第6話 ちょいワル不良はいい奴だ

「じゃ、手短に行くよ。項目は三つ。一、今日九月二日は合田君のお母さんの誕生日」

「初っ端から、斜め上を行く情報だね」

「信憑性が高い物から言ってるから。誕生日は絶対に確実でしょ。で、二、柳沼君の家からなら自宅に戻ると遠回り。直に学校へ向かう方が早い。最後に三、合田君は夏休みの間中、バイトに励んでいたみたい。以上よ」

「……これって……一つのことをどうしても想像してしまうんだけど」

「まあ、その辺りは、宝来君にも情報を聞かせてから考えてみたら。あんまり時間もないし、じゃあね」

 河野さんは来たときよりは足早に立ち去り、廊下の向こうへと姿を消した。

「これ、受けると思う?」

 室井さんが聞いてきたので、僕は頭を左右に振った。

「分からない。宝来の奴、あまりにも自明だと乗り出さないからなあ」

「え、ちょっと待って」

 声に振り向くと、高梨さんが困惑を露わにしている。

「受けるとか乗り出さないとかって、もしかして宝来君が調査するかどうかってことを言っているのかしら?」

「そうよ」

「誰からも依頼されなくても?」

「ん、まあ、基本的に仕事でやってる訳じゃなし、気が向いたら、気分が乗ったらかな」

 言って肩を軽くすくめた室井さん。続いて、僕も付け足しておく。

「そうでもしないと、探偵サークルの活動なんて推理小説を読むぐらいしかなくなっちゃうからね。あ、今度から部になるのかな」

「ふうん。それはまたお節介というか、厄介というか」

 高梨さん、呆れ顔を隠そうとしない。当人がこの場にいないせいもあるんだろうけど、宝来に対する印象、やっぱり変人だわ、とかになったかも。

 このやり取りが終わるのを待っていたかのように、宝来が教室に戻って来た。

「多分、昇格は大丈夫だそうだ。ただ、予算が出るのは来年度から。交渉次第では、生徒会が残している積立金の中から、三学期の頭に少し出る可能性もあるそうだが、承認されることはごく希らしい。まあ、無駄足になるかもしれないが、接触はしてみよう」

 一気にそれだけ喋った宝来。僕らは昇格見込みおめでとう的なことを言ったあと、河野さんが来たことと、その用件を彼に伝えた。

「なるほど。気に留めてはおく」

 予想通りとすべきか、宝来の反応は薄い。そんなことよりもと呟き、揉み手をしながら言った。

「とりあえず、部への昇格前祝いと高梨さんの歓迎会を兼ねて、時間を取りたい」

 そして高梨さんの方へ片手を向けて、「都合のいい日を教えてくれないかな」と尋ねる。表情なんかはいつも通りに見えるのだが、内では浮かれているのか、動作が芝居がかっているぞ。

「そんな大げさなことは……」

「歓迎会と言っても、放課後に空いている教室で、皆で買って来た菓子と飲み物を摘まみながら、お喋りするだけ。気軽なものだから、遠慮することはない」

「そうそう」

 室井さんが援護射撃に回る。基本的に楽しめればいいというのが彼女のスタンス、だと思う。

「歓迎会のときは、新入会員は会費を出さなくていいから」

 お金持ちそうな高梨さんにそれを言っても、効果は望めないと思うけど。

「転校してきた立場ですし、皆さんのことをよく知りたいですし、ありがたく参加します。日は、明日の放課後でお願いしてよろしいかしら」

「もちろん、いいとも。だよな、みんな?」

 まだ夏休みが明けたばかりで宿題に難物は出ていないし、ちょうどいい。あとは河野さんの意向を確かめないといけないが、まあ問題なしだろう。

「ところで宝来君は、男子生徒が行方不明になっていることを調べるつもりはないの?」

 高梨さんが再確認する風な口ぶりで聞いた。

「うん? 何でそんなことを」

「刑事さんの知り合いがいると聞いたから、てっきり……。私、実際の警察の捜査を知りたいという思いもあって、入会を決めたところがありますから」

「なるほど。それは悪いことをした。まあ、全然その気がないってことじゃないから」

「ですわよね。合田光一という方がどのような方か存じ上げませんが、世間一般でいう不良だとしても、探偵が見捨てるわけがないと信じていました」

 高梨さんが夢見るような表情、口調で言った。

 おや、そういうキャラだったんだ、と思う。

 血腥い推理小説に安手興味のない女子だとばかり思ってたけど、警察の活動に関心を持ったり、探偵というものに憧れるような言葉を口にしたりと、意外な一面を持っているみたい。

 まだ他にも色んなことを隠していそうで、謎めいていてますます好きになりそう……なんて解釈するのは、ひいき目、欲目というやつかな。


 その日の放課後、僕ら――宝来と室井さんと河野さんを含む――は高梨さんの送迎車?を見ることができた。最初に聞いたとき、黒塗りでやたらといかつい感じの大きな乗用車を想像したのだけれど、実際に現れたのは、意外と小振りだった。国産の高級車で、色は薄いオレンジと結構目立ちそう。

「方角が同じだったら乗せてもらうのに」

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