第1話 2
「それで、私の家にきたの? 寝巻のままで」
「はい…」
「それを、止めることなく?」
「この姿だと、どうしようも…」
「もう…。とりあえず、私の服貸すから…」
「すみません」
「あと、デイくん。言いにくいんだけど。動物は…」
「ごめん、つれてきて…外で待って―」
「大丈夫。ちゃんとできる」
懐かしい甘い匂いと、微風。
引き込まれるような黒髪がサラサラと擦れ、金色を帯びた目をした男性になっていた。
「どう?こればら、一緒にいれるかな?服も目立たないようなものを選んだつもりだけど…」
「それなら大丈夫」
「変身魔法…?」
「そう。…瑠璃、どこまで聞いてる?」
「まだ、ほとんど聞いてない」
「じゃあ、とりあえず。買い物行こう。付き合いながら説明するよ」
「ありがと」
月佳は、携帯をかざしてから玄関をあけた。
出た先は、ショッピングモール。
確かに玄関を開けたのに、これぞ魔法…!
「こういうの便利だね」
「今日のうちに買い物を終わらせたいから。ちゃんとついてきてね」
「…えっと…携帯ショップ?」
「こんにちはー。本日はどのような―」
月佳は、リズミカルに机を5回叩くと、スタッフの人が変わった。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「俺はちょっと、この後の連絡してくる」
この携帯ショップは、私もよくつかっている店舗だけど。上の階に通されたことはなかった。
落ち着いた間接照明の店内は、携帯ショップとは思えないほどの高級感。
「瑠璃、携帯かして」
「うん」
「お客様は、当店は初めてだったでしょうか?」
「あ、いえ。携帯の契約は―」
「彼女は、初めてです。先ほど成人したので。彼女の携帯に仕込みと。芯の調達をお願いしにきました」
「そうでしたか。成人おめでとうございます。こちらへ」
色々な石が置かれて、文字が刻まれている台座の前に通された。
「手をこちらに翳していただいてもいいですか?」
「こうですか?」
文字が淡く光り、呼応するように、石がひかりはじめ、私の体を調べるように浮遊する。
「くすぐった…」
「すぐ終わりますのでー」
石たちは、動き回り、喋り出すような動きをしたあと、倉庫の方から箱を積み上げていく。
「お疲れ様でした。お席のほうでお待ちください」
スタッフさん3名ほどで、箱の中身を丁寧に取り出し。私の携帯を中心に、台座にはめる。
「それでは、始めさせていただきます」
「なにが始まるの?」
「さっき精霊が宿った石が選んだ材料で、瑠璃がこれから使っていく道具の芯をつくるの。核、心臓のようなものといえばわかるかな…。それを持って、あとで道具屋によるからね」
「道具屋かぁ。ちゃんとあるんだね」
「そりゃあるよ。で、今はスマホの中に、小さな杖の分身を仕込んでもらってるの」
「杖、持ち歩かないの?」
「ちゃんとしたのはあるよ。ただ、慣れないと、持ち忘れたり、かさ張ったりするからさ。杖振り回してると目立つし」
「あぁー…」
「だから、携帯用として比較的慣れている携帯に仕込んでおくの」
「そうなんだ」
「さっき精霊石たちが選んだ材料を今度は、杖職人に渡して。組み合わせて、杖になる。道具職人に渡せば、道具にしてくれる。
職人には、精霊の声がきこえるんだって。この杖はこうあるべきだって。だから、デザインも、長さも人によって違う。自分の杖って言っても、長さは選べないし」
「月佳の杖は?」
「私のはこれ。自分の背丈以上の杖になる人もいる。写真あったかな。…ほら、これとか?」
写真の男の人は、自分の身長よりもはるかに大きい杖をもっている。
「え。全然大きい。こんな場合もあるんだ…」
「重さはあまり感じないらしいよ」
「隣の人は、斧持ってるけど、戦士?」
「それも杖だよ」
「ええええ」
「この世界は、自分を認めることで始まり、共存する世界だから」
「?」
「瑠璃のお婆ちゃんが教えてくれた言葉だよ。形が思ってたのと違って当たり前。自分の形は思いの外、自分で分かってないから」
「なんか小難しい話?」
「違うよ。ただ、おばさんのほうには、力が覚醒してないことも含めて教えてくれたなかでの言葉だったから、私も全部わかってるわけじゃないよ」
「お母さんは、普通の人で、お婆ちゃんが魔女。だから覚醒遺伝か…」
「お婆ちゃんから、聞いてなかった?」
「全然…」
「そっか。まぁ、瑠璃も覚醒せずに、人間として生きていくと思ったのかも」
「お婆ちゃんは、どんな魔女だった?」
「植物から力を貸してもらうことがうまい魔女だったよ。それなりにこの地区では有名だったし、頼りにされてた」
「そうなんだね…」
なんか寂しくなってしまった。
私の知らないところで、色々動いてたんだな…。
「お待たせいたしました。こちらが、お客様の携帯のお返しと。こちらは芯になります。割れやすい素材も含まれておりますのでお気をつけてお持ちください」
「ステッカー魔法陣も少し買っておきたいんですが…」
「こちらになります」
「あ、さっき使ったやつ」
ぱっと見普通のステッカーと変わらないけど、値段の単位もわからないし。
結構作り方が凝っている。
「ステッカー使った属性調べはした?」
「えっと…風は出てきた」
「本当になんも知らずにきたのかぁ」
「お客様ですとー。こちらと、こちら。補助にこちらの属性がよろしいかと思います」
「あ、はい。えっとじゃあそれで…」
「お金は私に請求飛ばしてください」
「かしこまりました」
「どうもです。ーちょうどデイくんから、次の店の情報きてるね。あ、ゲート使いますね」
「はい、どうぞ。ご来店ありがとうございました。またお待ちしております」
月佳が次に開けた扉は、また、どこかのお店のようだ。
棚は高く天井まであり、上がみえない。
「うわ…すご…」
「おう、終わったか?」
「…いらっしゃいませ」
「お店番かな?」
「いえ。私は店主です」
「え?そうなの??小さいのに?すごいね」
「…ありがとうございます」
「デイくん…。何でここ」
「だってここ、品ぞろえいいし。ウロウロするよりは、いいだろ?」
「瑠璃、他いこう」
「え?どうして?」
「この店はだめ。一番、瑠璃に合わせたくなかったのに…!」
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