第64話 質の悪いヒーロー
バンガンダンガン!! バンガンダンガン!!
頭の中で戦いの鐘が鳴り始める。同時に、短剣を握りしめて王妃の腕へと切りかかる。
まず、やつの腕を切ってあの光速の攻撃を封じる!
「ゲベラゲベラゲベラ!! おん前の考えなんてお見通しですわぁ!!」
王妃はそう高らかと笑うと、僕の剣を一瞬で弾き返した。剣と一緒に体が瓦礫の山まで吹き飛んでいく。
「さっさとくたばれば、楽ができるというのに。呆れますわぁ~」
「ッ!! ふざけるなよ!! 何が楽ができるだ!! 苦労や悲しみがあるから人生なんだろうがぁぁ!!」
起き上がった僕は、短剣を左手に持ち替えると、地面を蹴ってやつの方へと急接近していく。
王妃の元に着くと、下から上へと斬り上げながら心臓を狙っていく。
そして王妃は叫んだ。
「おん前の脳みそん中はお見通しだと、さっき言ったでしょうがぁぁ!!」
こいつは右の手刀を短剣に、左手で剣を僕の頭上に振り下ろしてきた。
僕はニヤリと笑う。
「頭ん中が理解していても、体が追い付かなきゃ意味ないよねぇ」
すかさず僕は、さっき短剣を持ち変える時に握った砂をやつの顔面にぶっかける。
「ッ!! 目、目が!!」
「止めだぁぁぁ!!!」
王妃が一瞬怯んだ隙に、僕はやつの心臓に向けて短剣を走らせていく。
ズブゥゥゥゥゥゥゥンン。
刃が王妃の左脇腹に深い傷を入れた瞬間、死角から突然王妃の膝蹴りが現れ、僕の顎に激突した。
衝撃で目の前の視界がブレた時、今度は手刀が頭上に衝突した。
手刀の半端ない威力によって強制的に地に伏せられると、今度は僕の首を思いっきり踏みつけてきた。
「ガハッ!! ガ……ギャ……」
「一瞬で殺しはしませんの。じっくりと痛みを堪能してから旅立つといいですわ。フン!!」
「ア……バ……」
やつは踏みつける力をさらに強めてきた。
く、苦しい……息がで、できない……やばい………このままだと窒息してしまう……!!
「ハ……ファ……」
「ゲベラゲベラゲベラァァァ!! このまま溺れなさい!!!」
あいつは、さらに体重を掛けてきた。首元から、血管が破裂していく音が聞こえてくる。
本当に……このままだと……。
バガァァァァァンン!!!!!
意識が途切れる直前、バカデカい銃声とともに首の上から重さが消えた。呼吸ができるようになり、体が必死に空気を取り込もうとしだした。
一体何が起こったんだ……?
「ガハッ!! ゲホッ!! はぁ……はぁ……」
急いで咳を落ち着かせていく中で前方を向くと、そこには血まみれの右足があり、足から僕までの間には、血が地面に点々と落ちていた。
隣を見てみると、王妃の右膝から下が千切れとんでいた。彼女は、膝から少し下の部分を押さえながら驚愕と苦痛が混ざった顔で後方を見ていた。
僕は、何が起きたのか確認するため、後ろを振り返った。
そこには、銃を持った男性が立っていた。彼の服はとてつもなくボロボロであり、髪は汚れた銀色で、目は濃い桃色だった。
男は少し興奮気味に話し出した。
「似合ってるぜその姿。さすが王妃様と言ったところかぁ。いかしてるぜぇ?」
「な、なぜ貴様がここに……確かにこの私が……」
「あぁ。確かに、あんたに地獄送りにされた。でもなぁ。こうして這い上がってきたんだよおらぁ。ゲベラゲベラゲベラ」
何やら男と王妃は知り合いのようだった。会話がかみ合っているのだから。
僕は、この男をどこかで見たことがある。確実に見たことがある。いつだったっけなぁ……ええと、ええと……!!
思い出した!! あいつは3年前、薬草を取りに行ったときに行く手を阻んできた盗賊だ!!
あの汚い笑い方、間違いない。
王妃は、声を少し震えさせながら言葉を発した。
「ど、どうして貴様がここに……」
「そりゃもちろん復讐のためさぁ。てめぇを殺しにきたんだよ」
「ッ!! 世迷言を言ってるんじゃんないですわ!! 過去、一度も私に勝てたことのない貴様が何を……!!」
ズダパァァァァァンンン!!!!!
「わーぎゃーわーぎゃー吠えてるんじゃんない。ゴミ以下のケダモノが」
王妃が叫んでいるのを遮るように、彼は引き金を引いた。次の瞬間、僕の隣に突風に似た風が通り抜けていった。
後ろを見てみると、放った弾はすでに遥か後ろで血をまといながら転がっていた。次に王妃の方を見た。
彼女は、左親指と人差し指、脇腹を通って右小指を吹き飛ばされていた。
「アァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
彼女は、流れる血を見ながら叫ぶ。盗賊は、すかさず煽りの言葉を送る。
「苦痛の味は美味いか? 俺が散々味わったもんだ。てめぇもよぉぉく味わえ」
「くそったれがぁぁぁぁぁぁ!!!」
ズダパァァァァァァ!!! ズダパァァァァァァァァァァ!!!
彼は続けて弾丸を2発、王妃に向けて放った。
弾は、雨音を掻き消す轟音を奏でさせながら、王妃のすべての指を空の彼方へと運び込んでいった。
彼女は、倒れ込みながらまた叫ぶ。
「うわ……がしゃ……じゃばおおおおざぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
僕はその光景を、近くで黙って見ていた。今、僕が手を出せば簡単に王妃を倒すことができるだろう。
でも、やらなかった。それは違うと思った。
今最も優先しなければならないのは、彼の復讐だ。僕はそう判断した。理屈は一切ない。同情によるものなのかもしれない。
でも、それでも、僕はそう思ったんだ。
「こんの堕ちたドブネズミがぁぁぁ!!!」
王妃の醜い声に、彼は声を震わせて叫んだ。
「だまれ!!! おん前だけは……おん前だけは絶対に!!!!!」
ズダパァァァァァァァンンン!!!!!
彼が放った一発の弾丸は、ファンファーレを奏でながら王妃の脳天を貫いていった。
ここに……2つの因縁が終結した。
そして、最後の因縁が僕達を見ていた。
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