第50話 時読と金髪

 バリィィィン!!!!!


 僕達3人は、僕を先頭に窓をぶち破って中へと入っていく。それを見たやつらは、混乱に陥っていく。


「キャァァァァァ!!! なによこのケダモノはぁぁぁ!!!」


「衛兵!! 衛兵を呼べぇぇぇぇぇ!!!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」


 貴族と聖職者どもは、火から逃げる蚊のように、一目散に逃げていく。3つしかない扉の前には、羽音をカチ鳴らすハエどもが群がっていた。


「ハエ叩きの時間だ!!」


 僕達は、3人に分かれて各扉へと向かう。左にフェルンが、中央にニゥイルさんが、右に僕が行く。

 目の前にたかるハエどもの脳天目掛けて、走りながら刃を構える。


「うわぁぁぁぁぁ!! こっちにくるんじゃんねぇぇぇ!! 衛兵はまだなのかぁぁぁラジャブゥゥゥゥゥ!!!!!」


「これ以上羽音を鳴らすんじゃんない。目障りだ」


 貴族の首が、血しぶきとともに飛んでいく。

 単純計算で行くと、各扉に40名の貴族どもがいる。衛兵が来る前に全員殺す!!


「ヌゥゥラァァァァァ!!!!!」


 雄たけびを上げながら次々と貴族と聖職者どもを切り倒していく。首を、心臓を、脳を、無差別に切り刻んでいく。逃げ惑い叫ぶばかりで、ろくに抵抗をしてこないやつらを見て、僕は心底やつらを軽蔑した。

 その状況は、左右ともに同じだった。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


「早く誰かぁぁぁぁぁ!!!」


 ……醜いですね。とても。かつての自分が、このようなやつらと同じ世界にいたと考えると……鳥肌が止まりません。

 さっさと倒して家へと帰りましょう。


 手に持っている剣で、ばったばったと敵をなぎ倒していく。

 30人以上殺したかな。残りはあと10人弱といったところですかね。もうひと踏ん張り。頑張っていきましょう。


 さらに倒していくと、ついに敵は1人になった。しかし、その1人がどこかで見た覚えのある姿をしていた。


 こいつ……どこかで見た覚えがある。一体誰だったっけ。えぇと……。


 記憶を掘り繰り出していると、そいつは叫びだした。


「お、おい!! そこの小娘!! この私を誰だと思っている!! 私はサラモニューク・クラグリムだぞ!! こんなことをしてぇ、ただで済むと思うなよぉぉ!! 必ずぶち殺してやる!!!」


「!!」


 思い出した!! あいつは、私の父親だ!! 私を捨てた元父親だ!!!


「……小娘ですか……そうですか……あなたは、やはりクズ中のクズですね。このバカ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」


 感情が高ぶった私は、体を動かす速度をさらに上げていく。


「ば、バカ野郎だとぉぉぉ?!! ん? というかお前、どこかで見た覚えがある……まさか!! その声、その顔の形、髪色!! お前か!! ニゥイルだなぁぁ!!

 どうして生きている!! あの時、確かに処刑にしたはずだ!!!」


「その口ぶり、私が捕まって以降のことは、一切耳に入れていなかったようですね。権力に溺れたゴミがぁぁ……」


 すぐに殺そう。今すぐ殺そう。存在そのものを消してやろう。あいつに、明日を迎えさせない!!


「ひぃぃぃ!! く、くるんじゃんないこの亡霊がぁぁぁ!!!」


 やつは、体当たりで扉を開けると、転がりながら左方向へと走っていった。私は、屍を踏み越えながら追いかけていく。


「待てぇぇぇぇぇ!!! この畜生野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


 これまでの口調だとか、行動理念だとか。そんなことは今はどうでもいい!! やつを倒さないと、先に進めない。体が、脳が、直感でそう叫んでいる!!

 エクセルス家の誇りのため、フェルンのため、この障害を乗り越える!!!



 ニゥイルさんが扉を潜り抜けたのとほぼ同時に、フェルンも扉を潜り抜けていく。


「はぁ……はぁ……あと2人!!」


 貴族と聖職者。それぞれ各1人ずつだ!! 2人は、何も考えずに行動しているのか、一直線に廊下を突き進んでいる。

 右の道に行ったり左の道に行ったりすることもなく、絵画が大量に飾られた廊下を突き進んでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……く、くるな!! 来るんじゃねぇぇぇ!!!」


「豚の餌にでもなってろぉぉぉ!!!」


 やつらは、走りながら私に罵詈雑言をかけてくる。だがそれは、あまりにも薄っぺらく、軽かった。あいつらは、私の人生の中で1番の小物だ。


 さてと、そろそろ終わらせましょうかね。


「時読!!」


 目の前に蒼い空間が広がる。


 最近、時読を使うと、若干頭痛がするようになった。大した痛みではないのだが、確かな痛みだ。それよりも驚いたのは、髪色についてだ。

 1か月前街を歩いていると、たまたま鏡の前に立ち止まった時がある。その時、私の金髪が、3年前に比べて明らかに濃くなっていたのだ。


「ええ!!」


 私は思わず声を出してしまった。なんせ自分の地毛の色が変わっていたのだから。

 その日の夜、磨くために水晶玉に触れると、意図してないのに時読が発動した。いつもなら10秒ほどで世界の色が元に戻るのに、その時は10秒を超えても終わることはなく、20秒後まで視ることができた。


 私は確信した。どういった原理なのかはわからないが、私の黄金の血は強化されている。それに伴って髪色が濃くなっているのもわかった。

 私は、強くなっているんだ。そう思うことが出来た瞬間だった…………。


 時読で5秒後に、あいつらが私の顔めがけて絵画をぶん投げてくるのと、20秒後に敵兵が2人と合流するのが見えた。


 世界の色が元に戻る。私は、半歩右にズレる。


「チッ!! さっさと離れんかぁぁぁ!! このくそったれがぁぁぁ!!!」


 貴族は、走っている時の勢いを使って大きな絵画を取り外すと、私の顔面めがけて投げつけてきた。絵画、壁に平行になって飛んでくる。絵画は、廊下と垂直になりながら私の耳元をすれすれで通過していく。


「な、なんで当たらないんだよ!! 完璧に投げたはず!!」


「自分の行動がすべて完璧だと思っちゃいけない。常に自分は不完全だと思わないと、必ず失敗する」


「う、うるせぇぇぇ!!!」


「さぁ、早くその首を差し出しなさい!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る