第15話

 週が明けても、仕事中はとにかく眠くて仕方なかった。一度崩れた睡眠リズムはすぐには戻らず、この二日間は夜なかなか寝つけずにいる。待合室に効きすぎた暖房がさらに眠気を誘った。それでも仕事は間違えずにこなしていて、自分の筋金入りのロボットぶりに、他人事のように感心するしかない。

 休憩時間になり、半分目を閉じるようにして弁当をつつく。食べ終わったら仮眠しよう、そう決めて見るともなくスマホのニュースを眺めていた。マナーモードにし忘れたスマホからポン、と軽い音がして、画面中央にラインのメッセージが表示されても、企業アカウントか何かかと軽くスワイプしようとする。だが続いて画像が送信されてきて、さすがに気になって通知をタップした。

 白黒のその写真は、獣の毛皮にも似た、もさもさとした質感が一面に広がっていた。その中央に、不自然に切り取られたような穴があり、人型になりかけている、異様な存在感を放つ物体がある。見慣れないけれど知っているその画像は、友梨が今しがた撮影してもらったという胎児のエコー写真だった。まだ小さいんだけど、すごいよね、と無邪気にメッセージを続けてくる友梨とは裏腹に、涼々の身体では、胃に入れたばかりの弁当がおかしなうねりを始める。

 スマホを遠ざける直前、最後に見えたメッセージは、『ママに見せてね』だった。自分は単なる伝書鳩だったのだと、胸の不快感が塊になって腹に落ちるような感覚を覚えた。

 まだ三分の一ほど残った弁当の蓋を閉じ、スマホを顔の前に持ち上げて、ラインのトーク履歴を見つめる。友梨のスタンプのすぐ下にあるのは、佑輔から最後に送られてきたメッセージだった。

 返信を続けなければという義務感は特に感じていないはずだった。ただ、少なくとも自分を伝書鳩扱いしない、という点では、友梨に空虚な感動の言葉を投げつけるよりも、彼の方がいくぶんかましだ。いっそ、強いと誤解されているのならば、どこまでも余裕のあるふりをしてみるのもありかもしれない。

 半分眠気に乗っ取られた頭で、指の動くままに任せる。あくまで暇つぶしだ、なんて、自分に言い訳をしたくなるのが不思議だった。

『その後、どうですか。私に何かできることがあれば言ってください』

 トーク履歴の一番上の段に移動した文面を見て、これでは病院で使う社交辞令と同じだな、と空虚な笑みが漏れる。もっとも、社交辞令以外の言葉など、涼々に思いつくはずもなかった。

 残りの休憩時間を予定通り仮眠にあて、ふたたび仕事に戻ったときには、気まぐれに送ったメッセージのことはすっかり涼々の頭から消えていた。

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