第58話 ヒは燃える

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然起こった地震に、すべての人々がその場に倒れこみ、頭を手で覆った。

 ペイダス王国はここ数百年以上、地震が全く起こっていなかった。建造物は当然地震に耐えられる構造になっておらず、震源地を中心とした王国の上半分すべての街や村が、半壊または全壊した。


 無論、それは宮殿も例外ではなく、全壊とまではいかないものの、建物の半分以上が崩れていった。

 崩れた宮殿や他の建築物の残骸が、広場にいる革命軍かれらを襲っていく。


 ダラジャバシャァァァァァァァァンンンン!!!!!!!!!!


 津波のように押し寄せてくるそれらは、まばたき1つする間に広場の大部分を飲み込んでいった。

 飲み込まれた内、3分の2以上もの人達は、瓦礫による過剰な圧迫や各急所に鋭利な物が刺さるなどといったことが原因で死亡していった。



 瓦礫が彼らを襲ってから数10分後、団長は残骸の中でゆっくりと覚醒した。


「ッ……こ、ここは……」


 その時の団長の視界は夜のように暗く、すぐに周囲を確認することができなかった。

 少しばかしの時が流れ、だんだんと目が慣れてきた頃にもう一度周囲を確認する。そこでわかったのは、鋭利な木片や割れたガラスなどによって道が阻まれ、容易に脱出できる環境ではないということだった。


 2、3度深呼吸をした後どうにかして逃げようと決意した団長は、己の体が傷つくことなどこれっぽっちも気にせずどんどん前へと這いながら進んでいく。


「はぁ……はぁ……!!!」


 ひたすらに進んでいくと、彼の目の前に人1人が通れそうな小さな道が現れた。瓦礫と瓦礫の間から差し込んでくる光を見た団長は、藁にもすがる思いで体をねじ込んでいく。


 体中がボロボロになっても、息が絶え絶えになり、心が折れそうになっても。それでもひたすらに前へと進んでいく。

 ある程度進んだところで突然彼の視界が開けた。ついでに体が上方向へと動けるようになっていた。


 そして、開けた視界の先には仲間達がいた。


 なんとかして立ち上がった団長は、仲間の元へと全速力で走る。


「お前達大丈夫か!!」


「はい。僕達は大丈夫です。ただ……多くの同胞達が瓦礫の下敷きになってしまい、生き残っているのはここにいる1000人強の人達だけです……」


「そうか……」


 団長がそう言って以降、少しの間沈黙が場を支配した。それを見た部下の1人が、拳を握りしめながら叫んだ。


「団長!! 一刻も早くあいつらのもとまで行きましょう!! 散っていった者達のためにも!!」


「あぁ……確かにその通りだな。でもその前に」


 すると団長は、離宮の前に広がる大量の建物の残骸に目をやった。


「道を見つけないとな。総員、捜索開始!!」


「「「了解!!!」」」


 号令の直後、革命軍かれらはすぐに道の捜索作業に取り掛かった。彼らは、身の丈以上もの高さがある瓦礫の中を、死に物狂いで探していく。


 ほどなくして、団長のもとに報告が入った。


「報告します!! 瓦礫の山の西部に小道を発見したとのことです!!」


「なに!! わかった。すぐに向かう」


 報告を受けた団長は直後、全速力で瓦礫の西部へと向かった。


 西部に着くと、報告通り残骸と残骸の間に大人1人がギリギリ通れるぐらいの小道があった。


「よくやったお前達!! よし!! 俺が先導する!! ついてこい!!」


「「「了解!!!!!!!」」」


 果敢に進んでいく団長を皮切りに、革命軍は続々と小道へと入っていった。その際、持っていた武器以外のすべての荷物を捨て、トップスピードで小道を通過していった。


 そしてついに、革命軍かれらは半壊した離宮の前に到達した。離宮の頂上では、国王一家がゴソゴソと何かをしていた。


 それを発見した団長は、後ろにいる同胞達に向かって高らかに叫ぶ。


「見よ、お前達!! この建物の頂上に憎き国王一家がいる!! もう少しだ!! あともう少しで国を変えることができる!! それまで踏ん張ってほしい!! 行くぞ野郎どもぉぉぉぉぉ!!!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


 信念の雄叫びとともに、彼らは離宮内に突入していく。最後の決戦に向けて。すべてを革えるための戦いへと、歩を進めていくのであった。彼らの中には、確かな信念が燃え滾っていた。




 団長達が離宮に突入していく数10分前。半壊した邸宅内では、3人の新世代と、燃えながら崩れていく旧世代が対峙していた。


「はぁ……はぁ……」


 あ、危なかった。超集中状態フルモードじゃなかったら今頃瓦礫の下にいただろう。本当に危なかった……。


 地震か? 今のは。崩壊したせいで部屋の中が外から丸見えだ。


 一方でやつは、依然として燃えている。火はすでに肌に燃え移り、そろそろ皮膚を溶かし始めるころだろう。

 さっきからあいつは叫び続けている。


「あぁぁぁちぃぃぃぃ!!! なぁぁぁくそぉぉぉ!!! 確殺だ!! おん前らは確殺だぁぁぁ!!!」


 そう言うとやつは、剣を持って火をまとう怪物となって突撃してきた。


「ハッ!! こっちがあの世に送ってやる……!!!」


 僕はここで気が付いた。自分がしでかしたとんでもない凡ミスを。あいつは今燃えている。皮膚などを燃料にしてどんどん温度を上げていくだろう。当然周囲の温度もどんどんと上がっていくだろう。

 何が言いたいか。そう、近づけないのだ。火が熱すぎて近づくことができないのだ。対してやつは、溶けている肉体を飛び道具として飛ばしてくることができる。攻撃力が倍増しているのだ。


 あの時は必死だった。言い訳が許されるのなら僕はこう言うだろう。だがしかし、それが許されないのが今の社会。現実。言い訳をしている暇があったら自分を修正しろという話だ。


 やつは速度を上げながら近づいてくる。


「道連れにしてやるぅぅぅ!!!」


「やっべぇぇぇぇぇ!!!」

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