第62話 ゲベラの呪い

「やっとここまで来た……その首もらうぞぉぉぉ!!!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


 腰から剣を抜いた団長は、全速力で走り出す。それに部下達も続く。

 そんな彼らを見た王妃は、剣を片手に持ちながら国王に話しかけた。


「いい? あなたはこのまま子供達と一緒に逃げなさい!! ここは私が何とかします」


「待て待て! いくら何でも君を置いていくわけにはいかない。我も戦う!」


「ママも一緒に逃げようよぉ!!」


「私もママと一緒じゃなきゃ嫌だぁぁ!!」


 子供2人は王妃の服を掴んで泣きながらそう言った。


「いいから早く行きなさい。これでも私は母国で一番の剣士ですわ。安心なさい」


 王妃は優しい声で子供達に言った。


「「嫌だよぉぉ!!!!!」」


 それでも子供達は王妃から離れようとせず、依然服を掴んだままだった。その間にも革命軍は突き進んでくる。

 焦った王妃は、子供達を無理やり引きはがして国王に投げつける。投げつけられた子供達はより一層泣き出し、再び彼女のもとに行こうとした。


 がしかし、王妃の背中から強き覚悟を受け取っていた国王が、向かおうとする子供達の服を掴んだ。


「2人とも。お母さんだって辛いんだ。お父さんだってそうだ。でも、ここはお母さんに任せて逃げるんだ。行くよ」


 国王は、ジタバタする2人を引きずりながら先に進んでいった。子供達を引きずっているせいで速度は遅いが、確実に前へと進んでいった。


 そして団長は、王妃のもとにたどり着いた。逃げていく国王を見た瞬間、団長は叫ぶ。


「あの野郎。命欲しさにとうとう女を盾に使いやがったか。自身を守ってくれる騎士ナイトってか? ほんっとにクズだなぁぁぁ!!!」


 その言葉に、王妃は剣を突き付けながら反発した。


「うるさいですわこの下民が!! 私達は生き残るのです。生き残る運命さだめなのですわ!! だから、あなた達はここで倒れるのよ!!」


「ッ!! そうかいそうかい。あんたの意見はよぉぉくわかった。死ね」


 王妃の発言に完全にブチ切れた団長は、右手に持っている剣を首目掛けて振っていく。

 だがしかし、王妃は団長の攻撃を剣でいなしていった。しかもいなす時、彼女は後ろにいる他の革命軍の者達を殺気のこもった目で見ていたのだ。


 王妃のおぞましい視線と自分の攻撃を簡単にかわした練度の高い剣さばきを見た団長は、すぐさま後ろにいる部下達に向かって叫んだ。


「お前達!! すぐに防御態勢に……」


「もう遅いですわ」


 シャラグギィィィィィィィ!!!!!


 王妃が言葉を発した瞬間、彼女は飛ぶ光速の斬撃を放った。斬撃は、両端にある残骸にあわや衝突するかというところまで広がっていくと、団員達をズバズバと斬っていった。

 彼らは声も出さずに崩れ落ちていき、崩れ落ちた場所には、少しずつ血溜まりが形成されていった。


 団長は王妃の速すぎて見ることのできない攻撃を、感覚で何とか防ぐことに成功した。それでも勢いは殺すことができず、瓦礫の山へと突っ込んでいった。

 雨の中、華麗な泥が宙を舞う。


「ゲベラゲベラゲベラァァァ!!! さっさと消えてくれたら嬉しいのですがねぇ~」


「こんの尼がぁぁぁ!!!」


 体中に木片や石が刺さった状態の団長が、瓦礫の中から飛び出してきた。彼は血を流しながらも超特急で王妃めがけて突き進む。

 彼女の眼前に到着した時、喉笛に向かって剣を走らせていく。


 先程とは段違いの速さと不意を突かれたことで反応が遅れた王妃は、なんとか攻撃の照準をずらすことはできたが、顔に攻撃が当たってしまった。

 彼女の顎から血が流れ出ていく。


 異変を感じた王妃は、なんだと思って痛みがする場所を触る。触った手を見た時、彼女の身体が震えだした。


「お、おん前……このぉ……この私の美顔にぃ……邪な液体をつけたなぁぁ!!!」


「何言ってんだよてめぇ。自分の血だろうが」


「だまらっしゃい!! あなたに何がわかるというのです?! 一生ゲベラとしか笑うことのできないゲベラの呪いがかかっているこの血をぉ……これのせいで他の貴族どもに笑われ続け……それを黙らせるために剣を磨き続け……私がどれだけ努力したことか……」


 すると王妃は、突然口に手を当てて泣き始めた。本来ならばここは同情する場面なのだろう。だがしかし、今この場にいる立っている者は敵対する団長のみ。

 彼にとって、彼女のとる行動は気持ち悪い以外の何物でもないのだ!!


「吐き気がする。そんなに呪いが嫌ならさっさとくたばりやがれぇぇ!!」


 団長は、再び王妃の首を狙って突撃していく。王妃は、そんな状況下でも手で口を覆って泣いている。

 がしかし、団長の剣が振り下ろされた瞬間覆っていた手を柄に移動させ、そのままの勢いで彼の脇腹をえぐり斬る。


「ガフェラァァァァァ!!!」


 団長は王妃の前で膝から崩れ落ちていった。


「ひっぐ……突撃してくる人間において、一番警戒されておらず斬りやすい箇所は脇腹。と、私は考えていますわ。故に私は、敵の脇腹をえぎり斬る技術を極めてきましたの」


「グラバァァァジャガザァァァァァ!!!」


 彼は脇腹を押さえたままその場で悶絶していた。地面でのたうち回り、止まらない大量出血を前にパニックを起こしていた。

 そんな団長を見た王妃は、高らかに笑い始めた。


「ゲベラゲベラゲベラゲベラゲベラゲベラ!!!!! 組織の頭がなんてざまですの? これほどまでの怪我はしたことがないのでしょうか。それにしても実に滑稽ですわぁ!!」


 悶絶し、未だに体を丸めている彼の頭上に王妃は剣を置いた。


「今を持って革命は終幕ですわ。無様にうめきながら死になさい!!」


 ついに彼女の剣が振り下ろされた。鈍く光る尖った鉄が、雨を切り裂きながら首目掛けて突き進む。


 雨の勢いがより一層強さを増し、首に剣が突き刺さる直前だった。突如として横から短剣が王妃の胸部を襲った。

 短剣に気付いた王妃は、すぐさま後方に体を動かす。がしかし、攻撃は完全に躱すことができす、太ももに深手を負ってしまった。


 王妃と団長は、短剣が飛んできた方を見る。


「よくも私の楽しみを邪魔してくれましたわねぇぇ!!」


「き、君……は……」


 そこにいたのはカルターナだった。

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