴィンとわざわざ争う理由もない。


「つってもなー、カリーナに手ェ貸してポリ公と殴りあってもこれからずっと追われるだけだし...」


「あーもー!わかったわよ!何でも1つ言うこと聞いてあげるから協力して!」


すると、スザクはニヤッと笑う。


「コーショーセーリツだ。行くぜオッサン、悪いが胸のためだ」


スザクは手で何か柔らかいものを揉む仕草をすると、姿勢を低くしてエルヴィンのスネめがけて思いっきり飛び蹴りを食らわす。


「...下郎が。その程度の単調な動きについていけない私だと思うなよ」


「残念、俺の狙いはこれだ!受け取れカリーナ!」


スザクはカリーナのグラップネイルガンを拾い上げ、カリーナ目がけて思いっきり投げつけた。


「貴様も言ったはずだ白い竜ホワイト。私にそのガンは通用しない」


「ええ、私の狙いはこのガンじゃないわ。上よ」


するとカリーナは銃口を天井へ向けて撃つ。


「グラップネイルガン最大にしてサイコーな特徴、このガンは命中した釘を釣竿のように引っ張るの。そして使用者がもう一度引き金を引くと銃は命中した先へ引っ張られる!」


カリーナは天井までの2mで縦に半回転し、天井を蹴り破った。


「何をするのかと思えば私に怖気付いて逃げるだけではないか!白い竜ホワイト!ガキ、貴様は奴の殿を務める気か?私と共に来い。あの女を好きなようにさせてやっても良いぞ!」


「んーオッサンむさいからイヤ」


スザクはエルヴィンの首に足を絡めて扉の奥へと投げつける。


「ッガキが...!舐めているのなら痛い目を見せてやろう...」


エルヴィンはスザクの頭を左手で持ち上げ、腹を1回、2回、3回殴った。


スザクはあまりの衝撃に吐いてその場に倒れる。


「あえぇ...さっきのよりつれぇ...」


「当然だ。私の拳は散弾銃を超える威力がある。貴様は私の誘いを断った...いや、スラムで生きていた事が罪なのだ」


「トドメを刺してやろう。だから死ね。せめて次はもっと良い生まれになるよう願うが良い」


「オッサンよ〜ひとつの事ばっか見てもっと大事なことに気がつかなかったってことない?」


「...それがどうした?遺言か?」


「オッサンの散弾銃は残り1発。そしてそいつは今俺の後ろ、オッサンの装備はその対ねいるがんってのに特化してやがる。これがどういうことかっつーと────」


「つまりは、終わりよ。エルヴィン」


カリーナが扉の前に立ち、散弾銃を構えていた。エルヴィンがカリーナに視線が到着する前に引き金が引かれた。


───────────


「...終わったわね、約束の前に改めて自己紹介。私は腐った帝国もこの雨で人が死ぬ大都市ソドムも、全部ぶっ壊すために活動する反政府組織、【NewOrder】のエージェントの白い竜ホワイトよ。このまま私の共犯者として解体されるか、私と来て全部ぶっ壊すか、今選びなさい」


白い竜ホワイトはへたり込むスザクに手を伸ばした。穴が空いた屋根から光が差し込み、白い竜ホワイトを女神のように照らした。


スザクはその姿に頬を赤らめなが手を伸ばす。

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