最終章
翔琉達が現代に戻ってから大変だった。
まあ、あれだけ監視されていたのなら下手なことは出来ないだろう。
亘も腕と足に怪我を負っていたのを黙っていたので、これまたリュカが怒っていた。親子変なところばかり似やがってとブツブツ文句を言っていたのが印象的だ。
昇は翔琉達の戦いに影響されたようで、強くなりたいとユウラと共にレベル1の練習用の時渡りの仕事を率先してやっている。
未桜もまた、サラにもう2度とあんなことはするなとこっぴどく怒られたようだ。
翔琉と言えば、現代に帰ったとたん、またもや意識を失うように眠りにつき、まる1日起きなかった。あれだけの力を使えば体が悲鳴をあげていたのだろう。その間ずっとシュラがついていた。
日常の生活が戻ったのは2週間後だった。
「じゃあ私と翔琉がナグナスを見ることが出来たのは、ナグナスの感情の一部が私達の中に入ったからってこと?」
「ああ。そうみたいだ。天部だったナグナスの一部が俺らに入ったってことで、シュラ達に力を付与することが出来たということらしい」
翔琉は時を司る神から得た情報を説明した。ナグナスと戦っていた時は時を司る神の力がすべて使えたことから、ナグナスの情報が翔琉へと流れてきたから分かったことだ。
「じゃあさー、ナグナスがいなくなったから、私達のも消えたのかな?」
未桜が首を傾げながら言う。
「どうなんだろうな。俺にもそれはわからねえな」
『消えてないと思うぜ』
そう応えたのはシュラだ。2人はシュラを見る。
「なんでだ?」
『お前ら、今俺を見てるだろ?』
シュラは笑いながら指摘する。まず姿を消しているシュラを見ることは普通は出来ない。だが翔琉と未桜はシュラを見ているということは、能力は消えてないということだ。
「そっか」
『もうお前達の一部になっているってことだ』
「じゃあ、翔琉の力はどうなったの?」
ナグナスとの戦いの時はすべて理解でき使えたと聞いた。
「あの時は、時を司る神様が使用を許可してくれた感じだな。今は最初に戻って、モザイクがかかってるのもあるけど、巨大な力はすべて俺の記憶から消されたみたい」
「消された?」
『どういうことだ?』
「戦いで使ったことは覚えてるんだけど、どうやったのかだけ俺の記憶から消されてるんだよな。防御系の【みわざ】は覚えてるんだけど、攻撃系はすべて記憶から消されてる」
シュラはナグナスとの戦いで、翔琉が使った力を思い出しながら言う。
『まあ、本来あんな巨大な力は人間では使えないからな。だが、あの力でなければナグナスを倒せなかったのも確かだ』
「そうだな」
そう言って黙り、物思いにふける翔琉とシュラに未桜がふっと笑う。
「2人ともよかったわね。これでずっと一緒にいられるんだから」
「はっ!」
『なっ!』
2人は恥ずかしそうに顔を赤らめ未桜を見る。そんな反応に未桜は目を瞬かせる。
「え? 違った?」
『いや、なんかそう言われるとな……』
「そうだぞ。もう少し違う言い方があるだろう!」
「その通りなんだから、いいじゃないか」
そう応えたのは亘だ。着替えが終わって翔琉達がいる待機室にやってきたのだ。
「亘」
「一番願っていたことが現実になったんだ。喜ばしいことじゃないか」
亘の言う通りだ。この普通のことが今まで出来なかったのだ。それが出来るということがどれだけ幸せなのか、どれだけ嬉しいことなのかシュラは目を瞑りふっと笑う。
『……そうだな』
今まで他の時渡りの者と守護神を見てきて、どれだけ羨ましいと思ったことか。それがこれからは出来るのだ。こんな嬉しいことはないのだ。
「いやよくない! なんか未桜の言い方だと俺とシュラができてるみたいじゃねえか!」
的外れなことを言う翔琉に、「え? そこ?」とそこにいた全員が目を細め、シュラは「はあ」とため息をつく。
「シュラ、かわいそう……」
未桜は哀れむような顔をし、そこにいた者の気持ちを代弁する。
前世の記憶がほとんどない翔琉にはシュラほどの気持ちはないにしても、今までのことを考えれば分かるようなものだ。
『さすが翔琉だな』
