1枚目 シミと私 2
施設の中はとても凛とした空気だ。
(かっこいい…)
「射撃部は、民間に配備される育成施設のひとつです」
と説明する小峰先生はヘリオスの制服に着替えた。
アリア・ミデンの制服は、2人とは違うけれど。それでもかっこいい。
「ミデンも同じ場所で活動するんですか?」
「一応。ただ、反対方向になるので、あまりこちらには寄らないです」
「では、区分としては、軍事施設というわけですね」
軍かぁ。
そういえば、菊姉と岬さんも軍人ということになる。あまり気にしたことはない。
凛としている2人。…なんで純白なんだろう?
「よく聞く、血を流さない理想的な軍隊って、なんですか?」
「“はじまりの子供たち” のことを、ちゃんと調べたことは?」
「いえ。…すみません、ないです」
「そういうところは、ちゃんと調べないと」
「すいません…」
教科書にのっている文章は、難しすぎる。
菊姉や岬さんに聞く?
いやいや…。評価落ちそうだな。
「駒野さん、なんでだと思います?」
「え?…えっと…―。すっごい、強いとかですか…?」
「…はぁ」
「えっと…」
「すみません、俺の方から補足説明しますので、少し離れてついていきます」
「あぁ。じゃあ、資料を転送しますので―」
失敗。
すこし離れて進むことになったけれど。佐山君にならきけるかも。
「佐山君はわかる?“はじまりの子供たち”だっけ?」
「一応、学校で習う範囲くらいは…」
「どんなお話?」
「アリア・ヘリオスをつくることになる切っ掛けとされる、僕らより幼い子供たちの話だよ。本当にあったことみたいだけど。あんまりピンとこない」
「そっかー…」
「簡単にいえば、その子供たちがいるから、アリア・ヘリオスがあるって話だよ」
「後で調べてみようかな…。あぁ…先生たちには、頭の悪いイメージ与えちゃったよね…」
「まぁ…、あの人たちは当事者だから」
「あぁ。ダメな印象をなんとかしなきゃ…」
しっかりしようとして、また失敗。
だめだ。こんなんじゃ。
はやく謝らなきゃと焦り、施設をすすんでいく。
佐山君の隣にも居られなくなったらどうしよう。
全てをとりあげられてしまう、怖い。
―それがもし、あの人にだったら…。
隠しているつもりだろうけど、内緒で誰かと連絡をとっている。
その内容もしらないし。誰かも知らない。
私が知っていることをまだ伝えてない。
その考えを遮るように、銃声がして、反射的に耳をふさいだ。
佐山君の端末がおちる。拾い上げた端末は、
視線の先は、菊姉。
「菊姉さーーん!!」
「聞こえないよ。俺たちもつけてる、このモニターをつけてるんだ。えっと…あの指示器を使えればいいんだけど…」
はやく謝ろう。かけよって、スイッチをいれる。
―キーーーーン…‼
何?すっごい音がした。
「許可なく触ったらいけないよ…」
「あ…」
菊姉が、こちらへ寄ってくる。
あ。やばい。ごめんから言った方がいい?それとも―。
「あー…えっと。許可をいただきありがとうございます!!偵察です!ご苦労様です!!」
「視察…のほうがいいんじゃないか?」
「あー。そっか!」
「香織。佐山君」
「ごめん!」
佐山君の手が、私の頭を下げさせる。
もしかして…、またやった…?
「ここにあるものは危険なものもありますので、勝手に触れないようにお願いします」
「そうなのー?」
先生も何か言ってくれればいいのに…。
「一応、香織とおなじ、責任のある立場だから言ってくれてるんだよ」
「それは、解ってるよ?私は、大丈夫だよ?さっきは…びっくりしたけど」
「はぁ…」
「そういえば、コーヒーかけちゃった服は」
「この施設内のクリーニングにだした」
「えぇ…すっごく高そう…払えるかな?」
「ここの施設は無料だから」
「そうなんだー!!ほっとしたー!!」
「…先生たちとはこなかったの?」
「途中で、ゆっくりみることにしたんだ」
「そう」
「練習邪魔しちゃったね。ごめん」
「安全な見学部屋があるから、そこでみててくれると…」
「え?あー、そうだね。うん!でも、邪魔しないように、佐山君と近くで観てます!ぜひ練習続けてくださいー!!」
「はぁー…」
「おっはようさーん!サンサンサーーン!!!太陽まぶしいぜー!」
岬さんだ。
私が生徒会長になると知ると、生徒会室にいちはやく挨拶に来てくれて、タメ呼びでいいと言ってくれた優しい人。
「菊姉、機嫌悪いのー?」
「あ?招集でもあんな感じやで。たぶん深夜からやし、朝飯まだなんやろ。腹減ってるだけやてー」
「よかったー。あとでなんか買ってあげよ!」
佐山君に提案する。軽く頷いてくれた。
岬さんは、私の視線にあわせると優しくいう。
「でもなー。ここの勝手に動かしたらあかんで?壊しでもしたら、高いからなー」
「ごめんなさい。声が…届かなくて…」
「いや、分かればええの。ええの。あー。ここ匂いとか、音とかうっさかったろー?オモテナシができてへんな。すまんのー」
岬さんと菊姉は、身近な理想。
こうありたいと思う2人の行動。
通された部屋は、今までと少しちがってモダンで…フォーマルな部屋。
「あれ?小峰はんおるやん。おはようございますー」
「おう おはよう」
「キミが、岬君か」
先輩は、先生とはなしはじめても、敬語にもならないし、態度を変えることはない。
まるで友達のようだ。
「はぁー…。あ、えっと菊姉の担任でしたっけ?えっとー…音楽の深見先生?初めまして 岬友章です」
「どうも」
「岬先輩。俺ら、連れてきてもらったんですけど、途中で別行動になりまして」
「さようで。小峰はんは、ここはもう慣れたん?」
「えぇ。そこそこなれましたね。コーヒーも御菓子も戴いてます」
「ならええね。ってか、さっきのも見とるだけやったん?」
「もうすぐ来るのは、わかってたので」
「かぁーー。相変わらずの、いけずやー。いややわー いややわーもう!! あ、ここ勝手につかいーね。そんなら、自分の練習もあるから またな」
銃声は、一切聞こえてこない。
佐山君が飲み物を持ってきてくれて、近くのソファに座った。
個人スコアというデータを佐山君が見てる。
「すっごい、びっしり書いてあるね」
「あぁ…」
「身長、体重、手の長さ、指の長さ…?平均スコアに…頭脳スコア?これってなに?」
「どうりで」
(制服の採寸とかにつかうのかな…)
サジットは、規定のサイズに合うものから選ぶけど。ヘリオスは違うらしい。
その人の制服をつくると聞いた。
(いいなぁ…)
アリア・ルクスの純白の制服がまぶしい。
「佐山君」
静かに香織が口を開く。
「ん?」
「ここって別世界だよね」
「…あぁ、そうだね」
こっち側の人間になれたらいいのに。
せめて、あの2人に近づけたらいいのに。
「大人だなー…」
佐山君は黙ってしまったまま。私は2人を見続ける。
あの2人のように、対等になれたらいいのに。
(皆からも何も言われないんだろうなぁ。変な噂とかないだろうな)
Cl/o/ver-K YouthfulMaterial 文章部 @youthfulmaterial
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