ドッグトレーナー舐めてたわ…ほんとに申し訳ない

 それから…どれだけ経っただろうか?

 魔力も残り僅かになった。

 2人だけ、時の止まった世界で、時間で言うと20分といった所か。


 俺のスキルは【魅了】ではない。

 【調教】とは『敵意』から『忠義』へと時間をかけて心を変える。

 強張りや怒り、興奮から脱力へ…そして落ち着きを取り戻した時…飼い犬としての真の姿を取り戻す。

 犬だったら販売店や人に預ける事が出来る。


 まぁ、ピブルが飼い犬かどうか知らんが…


 強さ故の唯我独尊、強ければ強い程その意識は高まるが、本来の潜在犬種族はリーダーの元でこそ平穏を得る。


 思えば最初から時間をかけて調教しているハーシェはこの技を必要とせず、何も考えていないレトリバンヌ、主を探していたトサイーヌは魔力を少し流すだけで落ち着いた。


 ボルゾイーヌとチワワンは本当に面倒くさかった。2人は暴虐非道の外道であったし、流石に調教しにくい犬と元の世界のテレビで言っていただけあった。

 当時の魔力で15分、魔力も底を尽きかけて、ハーシェか後ろで控えていなければ大変だった。


 俺も成長が悪いとはいえ、あの時よりも2倍以上、魔力は上がっている。

 それでも20分…そしてまだ、脱力させてない。

 そもそも俺のスキルは魔力に干渉するのだが、ピブルは明らかに違う力が混ざっている。

 選ばれた者の加護…とでも言うのだろうか?


 命懸けになるかも知れない、魔力の欠乏は命取りだから。

 しかしテレビで言ってたな。ピットブル…最も扱い難く、最も強い。

 そして、もしも認められればこれ程心強い犬はいないと…

 まさに【調教】スキルの頂点に挑んでいると思うと力が入る…命を…かける…


「……………ハッ……ハッ……………」


 ピブルよ息が粗くなってきた…重量級のガントレットを失った、薄手のグローブに包まれた華奢な両手が、ゆっくりと俺の顔を挟む。


 ウェーブのかかった金髪を揺らし、驚愕、抵抗、不安、欲望…色んな感情の混ざった顔を、俺の顔に近付かせる…


 ペロ…ペロ…ペロペロ…レロレロレロレロ…


「………ハッ……ハッハッ…ハァ♥……ハッ…♥!?…」


 顔を舐められ視界が歪む、俺の意識も魔力欠乏が激しく歪む。


 しかし繋がっている魔力は、ピブルの納得出来ずとも、心が折れていく感覚が伝わる。

 何故だ!?と自問自答を繰り返すピブルの心を感じる。


 歳は20そこそこ、1度も頭を下げず、力のまま覇道を進んだ英傑であり覇者。


 こんな経験、1度ぐらいして…!?うぉ?鼻血!?


 ブーーーーーーーーーーーー!!!


 一瞬、意識が飛んだ。

 俺の手が離れると同時に、顔を包んでいた両手が離れ尻餅をつくピブル。


 身体をくねらせながらアーカイヌを掴むが、何も起こらずそのまま地に落ちる


「はああ!♥?うあぁ♥!?なんれ!?♥あれぇ!?♥ちぎゃあう!?♥こんらろぉ!!♥」


 ミニスカートの聖女のような格好のピブルが、動かない腰や手を動かし、まるで芋虫のように這いずりながら俺から逃げようとする。


 顔を舐めていたピブルの口周りは俺のはなで血塗れ、胸の辺りまで血が飛び散っていた。


 見ると【調教】スキルが通る『脱力』状態の影響で起きる失禁、脱糞、そして穴という穴から出る体液は確認済みだ。


 白いミニスカートと中の網タイツのような鎖帷子は茶色、あらゆる場所は水浸しで。


 俺は意識がグラグラだが、それでも魔力回復の丸薬を過剰に飲んで進む。


 孤高の強さとは恐ろしいものだ。

 まだ柄を掴む、戦う意志…逃げるというのは相手に降る気は無い、リベンジを果たそうとする気概。

 更に…この状況でもまだ仲間を呼ばない…誇りだ…誇りの高さは調教への抵抗力を高める。


 彼女に【調教】をするなら…調教師として命をかけて、全力で尽くす!


「ぐおお…待て!…まだだ、まだだぞピブル…ステイッ!」


「うああああ!?♥やらぁぁぁああぁぁぁああ!?♥♥「シッ!」


 ポスッ


 魔力と意識の回復は違う、疲労は俺の意識を奪い、朦朧としながらも、丸薬で回復した魔力を同じ場所、下腹部に流し込み続ける。

 ピブル…ピットブル…落ち着け…リーダーは誰か…考えろ…


 声は出ていないが、彼女は絶叫している。

 自分の意志とは関係無く足がピーンと伸びたり縮んだり、目はこちらへ視線を外さないが、蕩けては開き、白目になっては見開きを繰り返す。

 絨毯を掴んで顔を左右に揺らす大きく口を開け涎と鼻水を垂らす。

 凄まじい下腹部の痙攣、何がどうなっているのか分からないが腹がベッコンベッコンブルブルブルっと揺れる。


 犬…潜在犬種族…思えば俺はこの世界に来て…昔よりちょっと犬詳しくなり、大分、犬が好きになった気がするな…


 そんな事を…思いながら視界が歪み、俺の意識は消えていった。

 それでも流す、魔力を…エナジーを…

 まるで静かな…静かな水面、静寂の暗黒に流し続ける…



――おめでとうございます 神の使いを調教しました――


 何が?調教?


 そう言えば、ハーシェは勇者とよろしくやっているだろうか?


 恋愛をする事は無かったが…ブリーダーの気持ちが分かる…手塩にかけて育てたんだ…良い飼い主の元で…幸せになって欲しいわな…



 夢を見ているのか?この世界には犬がいない。

 だから転生前の世界なのか?

 俺はシベリアンハスキーを抱えていた。

 

 犬を飼うなんて、前の世界では考えられなかった事。

 でも俺は犬を飼っていて、ちゃんと躾がされていて、従順で可愛い犬を撫でる。

 コイツの名前は?あぁ…ハーシェだ。

 身体を撫でてやると、ペロペロと顔を舐めてきた。

 可愛いな、こんなんなら結婚なんてしなくなるわ…



 俺は舐められながら、ハーシェを撫で続けた。




 拡がる視界…また夢から覚めたのか?

 だが…今度は違った…先程の続き…現実か…


 周りには屈強な戦士達。

 俺は玉座に…玉座に?何で座ってる?

 それに重い…大型犬ぐらい重い、そして先程の可愛いペロペロという感じではない。

 俺は何だ?玉座で巨大な何かを抱っこしている。


 レロォっと艶かしく舐められた…


「ハァ♥ハッハッ…御主人様、お目覚めですか?」


 先程まで殺意一杯だった金色の目が…まるで魅了にかかったかのように…金色のハートになっていた…





 



 

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