第13話

 構内中を探し回る。幸い、落書きはすぐに見つかった。その度に、白い地図の上に赤い天が増えていく。

「あれ、なーくんと鷺沼さぎぬまの彼女さんだ。ふたりで、何しているの?」

「まさか、不倫?」

 数学科の女子だ。

「それは、ないです」

 ふたりで、同時に言う。

「それは、そうだよね」

 即座に笑いが返ってくる。

「そう言えば、鷺沼、屋上から落ちたんだっけ」

「そうだよ、入院中だよ。ん?」

 学内の地図を手に取る。

「赤い点。ねえ、これ、見覚えあるよね?」

「ああ、これって素数の」

 まずい。

「待って!」

 友人同士の女子が顔を見合わせる。ところで、二回も地声を聞かれてしまった。顔が赤い。

「ああ、そういうことか」

「今、ここで言ったら、まずいよね」

 夜込よごめ先輩を見る。首を捻るばかり。安心する。

「夜込先輩、行きましょう」久しぶりに、ノートの出番。

 手を引く。早く、伝えたい。鷺沼先輩、渾身の愛の証明を。


 *


「私の夢。お医者さんになること。うん、偉いな。実際、今、医学生な訳だし」

 よく出来た彼女に感心しきる。

「こっちも、早々に叶えてあげないとなあ」

 笑いが止まらない。

 再会の日、スケッチブックに書かれてあったこと。


 *


 再び、屋上に戻る。鷺沼先輩の、愛の証明。

「素数の花?」

「そうです。昔、暇な学生が、授業中に数字をらせん状に書いていきました。そして、素数のところだけ丸く囲っていったのです」とノートを見せる。

 夜込先輩が、息をのむ。すぐさま手許の地図に目を落とす。

「うん、確かに素数だ」

「素数は、無数にあります。つまり、その…」とノートを見せる。

 夜込先輩が、屋上を壁に沿って回る。鷺沼先輩の落書きと素数を対応させているのだ。

「馬鹿だな。本当に、馬鹿」

「僕も、そう思います」

 向かい合って、笑った。


 *


恵太けいたくんと再会して、恵太くんのお嫁さんになること」

 そろそろ愛の証明は伝わっただろうか。

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青色パターナリズム 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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