第59話 真の滅亡とは

「ブベガギジャヴァヴァァァァァァァ!!!!! ゴミクソどもがぁぁぁ!!!」


「うるせぇ!! 豚の丸焼きがぁぁぁぁぁ!!!」


 やつは悪魔のような形相で、瓦礫を破壊しながら突撃してくる。


 少し離れた床には、うつ伏せ状態のフェルン。僕の隣には左腕を斬り落とされたニゥイルさんが横たわっている。ひんじょうにまずい状況だ。

 フェルンは指がかすかに動いている。そのうち起き上がってくるだろう。問題はニゥイルさんだ。彼女は今、僕の服の一部を使って止血をしている最中だ。すぐには起き上がれない。


「ぶち殺したらぁぁぁ!!!!!」


「くそ……」


 あいつは、着実に距離を詰めてくる。本当にやばい。このままでは火が燃え移ってしまう。


 その時、崩れた壁の向こうから僕の視界に、邸宅内にある池の光景が入ってきた。事前に調べた情報によると、あの池は一度沈めば簡単には浮かぶことができないらしい。


 いっそのこと、やつをあの中にぶちこんで火を消すか? いやダメだ。すでにあの炎は数百度を超えている。焼け石に水だ。

 でも、石とかはどうだ? 木はさすがに無理でも、大きめの石なら数秒やつの動きを止めることができるはずだ。


 よし!!


「味わえクソブタどもぉぉ!! 皮飛ひふ!!」


 やつは、溶けている自分の皮膚を飛ばしてきた。


「ファ!! ラフィィィ!!!」


 僕は、ニゥイルさんを担ぎながら全力で避けていく。右に左に、壁を蹴りながら部屋中を駆け回っていく。


 そして、避けている最中に拾った手の平よりも大きい石を、あいつの顔面めがけて投げつける。


 頼む。当たってくれ!!!


 がしかし。


「皮肉なもんだよなぁ。おん前につけられた火が、俺を守ってくれる鎧になっちまってるんだから。おん前らは運がないよなぁ」


 石は、やつの眼球に当たる寸前で完全に溶けていってしまった。

 今、僕ができるすべての選択肢がなくなってしまったのだ。


 無理だったか……くそ!! もう、1人だけでできる作戦は無くなってしまった!!

 頼む!! どっちでもいい。早く目覚めてくれぇぇぇ!!


「終わりだぁぁ!! ブベガギジャヴァヴァァァァァァァ!!!!!」


「ッ……」


 あいつの刃が僕の頭めがけて振り下ろされた。その時、


「デラシャァァァ!!!!!」


 僕がさっき投げたものよりも数倍大きな石が、鈍い音ともに眼前に現れた。柄はやつの手元から離れ、石は剣とともに部屋の隅まで吹っ飛んでいった。

 石が来た方向を向くと、そこには完全にブチぎれていたフェルンの姿があった。


「ちょっとぉぉ!! おん前が投げた皮膚のせいで私の大事なお尻に火がついちゃったじゃない!! おまけに消すときに服がちょっと破れた!! どうしてくれんのよ!!!」


「フェルン!! やっと起きたのか!!」


「ええ。迷惑かけたわね」


「いや、今はいいんだ。それよりも、あいつから剣を取り上げたことの方がデカい!!」


「ほう。お仲間さんが目覚めたか。だがダメだ!! おん前達がこの炎の衣を破らない限り、この俺に敗北などありえないのだぁぁぁ!!!」


 やつは、右手で僕の顔面を狙ってきた。僕は、すぐさま短剣を抜いた。がしかし、短剣は先程のぶつかり合いと瓦礫を防ぐために使用したことで、刃がボロボロだった。

 どう見ても僕を襲ってくる拳を防ぐのは不可能な状態だった。


 やばいぃぃぃぃぃ!!!


「俺の勝ちだぁぁぁぁぁ!!!!!」


 炎をまとった拳が眼前に迫ったその時、僕は反射的に目をつむった。つむってしまった。

 そのことに気づいた僕は、すぐに目をかっぴらく。目の前に広がっていたのは、ニゥイルさんが右手で拳を受け止める姿だった。

 ニゥイルさんは、両足を使ってなんとか攻撃を防いでいる。


 ジュボッ!!


「ニゥ、ニゥイルさん! 何をしているんですか?!! あなたまで燃えてしまう!!」


 僕のミスでニゥイルさんが死ぬようなことがあってはならない。今すぐに彼女とともに一旦やつから距離をとらねば!!


「はぁ……はぁ……いいですかカルターナさん……真の滅亡とは、瀕死の国の頂点に……無能なる者達を立たせることです……はぁ……はぁ……今、国は滅亡しかけています……どうかあなたたちの手で革えてください……」


「急に何を言っているんですか!! 一刻も早く距離をとりましょう!!」


 そう言ってニゥイルさんの腰に左手を伸ばした時、彼女は拳を右に受け流した。やつは右によろめいていく。


「何しやがんだこのクソアマがぁぁぁ!!!」


「2人とも……後は頼みましたよ……」


 直後、彼女はやつに向かって走り出した。


「ニゥイル!!!」


「ニゥイルさん!!!」


「はぁ……はぁ……」


 これでよかったんだ。すでに火が体中を覆っている。どのみち私は死ぬだろう。それなら、私は大人としての最後の仕事をしよう。新たな世界は、あの世でも見ることができるからな。


 私は足元にあった手の平よりも縦に長い鋭利な石を拾うと、そのままこいつの右の肺袋に突き刺していく。

 石はやつの体を貫通し、右の肺袋に穴をあけることに成功した。右の肺袋から血が流れ出る。がしかし、瞬時に炎で止血されてしまった。

 それでも、貫通した石はまだ残っている。


「はぁ……はぁ……」


「よぉくぅもぉぉぉ! こんのクソムシがぁぁぁ!!!」


「ガファァァ!!」


「ニゥイルさぁぁぁん!!!」


 やつの拳が、彼女の胴体を貫通した。彼女は大量の血を吐き出し、燃えながら膝から崩れていく。


「ッ……!!! フェルン!!!!!」


 フェルンは、頷き、涙を堪えながらやつに向かって走っていく。


「私は、ここが山場だと確信した!! 黄金血殻!!! & 時読!!!」

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