第63話 母に勝る神無し

 ズダロロロロロロロロラララ。


 この場には、剣を持って立っている王妃と、体中物が刺さりまくっている団長。後方には、革命軍の面々が倒れていた。


「カ、カルターナ……確か君は守備組だったはず……」


 団長は、驚愕しながら聞いてきた。僕は、口を押さえながら声を震わせて言った。


「……全滅しました。残ったのは僕とフェルンだけです。先程皆のかたき討ちを終えたところです……」


「え……」


 団長は、血が流れ出ている脇腹を押さえながら俯いた。おそらく、悪い方向の未来が頭の中を巡っているのだろう。細かく震えている体を見ればわかる。


 団長……残念ながらその予想は……当たっている……。


 僕が彼の汗まみれの顔を見ていると、あいつが甲高い声で叫びだした。


「そこのあなたぁ? よくも私の美ボディを傷つけてくれましたわねぇ! ……本当は今すぐ切り裂きたいところですが、私は寛大ですの。質問にお答えしたら、逃がしてやってもよくてよ? それでは質問。あなたはどこの者ですの? 答えなさい!!」


 僕はゆっくりと王妃の方へと体を向け、彼女を見た。それと同時に、逃げていく王の方も見た。王は……をしていた。


 あいつぅ……。


「返しやがれぇぇ!!!」


 僕は、相棒の短剣を右手に握りしめながら王に向かって走り出した。

 今、目の前に3つすべての目的が揃っている。1つ目は形見の腕輪の奪還。2つ目はヴィームやニゥイルさん達の仇。3つ目は王家の捕縛。

 僕は、腕輪を最優先とすることにした。なぜなら、一番最初に立てた目標だからだ。

 革命軍の皆は全員負傷してまともに動くことが出来ない。だから……他の目的も1人でやるしかない!!


 王妃の前に来た辺りで、彼女はさらにうるさい声で叫びだした。


「あなた……せっかく逃げるチャンスをあげてあげたというのに……無視しましたわね?!! いいですわ。あなたがその気ならこちらもお答えしますわ!! 零斗れいんと・スワイド!!」


 彼女の隣を通った瞬間、突然横から飛ぶ光速の斬撃が襲ってきた。その瞬間、体中に悪寒が走った。同時に、地面に向かって潜る勢いで滑り込んだ。


 ズルベシャァァァァァァァンンン!!!!!


 顎の皮が剥けそうになった時、反対側の残骸が轟音とともに崩れていった。崩れた場所の線は、芸術作品だと言われてもおかしくないようなほど整っていた。


「こ、こいつぅ……」


 僕は、殺意を込めた目で敵を見る。


「何ですの。その反抗的で心の底から怒りが湧いてくるような目はぁ……あの時の女そっくりですわぁ」


「あの女?」


「いいえ。そっくりではない。瓜二つですわ!! さてはおん前、ユラムーナ・ログマルクの息子ですわねぇ? きっとそうですわぁぁ!!!」


 こ、こいつ……おちょくっていやがるのか……?


「てめぇ……なんで僕の母さんの名前を知っているんだ!!」


「忘れるわけないでしょぉぉ??! あいつは18年前、私が遊び半分で下民を殺していたところを目撃された。たったのそれだけで……たったのそれだけでこの私の腰に穴を空けやがった重罪人ですのよ! どれだけ探しても見つからなかったから諦めかけていましたが……まさかこんなところに血を引くものがいたなんて」


 やつは、僕のことを見下ろしながら言ってきた。僕は、怒りで煮えくり返りながら聞いていた。そして、昔叔母に言われたことを思い出した。


 僕のお母さん。ユラムーナ・ログマルクは、目の前で友達を殺されたことで理性を失い、傍にあった尖った木の棒で王妃の体を貫いたらしい。

 その日から彼女の逃走生活が始まった。お父さんと当時1歳だった僕は、家族なのでもちろんお母さんについていった。雨の日も風の日も、伝染病が流行っていようがなかろうが僕達は逃げ続けた。


 4年後、お母さんとお父さんは病にかかった。原因は、長らく続いていた逃走生活からくるストレスによる抵抗力の低下だった。

 間もなくして両親は亡くなった。5歳になっていた僕は、誰からも話しかけてもらえない正真正銘の1人ぼっちになってしまった。

 でも、心が折れることはなかった。お母さんが亡くなる直前に言ってくれた言葉。「自分の意思を持って前に進みなさい。神様にいつも頼っていてはだめです」が、支えになってくれたからだ。


 そして1年後、路地裏をフラフラと歩いている時、僕は叔母と出会った。


 もし本当にこいつが、今目の前にいるこいつがお母さんの仇なのなら。僕はやつを倒さなければならない。僕達一家を混沌に陥れたクソ野郎を……叩きのめさなければならない!!


 予定変更だ。今ここで、やつを倒す!!


 僕は左手を使って立ち上がると、怒りとともに叫んだ。


「誰であろうと、親を馬鹿にするやつは許さねぇ……それが例え神であろうともな!! そして言っておく。母に勝る神なんてなぁ、ただの1人だっていねぇんだよ!!!」

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