第61話 チェンジャー

 カルターナ達と総大将の戦いが決着を迎える数分前。離宮の頂上では、国王一家がゴソゴソと何かをしていた。

 特に、王妃と国王が何やら言い争いをしていた。


「サントハよ……本当にこの作戦をするのかい? いくら何でもこれは……」


「うるさい!! それでも親かいなあんたはぁ!! 親なら!! 自分の子供の言うこと信じて行動しなさい!!」


「いやだってぇさぁ、これ本気で言ってるのぉ? 急傾斜の崩れた屋根の上を滑って飛ぶなんてさぁぁ」


 彼らが今いる場所の状態は実に酷いもので、足場は超不安定。そこら中に鋭利な瓦礫が転がっており、角度が40度以上もある屋根の先端は小さく反れていた。

 彼らの子供2人は、超危険なこの屋根の上を滑って、目の前にある全壊した建物の連山を越えて逃げようと言いだしたのだ。


 その意見に王妃はすぐさま同調し、場にある材料で滑るための簡易的な乗り物を制作していた。

 乗る部分は、そこらへんで拾ってきた大きめの木の板を自分の服を破いて包み、持ち手は破いた服を丸めて作っていく。

 作業中の王妃の顔は悪魔そのもので、絶対に生きてやる!! という強固たる信念が彼女の体からあふれ出していた。


 数秒後、王妃は完成した乗り物を4人に配ると、一番乗りで屋根の上を滑っていった。屋根は豪雨のせいでびしょ濡れで、通常の何倍もの速度を出せる状態となっていた。

 王妃が瓦礫の山を越えた後、息子、娘の順に滑っていく。それを見届けた国王は、唾を2、3度飲み込み、持ち手を握りしめた後、意を決して滑りだした。


 ズベベェェェェェェェェェェェェンン!!!


「うヴぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 国王は、目にも止まらぬ速さでどんどんと滑っていく。


 国王が屋根の反り部分に到達した時、団長が建物の頂上に到着した。彼に続いて革命軍の面々も続々と上ってくる。

 革命軍の人達が全員頂上に上った頃、国王が綺麗な放物線を描きながら瓦礫の山を越えていった。


「はぁ……はぁ……」


 団長は息を荒くしながら、連山を越えていく国王を見つけた。その直後、彼は仲間達に号令をかけていく。


「お前達、追いかけるぞ!!」


「「「了解!!!!!」」」


 号令と同時に彼らは団長を先頭に離宮を降り始めた。足場が超不安定で、皆が皆焦りながらも慎重に降りていっている時だった。


 ドドドドドドドドドドドドドドドド


 地面が再び揺れだしたのだ。揺れにいち早く気付いた団長は、すぐさま今自分が置かれている状況を把握する。


「よ、余震かぁぁ!!!」


 ズンダラガッシャァァァァァァァァァァンンン!!!!!!!


 地震が再びペイダス王国を襲っていく。今回の余震で、宮殿や離宮といった、半壊ですんでいた建物はすべて全壊していった。


 革命軍のほとんどの者はこの崩壊に巻き込まれていき、国王一家が飛び越えていった連山の前に最終的にたどり着いた者は、団長を含めたわずか13人だった。


「「「…………」」」


 彼らは、目の前に広がる瓦礫の山々を見上げていた。無表情で棒立ちをしていた。がしかし、次の瞬間には、皆黙って向こう側に行くための道を探し始めた。


 迅速かつ正確に探すこと数分。血眼になって探す団長の元に、部下からの報告が入った。


「団長!! ここから少し東に行ったところに通れそうな道を見つけました!!」


「わかった。すぐに行く」


 その言葉とともに場にいた者すべてががむしゃらに走り出した。だから、道のある場所には一瞬で着いた。

 そして、その小道を見た団長は静かに呟いた。


「これは……」


 目の前にあったのは、大人1人がギリギリ通れるか通れないか。判別ができないような狭道だった。両サイドには尖ったものが茨のように存在しており、とても安全とは呼べないものであった。

 部下達は、口々に弱音を吐いていく。


「どうするんだこれ……狭すぎる。例え通れたとしても、道を抜けた時には体はボロボロだ……」


「くそぉ……一体どうすりゃいいってんだよぉぉ!!」


 部下の1人が悲痛の叫びを上げた時、団長はとても難しい顔をしながらとんでも発言をした。


「う~む。背に腹は代えられない。皆! これからこの道を通る!! できるだけ通りやすくするために、そこら辺に落ちている泥を体に塗りまくるんだ!!」


 とんでも発言に驚倒しかけた部下達は、必死に団長に抗議をした。


「な、なにを言っているんですか?! そんな汚い行為をするなんて……」


「そうですよ! いくら何でもそれは……」


「うるさい!! 1分以内に体中に塗りまくるんだ!! さぁ、早く俺に倣って塗るんだ!!」


「「「は、はいぃぃぃ!!!」」」


 団長の圧倒的な気迫に押された彼らは、しぶしぶ体中に泥を塗っていく。

 塗り終えた彼らは、団長を先頭に小道を進んでいった。雨や塗った泥のおかげで通りやすくなっているとはいえ、いたるところに鋭利な石や木があるせいで、歩くたびに傷が増えていく。

 それでも彼らは、ボロボロになりながらも気力と信念と根性で突き進む。


 そしてついに、革命軍は国王一家がいる道に出た。


 道に出た瞬間、団長は数十メートル先に王家がいることを発見した。そして団長は、自分の中にある怒りを最大まで込めて叫ぶ。


「やっと追いついたぞぉ!!! こんの害虫どもがぁぁぁ!!!!!」


 叫びに気付いた王妃は、ゆっくりと彼らの方を向く。彼らを見た瞬間、反射的に腰にある剣を抜くと、気色の悪い高音で叫んだ。


「何なんですの?!! あんのゴミクソどもはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る