第16話 伊吹は一緒に戦いました
こうしてエスワットに拉致られた私は、ランクトリプルSの冒険者カード、無制限の金融カード(いくらでも引き出せるらしい)、全討伐素材の提供、この国最高の錬金術師によるメタルドラゴン素材の防具作成と目まぐるしい一日を過ごした。アヤノと私は早速、王女専属近衛騎士に任命され、強引にエスワットと生活を共にする下工作がなされた。
ここは超高層魔動ビルのてっぺん、超高級サロン “リューシェ” 、エスワット、アヤノの三人で、魔力たっぷりの肉料理のコースをいただいた。そして、お城の部屋に戻り、エスワットに言われるまま、皆でお風呂に入り、体を洗い合い?皆で寝た?ベットの中で、アヤノは“僕の戦士”とか言って後ろから抱き着き、エスワットは私をウルウルした目で私を見つめ、“私の勇者様”といって前から抱き着いて来た。二人は離れない。・・・・・・。なにこの状況、百合??
◇◇◇
ゲンジはカグラと意識を繋ぐ。
『カグラ、お前の仮説イベントが進行中だ。最初のトラック事故という特異点はこのイベントのプロローグとしてのジャンプだった。しかし、近似世界へのジャンプは果たした。前の仮説の可能性は消えた。物語は加速している。いつ特異点を迎えるか、油断できない状況だ。今からは24時間体勢の監視に入る。準備を頼む』
◇◇◇
翌日、アヤノが早速選抜した4名の鑑定師が私に着けられ、魔境に威力偵察と観測機の設置を行った。区画化された魔境の更に奥に入る。
私は、メタルドラゴン素材の “赤い” フルアーマーに身を包む。出てくるAランクのモンスターを倒しながら、地上に2点、アヤノの土魔法で掘った深い穴に1点、空中の無人魔動飛行機の1点、合計4基の観測機器を設置した。
この作業を繰り返す。観測データは点、線、空間と拡がっていった。そして、エスワットは10名の計算師と共にデータをモニタリングし、解析を続けていた。
その解析によるモンスタースタンビートとの決戦場となる場所に大規模な細工を仕掛けた。
『まずい、思ったよりまずい状況だわ、ここ数日以内に奴ら、S級魔物を配置したスタンビートを起こす可能性が高い。魔人の発生確率は既に99%ね』
エスワットの対応は早かった。翌日、この国に危機管理 “ゼロ” が発令された。“ゼロ“は、戦闘者以外全員の退避、全騎士、全冒険者の国王を頂点とする軍組織化、諸国連合への通報、全てが魔境の魔人との対決に動き出した。
スタンビート、通常制御されない無尽蔵の魔物が湧き出て襲う。しかし、前方のモンスターは整然と隊を組んで陣を構成している。解析チームによると魔人は、地獄の72柱の第9位のパイモンと言うらしい。
アヤノ率いる騎馬騎士軍と、シンジ率いる近接に強い冒険ハイランカー騎馬軍は門の前、魔法軍と魔動兵器軍は城壁の上、エスワットは司令塔の中で解析師たちと情報入手と解析、指令発信を担う。
王家お抱え大規模魔法軍は城門で魔法陣を準備済みだ。私は、残ったメタルドラゴン素材で、他国から来た凄腕錬金術師により加工された作られたマントを纏い、魔人パイモンだけを狙う役を担っている。
現時点でパイモンが何処にいるかわからない。エスワットが特定する。特定するためにはモンスターの部隊を動かさなければならない。動かすために戦闘を始めなければならない。すべては私がパイモンを倒す、それを目的に動く。
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