第1話 3
ハッピーバースデー3
「あぁー…月佳もそっちのほうか?」
「そっちって、なに?」
「嫌われているので」
「え?」
「この店と、私のことです」
「えーっと…?」
「すみません、自己紹介がおくれました。
この店で、道具屋をやっています。セネヴィル・アリスン・フィーロビッシャーと申します。どうぞセネヴィルと呼んでください」
少女は礼儀正しく挨拶をした。
「あ!はい!はじめまして。瑠璃です。嫌われてるって言うのは…」
「そのまんまです。理由は、専門店ではないからですね。
道具屋には、どこの専門か分かれる暗黙のルールがあるのですが。私の店は、色々なものを置いています」
「それってそんなに、いけないことなんですか?」
「いけないことだそうです」
「店を変えるよ。瑠璃」
月佳の手を握り返して、止めた。
「月佳!私は、ここで全部揃える!!」
「言うと思った…」
「いいんですか?」
「まぁ、本人が言ってるから…。商品をみせてください」
セネヴィルちゃんは、道具をやさしくならべていく。
「すご…珍しいのもある」
「こちらの方が扱いやすいかもと思ったので」
「性能が暴走しそうだけど」
「初期調整済みです」
「その歳ですごいことするね…」
「それしかできないです」
「すごい綺麗だねー!!杖は?」
「杖は、こちらですね」
しなやかさのない、どっしりと、しっかりとした杖。
手にもつには、すこしごつい印象がする。
「月佳のしなやかな杖とは、真逆だな」
「…あれ、反応ない。しょぼくれた?」
「もうちょっとカッコ良いものが来ると思った…」
「今回、担当してくれた杖職人の方から、お手紙をお預かりしています珍しいですね。この人無口なんですけど…」
―今回の杖の持ち主さんへ。
ここ最近は、特殊な形の杖も多かったが…。久しぶりにいい仕事をさせてもらえた気がする。ありがとう―
「いい仕事。ふへへ…」
「よかったな。瑠璃」
「ん…?この写真。お友達?」
「はい…」
セネヴィルちゃんは、やさしく微笑むと写真を伏せてしまった。
照れているのか、喧嘩でもしているのかもしれない。
私も月佳とは小学校時代は派手にやりあったし…。
「その子が有名な?」
「…そうです」
「有名人なの?すごいね。モデルさんとか?」
「その子の力が有名なの。悪い方にね」
「悪い…?」
「お飲み物お持ちしますね」
セネヴィルちゃんは、ゆっくりと奥に消えてしまった。
「月佳、なにもダチの前で話をしようとしなくてもいいだろうよ?」
「セネちゃんは、そういうの承知の上でやってんでしょう?」
「本人から聞いたことないけどな」
「ねぇ。ごめん。聞くことじゃないかもしれないけど、どういうことかな」
月佳はデイと目を合わせて、ゆっくりと説明しはじめた。
「-つまり、その力が暴走しないように、見張り役をやってて…」
「もしものときは―」
「そんなの辛すぎるって…!」
「だから連れてきたくなかったんだって!!!瑠璃はこういうのに首つっこむじゃん!!」
「…」
「だいじょうぶですよ。私たちのことで喧嘩はやめてください。落ち着くお茶にしました。口当たりもいいとおもいますのでよかったら」
「ごめん…」
「友達だから、できることをするだけですよ。私は、道具屋で、雪は、人間で。運がよかったと思ってます」
お茶を含んで、ゆっくり紡いだ。
「どこか知らないところで、起きることのほうが、よっぽど怖いですよ。その時何もできないのは…」
同じ気持ちを知っている。
ついさっきまで、知らなかった、私の近しい人の話を思い出す。
笑ってたお婆ちゃん。
猫として死んで、使い魔として帰ってきたデイ。
月佳とは、大人になったから距離ができていたとおもっていた。
でも、そうじゃなかった。
デイはいってた。『人間界だけの枠組みではおさまらないことも出てくる』と。
私が何の考えもなしに生きていってしまっていたら。
セネちゃんのようなどうしようもできないことが月佳に起きたら、私じゃどうしようもできなかったとおもう。
それを私は知らないままだったとしたら…。
「うぐ…。瑠璃、泣いてるのか?」
「ないて…うー…」
「さて。これで全部です。他に何かありますか?」
セネヴィルちゃんは、特別にと大きなカバンを用意してそれに私のこれから必要になるものをすべて詰め込んでくれた。
そして、小さなケーキと花束をおいて。
「ハッピーバースデー。これからよろしくお願いします」と笑った。
そのあと、みんなで小さなお茶会をした。
久しぶりのパーティーは、とても暖かかった。
その数日後に、セネヴィルちゃんと、友達の雪ちゃんに起きたことは、私は忘れることはないだろう。
あの小さな背中に背負った決心は、私はできないと感じた。
魔女のすゝめ ―現代的魔法との付き合い方― YouthfulMaterial 文章部 @youthfulmaterial
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