第45話 選択肢

 本部を後にした僕とフェルンは、粗く整備された道を歩いていた。


「ねぇカルターナ。一体どこに向かっているの? 上流階級あいつらを奇襲しに行くんじゃないの?!」


「落ち着けフェルン。誰も行かないとは言っていない。もちろんこの後すぐに行く。だがしかし、そのためには戦力が必要だ。たった1人でもいい。戦力が必要なんだ」


「……そ、そうね……その通りだわ。ちょっと、頭の中がごった返していたわ」


「そうなるのも仕方がない。僕も今、少しでも気を抜いたら怒りで体が暴走してしまいそうだからな……」


 そこから1分ほど歩いた辺りで、目的の場所に着いた。


「着いたよ、フェルン」


「!! ここって……黄金のうちの店……!!」


「そう、信用できるたった1人の戦力。ニゥイルさんだ」



 扉を開けて中に入ると、そこには背筋を伸ばして店先に立つニゥイルさんの姿があった。

 彼女の目は、全てを悟った目をしていた。目が合った後、ほんの数秒だけ沈黙の雰囲気が辺りを漂った。


「お2人とも。言わなくても事情はわかります。戦力を求めてここに来たのでしょう?」


「……はい。その通りです……」


「……わかりました」


 ニゥイルさんはそうゆうと、部屋の奥へと入っていった。


 ……無理だったか……こうなっては致し方ない。2人で突撃するしかない!!


 そう固く決意を決めた時、部屋の奥からニゥイルさんが剣を腰に差して帰ってきた。


「ニゥイルさん!!」


「あなたたちがここに来るのはわかっていました。その間、私は思考を張り巡らせていました。これから自分は何をすればいいのか。一体どういった道を歩んでゆけばよいのだろうか。結局たどり着いた答えは、自分の信じる道を歩く。でした。当たり前のように思われるかと思いますが、私は、その当たり前がとてつもなく大事なことだと思っています。私は、あなたたちと行動をともにします。どんなことがあろうと、この意志だけは変わりません」


「ありがとう……ニゥイル……」


 フェルンは、感極まった声でそう言った。


「……よし!! それじゃぁ倍返ししに行きますかねぇ!!」


「えぇ、行きましょう。ヴィームと、両親の仇を取りに行くわよ!!」


「私は、神書に書かれてあったことを……信じます!!」


「行くぞ!!」


 目標は、カルガラから2キロ離れた場所にある、上流階級の集まるミントンカン邸だ!!



 3人がミントンカン邸に向かう数十分前。

 8月10日、午前6時。サルサ宮殿前にある大聖堂。ここでは、血気盛んな群衆たちが、今まさに行動を起こさんとしている状況だった。


「お前たちぃぃぃぃぃ!!! 準備はいいかぁぁぁ!!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」


 8,000人もの人々の雄叫びが、ホールいっぱいに響き渡っていく。あまりの振動に、奥にあるネゾント教の像が倒れそうになる。


「これより、王族捕縛作戦を決行する!! かかれぇぇぇ!!!!!」


「「「ゔぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」


 団長の勇ましい号令とともに、8,000名もの人々が雪崩となって、サルサ宮殿目掛けて突進していく。

 大地が揺れ、草花は次々と踏みつぶされていく。その光景は、どこかへと向かって走っていたネズミ群が、思わず飛び跳ねるほどであった。


 猫は木の上に上り、そこら中の動物が暴れまわる地獄のような光景の中、彼らはサルサ宮殿の門をぶち破って中に入っていく。

 中は、噴水を中心に公園が展開されており、その公園を取り囲むように2メートルほどの塀と、豪華な建物で囲まれていた。


「進めぇぇぇ!!!」


 団長の号令を皮切りに、群衆は広場の向こう側にある宮殿の入り口へと向かって突き進んでいく。


 人々が広場の噴水を超えたあたりで、どこからともなく男性の声が聞こえてきた。


「撃てぇぇぇぇぇ!!!」


 ドバン!! ドバン!! ドバン!!


 4方の建物中から敵と思われし約210名が、一斉に銃を撃ってきたのだ。宙を滑空する鉛玉たちは、革命軍8,000名めがけて激走していく。

 撃ち終わった者達は、すぐさま後ろにいる別隊に交替し、再びこちら側に向けて銃口を構えてくる。


「な……」


 3組で交替交替にこちら側を攻撃してくるその光景は、革命軍かれらを恐怖と絶望に包み込むには十分すぎた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 鉛玉が、革命軍の面々の肉へと、その体を埋め込んでいく。中には肉を貫通して、地面に到達するものもあらわれた。


「こんちきしょうめがぁぁぁ……」


 団長は、剣で飛んでくる鉛玉を弾き返していく。10メートルほど離れたところから飛んでくる鉛玉を弾き返すことなど、団長にとってはそれほど難しいことではない。

 だがしかし、ほかの者達は違う。中には弾き返すものもいるが、大半の者達は鉛玉をまともに食らい、血を噴き出していく。


 団長は、体中に冷汗をかきながら考えた。


(このままでは、いずれ軍が壊滅してしまう……! もうすでにこちら側は1,000人以上やられた。もう2,000人にまでおよびそうなまでに死車の運行が好調だ。敵は、目視できるだけでも700人以上いる。おそらく、中にもまだ100人以上いることだろう。1つ。この状況を打開できる手段を思いついた。だがしかし、それはあまりにも無謀で、より一層の被害を出してしまう。かと言って、このまま躊躇っていては、いずれ俺達は全滅……。いや、考えるのはよそう。ここで立ち止まっては、今まで歩いてきたことが、全て無駄になってしまう。今1度問いただせ。俺は、一体なんのために戦っているのか。なんの信念を守るために戦っているのか……)

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