第17話 伊吹 2/5
国王は城門の上にいる。掲げた手がモンスターに向け振られた。城壁の上、上空から長距離用魔動砲、魔法使いの攻撃魔法が放たれる。まだモンスターが突撃してくるが、その群れは乱れていない。城門が開かれる。アヤノ、シンジたち騎馬隊が飛び出していく。エスワットはモンスターの動きからパイロンの場所の分析を始めている
私はエスワットと通信可能な魔動機械を持ち、城の天守の尖った屋根の上で呼吸を整える。ここからは部隊の動きが見える。まだ両軍乱れていない。今は拮抗している。アヤノも、シンジも前方中央をかち割った後、横に抜けた。囲まれていない。逆にうまくモンスターの塊を作り、後に続く近接歩兵軍が包囲殲滅しやすい状況を作り出している。モンスターによる中央の進攻に対してはまだ城門に距離が保たれている状態で、魔法攻撃がうまく押し込めている。どこだ、誰も見たことはないが、過去の文献ではラクダに乗り、王冠を頭に乗せているとある。城内の地表が揺れた。ワームが地中の結界を抜けたようだ。騎士による城内保安軍が対応している。一進一退が続く。
騎馬部隊、城壁の魔法軍がモンスター軍の城門に通じる中央部分の圧力を弱め、軍の外を削っていく
モンスターの群れが密集し城門に近づいて来た。
“ पृथ्वीवर झोपा, पृथ्वीचा कोप! बॉम्ब इट ! ”
大規模魔法軍の呪文により城門上に組まれた魔法陣が光、丁度モンスターが密集した地面に同じ魔法陣が浮かび上がった。その瞬間その空間が爆ぜた。土煙が舞う。
土煙の中、この爆発に耐え、傷ついたAランク級のモンスターが検知されている。しかし、ある場所において過度な密集点が検知された。騎馬隊の感知魔法師の視線を繋ぎあわせたデータが、エスワット達のテーブルに3次元化される。王冠、見えた!
『カグラ、カウントダウンだ行くぞ!9, 8, 7, 6, 5, 4』
『イブキ、見つけた!観測点を送る』
『3, 2, 1』
私はマントを投げ、そのマントに跳びこむ。マントはドリル状に変化し、観測点に高速で跳びこむ。マントと一体化している何かが、大きなものを貫いた。
『ゼロ!』
貫いた先の空間がぐにゃりと歪む、歪はねじれから元に戻り、そこには、金髪の白い鎧に身を包む冒険者が王冠のついた首を掲げていた!
『英雄シャルロット!英雄シャルロットの誕生だ!!』
城内が沸き立つ!
翌日、城内はお祭り騒ぎだ。避難から戻った国民、戦闘での功績が称えられた冒険者達、騎士団たち、諸国連合からの応援部隊、皆が集まる祭りの中、国王が壇上に立つ。
『ここで、更に嬉しい知らせを届けよう!この度、数百年に一度の頻度で復活した魔人 “パイロン” これを討伐した “英雄” シャルロットに、諸国連合から “勇者” の称号が与えられた! そして、その勇者シャルロットが我が娘、エスワットとの婚儀が決まった。勇者はこの地に留まり、この国の繁栄を見守ることとなった!』
シャルロットとエスワットが腕を組んで、自然にできた花道を歩く。みんな花びらや紙束、お米やシャンパンを振りかける。
花嫁と花婿、みんなも笑顔だ。祭りは最高潮に達した。
◇◇◇
アルベル・ルーベル国、またの名をスミレの国の神社の奥に横たわるイブキと、傍にいるカグラ、そして帰還したゲンジがいた。
『カグラ、どうだ、魂は戻ったか』
『戻った。これで2/5だよ。あと三つ、ナナセと白狐、ユキがジャンプし、イベントを探っている最中だ。申し訳ないけど、少し休んで、次のレイヤーに跳んでくれるかい、ゲンジ』
『ああ、問題ない、どうだ、ナナセの支援じゃなくて大丈夫か』
『ナナセは大丈夫だよ、ある意味、一番適しているね』
『そうか、我が子ながら、なんて奴だ』
『次のレイヤーもナナセの優先順位だよ』
次の準備に言ったゲンジの背中がなんだか嬉しそうだ。
“イブキ、僕たちみんながいるからね。もう少し我慢してね”
カグラは、横たわるイブキに話しかけた。
レイヤージャンパーズ 第二章完
レイヤージャンパーズ @METAIBUKI
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