第18話
おかしな夢を見たのは、その晩のことだった。
目の前に佑輔がいて、魔女が秘薬でも煮ていそうな大きな鍋を、これまた大きな木べらでかき回している。鍋をのぞき込むと、そこには真っ赤なイチゴジャムがふつふつと煮立っていた。
彼はそれをスプーンですくいあげると、食べるのではなく、リップクリームのように唇に塗った。するすると唇になじんだそれは、彼の唇を紅く染め上げる。かと思えば、彼が唇をぺろりと舐めると、すぐに色が落ちてしまう。ジャムの甘さに幼い笑顔をほころばせて、何度もジャムを塗っては舐める。
涼々もそのジャムが欲しくなって、彼の方に手を伸ばした。しかし、かなり近くに立っているはずなのに、どうしてか彼に近づけない。伸ばした手が、鍋の上で空を切り続ける……
無機質なアラーム音が、涼々を現実に引き戻した。スマホの画面を見ずにアラームを止めて、そのままベッドの中で、今見た夢を反芻する。
昨日は結局、フラペチーノを飲んですぐ解散した。とはいえ、慣れない外出に、変な疲れが出たのだろうか、と涼々は思った。
朝の身支度に時間をかけない涼々は、アラームの時間にもあまり余裕を見ていない。さっさとベッドを出て、冷たい水で顔を洗う頃には、疲れが見せた不思議な夢のことなど、きれいさっぱり忘れていた。
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