百合の剣(二)
夏の日差しは眩しくて、自然と目は細くなる。
視線の先に見える騎士たちが身にまとう
メルシーナは固唾を飲んで、木剣の撃ち合いを見守る。時折、「ねぇ、どっちが優勢なんだろうね」などと横のオフィリアに問いかけてみるが、二人とも剣のことには疎く、オフィリアも「どちらでしょうねぇ」としか答えられない。
普段の二人が聴くことの無い、武器が発する鈍い音が鳴り続ける。そして踊るように石畳の上を跳ねる騎士達の靴音は、観覧者の身体にも染みこむように響き渡る。
メルシーナはどちらにも負けてほしく無いから、どちらを応援していいのか決めきれず、さりとて勝者が決まれば敗者も決まるということも理解しているので、ただ勝負の行方を見つめ続けるしかなかった。
だけど無心で見守り続けるのは難しかった。どちらにも負けて欲しくないからどちらも応援しない、そう思っていても、どちらかを応援したいという感情はそう簡単に抑えられない。二人の攻守が切り替わるたびに、メルシーナは知らず知らず受け手側に肩入れするかのように拳を握りしめていた。
それはそれで気持ちの切り替えが大変なのか、メルシーナは「ねぇ、お互いに応援する方を決めようか?」とオフィリアに提案して却下されていた。一時的に応援するだけとはいえ、一方だけを贔屓したくないのはメルシーナも同じだったので、それ以上は求めず、彼女たちはハラハラしながら手合いを見守り続けた。
二人の騎士が握っているのは木剣だが、当たれば痛いだろう。兜を脱いで、頭への攻撃を禁じているとはいえ、両者の撃ち合いは見ているメルシーナたちをヒヤヒヤさせる。こうした試合は、当事者よりも見ている方の精神的余裕を削ってしまう。だからどちらにも負けてほしくないと思っている分、メルシーナの心はみるみる擦り減っていき、試合が終わるまで気持ちを保っていられるだろうかと思った。
一方の剣が他方の盾を打ち付けガンと鈍い音が響く。受けた盾を斜めにずらしてギギッと不快な音を響かせながら、剣撃を流したもう片方は一転して反撃の刃を繰り出した。それが避けられると、盾を引いて身を守りながら一歩下がる。避けた方もまた、剣を構えながら距離をとった。
一方の、頭の高い位置で無造作に結んだ髪の房が肩の上下に合わせて揺れる。他方の、短く肩口で切りそろえられた髪は、呼吸に合わせて小さく振れていた。
メルシーナは剣については素人なので、どちらの技量が上なのかなど判らない。でも、自分には到底真似することのできない動きであることは理解できた。素人だからこそ、「すごい」という陳腐な感想しか出てこない。そして、この二人にならば安心して自分の身の安全を任せることができると、改めてメルシーナは思った。
二人はほぼ同時に踏み込み、木剣同士がぶつかりカッと大きな音を立てた。そのまま
肩で息をする二人は、呼吸を整えながら睨み合った。はぁはぁと荒い息遣いもやがて小さくなり、どちらかが吐き出したふうっという呼吸音がメルシーナ達の耳にも大きく聞こえた。
そして、おもむろに一方が片手を上げ、他方もまたそれに応えることで手合いは終わった。
二人は歩み寄るとお互いの手の甲を合わせ、その健闘を讃えあった。二言、三言の言葉を交わした後で、騎士たちがメルシーナとオフィリアの方に視線を向けると、メルシーナは大きく手を振ってそれに応えた。
並んで歩きながら二人の騎士はメルシーナたちの元へとやってきた。
天蓋の下で太陽の直射を避けることができていたメルシーナたちとは違って、騎士たちは玉のような汗を浮かべている。鎖帷子の下にまとう衣も汗に
「お待たせしました、メルシーナ様にオフィリア様!」
騎士アニェスがにこやかな笑顔を浮かべ元気の良い声をかけた。
「突然ごめんね、邪魔しちゃったかな?」
二人の女性騎士の顔を交互に見遣り、申し訳なさそうにメルシーナが言葉を発すると、もう一方の騎士エミリアは微笑み、無言で略礼を返した。
歩み寄ってくる時の姿勢の良さ、立ち止まり軽く身を折り曲げる仕草。
エミリアの動きは洗練されていて、これが土埃に塗れた戦士装束ではなく宮廷衣装であれば、貴婦人そのものだった。醸し出す雰囲気もその物腰も、品があって美しいとメルシーナは思う。顔立ちも整っており美人なのだが、彼女の髪は男性のように肩の長さで切りそろえられている。やや小柄で華奢な青年騎士然としていて、エミリアに出会った頃のメルシーナは、彼女の姿かたちや立ち居振る舞いにはドキッとすることも多々あった。地方の小領主の娘であったが、家の都合で騎士をやっていると話してくれたことがあった。その短い髪は女性としての生き方を絶った、エミリア自身の覚悟のあらわれなのだろうか。
アニェスは対照的に天真爛漫な印象で、商家の出らしく人当たりが良い。実家の破産と没落によって今の
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