第57話 地、震ふ

 カルターナが火を起こすことに成功する十数分前。宮殿組は団長の指揮のもと、館内に突入していた。

 宮殿内は特にこれといった防衛策を講じているわけではなく、攻めてきてくださいと言っているような内装であった。


 革命軍は、団長を筆頭に次々と建物内になだれ込んでいく。皆右手には武器を、心には信念を宿し、最上階にいる国王一家の首を目指して突き進んでいく。

 この時、革命軍は4,850人。王国軍は600人。戦力図だけを見れば、革命軍側が優勢である。


 建物は4階まであり、広大な敷地面積を持っている。一方で中は、そこら中にモノが散らかっており、よく使う場所以外のほとんどが荷物置きにされていた。

 中には、国王一家がこれまで盗賊との闇取引で手に入れた盗品が飾られていたり、買ってきた奴隷を収容するゲージがあったりと、悪趣味全開の空間が宮殿中に広がっていた。


 これを見た団長達は、怒りを体全身であらわにした。中には、廊下に置かれている盗品を、片っ端から壊しながら進んでいく猛者もいた。


「このオブジェの数々……報告にあったあれか……腐っているとは常々思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった……もうこれは、ネゾント様のご意向に反している。俺達が止めなくてはならない!!」


 一歩を進める度に速度を上げていく。士気を挙げていく。彼らの姿は、まさに神降ろしそのもの。力強く燃え盛る業火そのものである。


 階段に到達した革命軍は、さらにペースを上げて駆け上っていく。

 2階辺りから敵兵が彼らの前に現れ始めたが、団長はそんなやつらを軽々と蹴散らしていく。追従する人達も、敵兵をバッタバッタと斬り倒す。


 あまりの光景に、とうとう心が折れ、命乞いする者も現れ始めた。


「ひ、ひぃぃぃやぁぁぁ!! 何なんだこいつらわぁぁ!! お、俺は雇われてここに来ただけの可哀そうな外国人なんだよぉぉぉ!! 殺さないでくれぇぇぇザブゥゥゥ!!!!!」


 革命軍は、問答無用で敵を蹴散らしながら階段を上っていく。そしてついに、革命軍は宮殿の最上階に到達した。最上階はロウソクのおかげで階全体を見渡すことができた。


「はぁ……はぁ……とうとう来た……さぁさぁ国王一家さんよぉぉ!! さっさとその首よこせやぁぁぁ!!!」


 団長は、憤怒の叫びを上げた。だがしかし、4階中に叫び声が響き渡るだけで、肝心の国王一家からの返答がこない。返ってくるとすれば、敵兵達の雄叫びだけ。

 そう、最終目標の国王一家はもうすでに宮殿から脱出していたのだ!!


 軍中が大混乱に陥る。混乱した現場を見た団長が、団員にやつらを捜索すうよう命令し、兵達が固まるのを防いだことで、混乱を何とか収めることに成功した。


 捜索を開始してから1分後、団長のもとに国王一家の情報が入ってきた。


「ご報告します!! 現在国王一家は、ここから20メートル離れた場所にある離宮に向かって走っています!!」


「何!! それは本当か!!」


「はい!! 窓から確認したため確証は取れています!!」


「そうか……ありがとう……」


 団長は一瞬考えた。この宮殿から離宮に行くには、当然だが階段を下まで降りなくてはならない。それに加えて宮殿から離宮までの間に、20メートルほどの中庭が存在する。どう考えても離宮に入るまでの間に追いつくのは不可能。

 その条件のせいでなぜか団長は、行くか行かないかという何をいまさらな選択肢を脳内で展開してしまった。


 がしかし、団長はすぐさま決意した。


「全団員に通達!! これより最速で離宮へと向かう!! 俺についてこい!!」


「「「イエッサー!!!」」」


 こうして革命軍は、団長を先頭にとてつもない速さで階段を駆け下りていった。風を切って進み、髪がぐちゃぐちゃになった頃、離宮へと続く中庭の前に到着した。


 息を荒くし、疲弊した様子を見せている団員に向かって、団長が雄たけびを上げる。


「これより俺達は大将の首を取りに行く!! もしこれをしくじれば、俺達の明日は来ない!! 手を伸ばせばそこにある未来を掴むため、魂を滾らせろお前達ぃぃぃ!!!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド。


 雄たけびが、辺り一帯を勇気の衣で包み込んでいく。


「進軍せよぉぉぉ!!!」


 団長の号令を契機に、4800人あまりの人々が、離宮に向かってなだれ込んでいく。

 天気は大雨。周囲はよくわからない建物ばかり。そんな中でも、彼らの魂は燃えに燃えまくっていた。思いの集合体が、王家めがけて突っ込んでいく。


 彼らが中庭の中ごろに到達した時だった。


 ズズズズズズズズズズズズズズズズズズ。


「な、なんだ。ち、地が震えている!!」


 団長はそう言うと、後ろにいる団員に目をやる。団員達も自分と同じく体を細かに震えさせており、誰が見ても異常事態だということがわかる状況だった。


 団長はその時、昔外国の友人から聞いた話を思い出した。友人は、神様のお怒りを、この体で確かに体験した。と、言っていた。当時の団長は、友人の言葉に今一つピンとこず、フ~ンの一言でその時はやり過ごした。

 だがしかし、今の団長は、かつて友人が言っていた不思議な言葉の意味を理解することができた。


「こ、これは……」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!


「地震だ!!!!!」


 ズジャラガラダバダガァァァァァァァァァァァァンンンンン!!!!!!!!!!

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