リュカが笑いながらなぐさめるようにシュラの肩に手を置く。
『まあ、翔琉に期待するほうが間違っていることはよく分かってるから気にしねえけどな』
シュラは顔を引きつらせて誤魔化すように作り笑いをしながら言うが、それが余計に同情を買うことになった。
「シュラ無理してるね」
「ああ。なんかかわいそうだな……」
『…………』
未桜と亘の言葉にシュラはこれ以上言うと余計に墓穴を掘るので黙ることにする。
「なんだよ。なんか俺変なこと言ったか? おいシュラ? どうしたんだよ」
『……別に』
あぐらをかき、顎に手をあてそっぽを向くシュラに、翔琉は首を傾げる。
「なんかシュラ、機嫌悪くねえか?」
『俺に話しかけるな』
「は? なんだよ! 意味わかんねえ!」
『お前には一生わからねえよ』
「なんだとー!」
そんな2人を見て、また始まったと亘達は嘆息するのだった。
そこへちょうど越時と昇がやってきた。
「みんなそろってるかー。今日から通常通りの任務だ。心してかかれよ」
だが誰1人越時の話を聞いていない。翔琉とシュラに関しては喧嘩中だ。
「あいつらまたやってるのか……」
「仲いいのか、悪いのか……」
昇もはにかみながら呟く。
「翔琉ー、シュラー、その辺にしとけー」
だが2人は越時の注意が聞こえないらしく、まったく言い合いをやめようとしない。
「おい! 翔琉! シュラ!」
『
「知るか! 俺の前世だろうが、俺とは別人だ! 一緒にするな!」
『一緒にしてねえだろ! 見習えって言ってるんだよ!』
まったくやめるそぶりを見せない2人に越時の堪忍袋が切れた。
「おまえらー! いい加減にしろー!」
越時の怒鳴り声と、翔琉とシュラがいきなり地面にたたき付けられるのとが同時だった。
「あーあ、親父が切れた……」
亘が肩をすくめ、リュカとトスマは嘆息し、未桜と昇はその場に固まる。
「……お、おっちゃん?」
『越時?』
「うるせい! 仕事だ!」
今まで見たことがない怒り沸騰の越時を見て、シュラと翔琉は冷や汗をかく。
『久々に本気で怒った越時を見たのう』
『ああ。あいつの本気は俺でもおっかない』
トスマとリュカの呟きを聞いた昇はびくっとする。あのリュカでさえ怖いと言わせる越時は相当怖いのだろうかと恐る恐る見る。
「これ以上俺を怒らせるな」
圧のある低い声音で言う越時に、シュラと翔琉は黙って何度も頷く。
「わかればよい」
するとシュラと翔琉を地面に拘束していた術がとける。シュラは自分にかけた術に驚く。
『越時も俺に術がかけれるのか?』
シュラの疑問にトスマが笑いながら応えた。
『越時が本気で怒った時だけ、わしらにも術がきくのじゃ。不思議じゃのう』
『なんだそれ……』
意味が分からない。だがそこで越時の号令がかかった。
「じゃあ仕事の説明するぞー。ったく、とんだ時間くっちまったぜ」
まだご立腹のようだと、翔琉とシュラは背筋を伸ばす。
「今回は、明治時代。レベルは3。内容は――」
そしていつものように会議が始まったのだった。
完
――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただきありがとうございました~(≧∀≦)♪
最終話を迎えることができました。
本当は、好きなのでもっとだらだらと続けたかったのですが、一応一旦ここで終わろうと思います。
この後のお話が、『時渡り2ー水の神と子狸編ー』でございますw
この作品は、コンテスト用に書いたものです。
もしよろしければ、そちらもよろしくお願いします~(^^)
また『時渡り』の続きが出来たら、また載せようと思います。
少しでも面白いと思っていただけたなら、☆評価やレビーをしていただけると、
きゃほ~!(≧∀≦)と喜んじゃいますw
よろしくお願いします。
本当にありがとうございました!m(_ _)m
今後ともよろしくお願いいたします。
碧心☆あおしん☆
時渡り 碧 心☆あおしん☆ @kirarihikaru
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