勇者の勝ち方

結騎 了

#365日ショートショート 294

 世界を守る。そのための鍛錬を積み、半生を捧げてきた勇者は、ついに魔王と対峙していた。

「やっとここまできたか、勇者よ」

 魔王はおどろおどろしい王座に座りながら顎に手をやり、撫でた。勇者が構える剣からは赤黒い血が滴り落ちている。歴戦を思わせる、血塗られた剣だった。

「しかし勇者よ。お前はワシには勝てん。パワーの差が圧倒的なのだ」

 事実だった。決して、奢りではない。魔王の絶大な魔力、そしてフィジカルの強さは、勇者が勝てる見込みをゼロにしていた。

「そんなことは関係ない!」。勇者が叫ぶ。「俺は世界を守るためだけに生きてきたのだ!」

「威勢のいい言葉だ。なあ勇者よ、剣を捨ててワシと組まないか? 世界を征服しようとするワシと、世界を救おうとするお前。実は我々の存在意義は同根なのだ。仲良くやれると思うがね」

 目だけを笑わせて、魔王はまさかの提案を繰り出した。

「……俺ではお前を倒せないことは分かっている。だがしかし、世界は守る。それだけは絶対だ」

「そこまでいくと馬鹿の域だな。ワシには勝てないが、世界は守りたいと。そんなことは不可能だ。一体どうすると言うのだ。大人しく、ワシが支配する新しい世界で、奴隷として働いてくれ」

「それなんだよ」。勇者は剣先を突きつけたまま言い放った。「魔王よ。お前の言う世界征服とは、罪もない一般市民らを奴隷にすることだ。一方、俺の指す世界はちょっと違う。この環境、そして豊富な資源。これらが何よりも貴重なのだ」

 魔王はいぶかしがった。こいつ、何を言っているのだ。

「だからこそ、もういない。お前が奴隷にしたがる一般市民はもういないんだ。この旅は、本当に長く、国のあちこちを転々としていたから……」

 勇者が構える剣からは赤黒い血が滴り落ちている。

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