帝国に行った所でざまぁする気は無いんですよ

ピットブルって見た事ある?俺はテレビでしか無い

 俺は故郷に帰る馬車がそのまま帝国に向かった。

 俺もトサイーヌも寝てた、電車に乗ったら乗り過ごしたリーマンの様に。

 自分の立場を忘れていた。

 白狼騎士団…一応王国では強い騎士団の副団長だしな。

 

 普段はチワワン何かが確認するんだろう。

 暗部と繋がっているし、疑うのが仕事だからな。

 更に言えば…それは俺の仕事でもあるが自分の事となるとどうでも良く、完全に油断しきっていた。


「一つ聞きたい…貴様に我々から何度も宣告した筈だ。白狼騎士団、我が帝国に降れ…と。何故、返事をしなかった?貴様も国では大した対価を貰ってないと聞く…帝国参謀になれば10倍は出すぞ?」


 そういや何か手紙みたいの来てたな。何か…ただ帝国と戦争している国はいくつもあり、白狼騎士団はハーシェ以外はろくな立場ではないし、大して偉くもない。

 そのせいでやたら結果を出した白狼騎士団は、団員へ他国からのヘッドハンティングは結構多かった。

 

 そもそも、俺が生き残る為に強者を調教し部隊長を揃えたが、正直ハーシェがシーシと婚姻を結んだら解散する気だった。

 シーシは馬鹿みたい行動を取る男だが、見方を変えると男気溢れる男だし悪い噂も聞かない。

 立場も侯爵家だっけ?色々あるんだろう。

 だから問題無さそうだったら故郷に帰るつもりだったし…


「聞いてるのか?それとも我が、自らしたためた文、沈黙が返事か?」


 この場を脱する…逃げるのは出来ないだろう…帝国の最前線の砦…いや、城か。

 周りには白狼騎士団の部隊長クラス、いや、それ以上の強者が並んでいる。

 なら…やるしか無い…俺の返事は…


「疲れちゃってぇ…めんどくさくてェ…」


 ピキィッ


 帝国を作り上げた自信…その強さに裏打ちされた余裕…仮面を剥がさなくてならない。

 俺のスキル…【調教】は馬鹿みたいに感情をコントロール出来ない犬程効果を発揮する。

 今、明らかに少しキレた気配がした。


「ほ、ほう…ならばこれを見てもその態度、貫けるか?」


 横にあるカーテンが開いた。


「イモ!進まない!走ってるのに進まない!イモー!はし!すす!」


「クゥ~ン!クゥ~ン!クゥ~ン!」


 あの二匹、いや、2人は…


「ああ!イモだすざま!あれはレドリバンヌどダクズブンでさぁ!」


 そこにはムッチリ巨乳のレトリバンヌがハムスターの運動器具のような物体の中をグルグル回しながら走っている。

 そしてダクスフン…全身を拘束具で抑えられた長い黒髪の女、暗そうな雰囲気の美少女だった。あれはダクスフン?あんな顔だっけ?後、地下に居すぎて言葉を忘れてるな…


「貴様の決断によってはこの2人がどうなるか?それが分からぬ貴様ではあるま!?なに!?」


 ピューイ!


 俺は口笛を吹いた。黙るレドリバンヌとダクスフンの2人…俺が出来る奴という事を伝えていきたい。そして…


「ピブル、何見下してる?俺の靴を舐めろ。仰け反るな駄犬が」


 ピキィッ! 


 そして、煽る。

 玉座に座りながら凄まじい眼力と浮かぶ血管、金色の目が茶苦茶怖い。

 そしてピブル帝の側近が騒ぎ始めた。


「我にお任せを!この無礼な男を晒し首にしてみせましょう」


 お前らが来たら俺は即死する、やめろ…


「ピブルちゃんは俺如きが怖いから仲間を特攻させるのかな?アイツを殺すワンって(笑)」


 ピキッピキィッ!


「お前等下がれ、余が自らその口を試す…このアーカイヌでな…」


 来た、ピブル帝か動いた…アーカイヌ…至宝と呼ばれる剣とも言えない不思議な柄…持つものによって形を変える伝説の武器…そして…


「アーカイヌだけじゃ足りないんじゃないか?イーイヌの盾は失くしちゃったのかな?良いから舌出して舐めろ」


 ピキピキピキィッ!


 ピブル帝を見る…立ち上がりこちらに向かってくる姿を見る。

 小柄ではあるが筋肉の形が見える程のビッタリしたミニスカートのドレスに、タイツ…まるで聖女のようだが…

 鎧は絶対重いであろう、それで殴るだけで武器になりそうなゴツいガントレットと、アーマーブーツだけ。

 全身から淡い光を纏っている、多分何か特殊な力だろう。


 これで全身鎧とか着てたら脱がす所から初めないといけないが…

 俺のスキル【調教】は手の感触を伝えないと発動しない。鎧だと感触が伝わらず不発する。

 …そして多分、本来はあの生身の身体を傷付けるのが難しい程の強靭な肉体なんだろう…

 だがあれだけピッタリしてれば問題無い。


「誰も手を出すな!このピブル帝の名において!!その身体、この世からしょうめ「五月蝿い駄犬、舐めろ馬鹿」


 会話を遮る、凄まじい怒りの感情のままピブルは笑った。

 そしてゆっくりと近付いて来る…


「フフフ…良いぞ、数少ない、死の間際まで自分をつらぬッ!?「シッ!」


 ポスッ

 

 間合いに入った瞬間、ピブルが素早く動いたせいで脇腹のつもりが下腹部にタッチが当たった。

 最低でも3本、人差し指中指薬指の指の腹で身体をタッチする。

 当たれば成立する、俺の固有スキル…


 まるで獣の五爪のように長く伸びる宝剣アーカイヌを上段に構え、今にも俺の身体を五つに分けんばかりの勢いのまま止まった。


 指の腹、そこから静かな魔力エナジーを流し込む。


 俺の固有スキル【調教】スキルの成立


 2人だけの世界、外から見ればお互いの時が止まっている。

 息を止めている訳では無い。細く、長く、静かな魔力エナジーを流し込み、相手はそれを受け入れる。

 


 最初は無言で微笑んでいたピブル…だが徐々に瞳と唇は震え、汗が顎を伝う。


 カラーン…ガシャシャーン…


 凶悪な形をした剣、柄が落ちた時…その五爪は消えた…盾も落ちた、そして両手が下がるとそのままガントレットも落ちた。


 勝てるかどうか分からんが…もし貴女が負ける理由をあげるなら…胴体に鎧を着ていなかった事、制止した仲間が動けないその怖さ、そして…その強さへの圧倒的な自信だ。


 俺が水面のような心と顔で目をやると、ピブルの目は明らかに動揺していた。


 

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