第46話 フォレスティア家の秘密
俺とカルパラは、ペイダス王国の北端に位置する町、フリヤオに生まれた。
海に面しているこの町は、昔から漁業が盛んであり、獲れた高級魚などはよく王室に献上されていた。
海とともに共存してきたこの町で、俺は、大陸側にある黄樹森という森で狩猟生活をしていた。週に3回、森に行ってはシカやイノシシを狩って、その日の晩御飯にしていた。
港町に住んでいる俺が、なぜ狩猟生活をしているのか。それは、俺が狩猟一族の者だからだ。親父によると、我が家系は少なくとも2,000年以上前から続いているらしい。
親父はある日、「お前が狩人としても、人としても1人前になった時。我が家がこれまで伝承してきた秘密を、お前に教えよう」と言ってきた。今思えば、俺をこの町に引き留めるための口実だったのかもしれない。
だがしかし、その時の俺は幼く、好奇心で溢れかえっており、一族の秘密が知りたくて知りたくてたまらなかった。
親父からそう言われてからというもの、俺は秘密を知るために、ただひたすらに頑張って頑張って頑張りまくった。
月日は流れ、俺が20歳の時。いつものように森で獲物を探していると、クマに襲われている1人の女性を発見した。彼女は、怯えてその場から動けなくなっており、体中、土や葉っぱでまみれていた。
「だ、誰か助けてぇぇぇ!!!!!」
「!!」
俺はすぐさま持っていた弓を構え、弦を引きながらクマの首元に照準を合わせる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
クマの爪が、彼女の首目掛けて振り下ろされた瞬間、矢を手放す。矢は、見事にクマの首を射抜いていった。クマはそのまま大きな音をたてて倒れていく。
クマの目が完全に白目かつ、その状態が10秒以上変わらなかったことを確認すると、俺は彼女のもとに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございますぅぅぅ……」
彼女は、俺の胸部で泣きじゃくり始めた。
「と、とりあえず、今日はもう帰ろう。またクマが出てきちゃいけないし」
「うん……うん……」
こうして俺は、彼女の歩幅に合わせて森を後にした。
その後、家に帰った俺は、彼女の両親からお礼と、森に入るまでのいきさつを言われた。
なんでも、彼女ことカルパラ・バラリフォンは、いつも両親が買って帰ってくる森の幸を見て、森に行ってみたいという気持ちが強くなっていったらしい。
思いが抑えられなくなったカルパラは、あの日、森へと出かけて行ったらしい。
そして彼女は、「私、心身ともに強くなりたい。強くなって、また森に行くの! だから、あなたの護身術を私に教えて! お願いします!!」と、言ってきた。
俺は別に断る理由もなかったので、引き受けることにした。
あれから数日後、訓練を始めたカルパラは、みるみるうちに成長していき、半年後には木を一本へし折るほどまでになっていた。同時に、いつの間にか俺の中で芽生えていた恋心も、すくすくと成長していた。
俺は22歳に、彼女は21歳になった時、俺は結婚指輪とともにプロポーズをした。場所は、フリヤオ屈指の美しさを誇る砂浜。天気は快晴であった。
彼女は、満面の笑みで「はい」と答えてくれた。
どうやら彼女は、あの日クマから助けてもらった時から俺に気があったらしく、この日が来るのを心待ちにしていたという。
何はともあれ、結婚することになった俺達を、みんなは町を上げて祝ってくれた。
結婚式は、来年の夏にすることが決定し、しばらくはそのことで目が回るほど忙しかった。
そんな時、突然俺は、親父の部屋に呼び出された。
「ティールよ。今回のことで、お前はどうやら、狩人としても、人としても1人前になったようだな……そろそろ、頃合いだな……今からお前に、我がフォレスティア家が代々守秘してきた秘密を教えよう」
「ッ……」
俺は、思わず固唾を呑む。
「秘密というのは、紀元前1年にまで遡る。この年のある日、ご先祖様は、いつも通り森で狩りをしていた。当時はまだ森に名前がなく、皆適当な名前で呼んでおった。ご先祖様は、いつものように獲物を探していると、森の中心部にある広場に出た。この広場は、なぜか動物が現れないスポットとして有名だったんじゃ。道を間違えたと思ったご先祖様は、来た道に戻ろうとした。その時、視界に2人の人間が入ってきたんじゃ。狩人としての本能が働いたのか、すぐさまは茂みに隠れて観察してみると、ご先祖様は驚愕した。なんと、左にはあのネゾント様がいらしていたんじゃ!」
「え?!! ネゾントって……あの?!!」
「そうじゃ。そのネゾント様じゃ。ご先祖様は、その場に固まり、2人のことをずっと見ていたんじゃ。2人は、何やら言葉を交わした後、突然ネゾント様は、持っていた短剣で腕を浅く切ったのじゃ。切った個所からは黄金の血が流れ、見ていると思わずうっとりとしてしまうほどの美しさだったという。これだけでも衝撃的な光景だったのに、次の瞬間には、さらに上をゆく光景が目の前に広がった。なんと、その黄金の血を、もう1人の女性が両手で血を受け止め、そのまま口に運んでおったのじゃ」
「え……ネゾント様の血を……飲んだ?!!」
「そうじゃ。女性は、血を飲んだ瞬間、体が黄金色に光だし、すぐに元に戻ったそうじゃ。そして、ネゾント様の指示で、すぐそばにあった切り株の上にある水晶玉に触れると、彼女の手が黄金の靄とともに光りだした。それを見届けると、ネゾント様は姿を消していった。と、伝えられている」
俺は、あまりの衝撃に、体中がこわばった。一体どうしてそんな重要なことを、この家は知っているんだ? ……いや、考えるのはよそう。これ以上考えると、俺の頭が炎上してしまう。
それよりも気になるのが……。
「なぁ親父。その女性の名前ってわかったりする?」
「あぁ、わかるぞ。女性の名はシュリン。シュリン・エクセルス。髪は金髪で、目は青色。身長は150センチぐらいだったと伝えられておる」
「へぇ~」
エクセルス……かぁ。どこかで聞いた覚えがあるなぁ……。どこだったっけなぁ……。
そんなことを考えていると、俺はいつの間にかベッドの上に横たわっていた。
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