第47話 たった一つでも、大事なものがあるならば

 親父からとんでもない事実を継承して早数か月。俺とカルパラは、結婚式の買い出しのために、今、町を出んとしようとしていた。

 町の入り口には、たくさん人たちが見送りに来てくれていた。


「すまんなティール。本当は父親であるわしがいかねばならないんじゃが……」


「気にすんなって。親父はその足を癒すことに全力を注いでいればいいんだよ」


「ほうか……すまないな」


「いいってことよぉ。それじゃ行こうぜ。我が愛しの妻よ!!」


「もう!! やめてよバカ!!」


 こうして俺は、カルパラに背中をたたかれながらカルガラへと買い出しにむかった。



「そろそろ帰ろうか」


「そうね。宴会のために必要な食材も、これで足りるでしょう」


 両手一杯の食材を買った俺達は、楽しく談笑しながら2時間ほどかけて町までの帰路についた。


 フリヤオについた俺達を待ち受けていたのは、轟々と燃え盛る火に包まれた町の姿だった。

 家は燃え落ち、草花は炭になり、人は丸焼け。地獄絵図と呼ぶのにはふさわしい光景であった。


「え?」


「一体……これは……」


 どうしたってんだ!! なぜ町が燃えている!! 一体誰がこんなことを……!!


 その時、燃える家の向こう側に生きている人間がいた。

 生き残りかもしれない! そう思った俺は、急いで駆け寄ろうとした。だがしかし、それはただの幻想だった。

 動く人間に近づいた時、俺は驚愕した。そこに映っていたのは、町の住人を剣で串刺して遊ぶ衛兵の姿があった。


 頭に血が上った。いや、その言葉では言い表せないほどの衝動に襲われた。体が震える。無意識のうちに口が開閉を繰り返す。両耳が、紅蓮の炎よりも赤くなる。


「あぁ……あぁ……」


 我を失いそうになった時、隣からカルパラのおびえる声が聞こえてきた。

 自我を取り戻した俺はすぐさま危機回避行動に移る。


「カルパラ! すぐに逃げるぞ!!」


「え? え? ど、どこに逃げるの? 一体どこに逃げるの?」


「確か、ここから西に30分走ったところにジャヴィルという港町がある。そこまで行くんだ!!」


「わ、わかったわ……あなたの判断に従う」


 そこから俺達は、無我夢中で走った。道中、邪魔になった手荷物は全て捨て、とにかく早く走ることだけに全神経を集中させた。

 30分後、俺達はボロボロの恰好でジャヴィルに駆け込んでいった。



 次の日、俺とカルパラは、同じくこの町に逃げてきたフリヤオの住民に話を聞いた。


 あの日、俺達が帰る30分ほど前に、フリヤオがある領地を治めるクラグリム家の部下がやってきたらしい。内容は、近々増税をするとのことだった。

 住民は、もちろん猛反対をした。これ以上増税をしたら、私たちは暮らしていけなくなる、と。

 だがしかし、やつらはそんなことに聞く耳を持たず。そのまま帰ろうとしたらしい。そんな時、1人の子供が「ふさげるな!! このアホ鳥がぁぁ!!!」と、言いながら大きめの石をぶん投げたらしい。

 それにぶちぎれたやつらが、町に火をつけ、虐殺行為を始めていった。という。


 これを聞いた時、サラモニューク・クラグリムに対し、憤怒の怒りを覚えた。

 もちろん、町を燃やし、そこに住む人たちを虐殺にも怒っている。だが、そんな中でも特に怒りを覚えたのは、それを知っていながら黙認したクラグリム家の家長、サラモニューク・クラグリムだ!!


 俺はその日、革命でペイダス王国を革えることを誓った。

 町が燃えてから1か月後、俺とカルパラはカルガラに移住した。そして、生き残った者達とともに革命軍を立ち上げた。

 最初こそは仲間や物資が集まらず、苦労の連続であったが、次第に人が集まり、革命軍はそれなりに大きな反王国組織へと成長していった。


 革命軍を立ち上げてから4か月後、教会でカルパラと正式に結婚式を執り行い、同時に結婚を宣言した。身元が漏洩するのを防ぐため、戸籍登録はしていない。


 結婚してから1か月後、俺とカルパラは、神から子を授かった。元気な男の子で、名はコラジュ・フォレスティアと命名した。

 俺達は普段、革命軍に関する仕事で忙しく、コラジュは知り合いの乳母に任せている。もちろん、仕事と仕事の合間には、必ずコラジュの相手をするようにしている。


 俺的には順風満帆な生活を送っている自覚があった。そこから2か月が経った頃、信念の歯車は動き出す。


 1989年、7月3日。最近革命軍に入ってきたというカルターナとヴィームが、新しい人を連れてやってきた。

 俺がヒーヒー言いながら溜まった書類を片付けていると、そいつは自己紹介をし始めた。


「は、初めまして。黄金の鏡で占い師をやっている、フェルン・エクセルスと言います。よろしくお願いします」


 自己紹介を聞いた瞬間、俺は一瞬筆を止め、顔を上げた。そこには、金髪で、目の色は青で、身長は150ぐらいの女性が立っていた。

 俺は目と耳を疑った。

 エクセルスだって? そんなバカな……嘘だと信じたい。でも、見た目が伝承の女と瓜二つ……つまりはあれだ。こいつは、シュリン・エクセルスの子孫だ!! しかも、俺の推測が正しいのであれば、こいつは先祖返りだ。

 なんてぇこったぁ……。


 声をかけようとしたが、カルパラに怒鳴られて話しかけることは叶わなかった。でも、俺はこの瞬間、停滞していた歯車が動き出すのを実感した。


 それからというもの、油を塗ったボールが勢いよく坂を下るように、怒涛の勢いで革命が進行していった。

 ついには、王政打倒という革命軍最大の目標が今、遂行されるまでになった。


 ここまで来たんだ。やっとここまで来たんだ!! 2度と止まるわけにはいかない。例え、数多の鉛玉が襲ってこようとも。俺は進み続ける!! たった1つでも大切なものがあり続ける限り、俺は止まらない!!


「皆の者!! 進めぇぇ!! 決して止まってはならぬ!! そこに希望がある限り、足を止めてはならんのだぁぁぁ!!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」

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