第44話 小高い丘に、一本の木
「はぁ……はぁ……んぐ……ゼファ……ゼファ……」
「ファァ……ファァ……フェェ……フェェ……」
僕達は、黙ったまま階段を駆け上っていた。後ろからは、ミューマとヴィームが争う音が響いてくる。
足元からは地面と靴がぶつかり合う衝撃音が聞こえてくる。断続的に響くその音は、ただ無常の時を感じさせるものであった。
2、3分ほど駆け上っていくと、地上に出てきた。まぶしい太陽と、晴れ渡る空が僕達を出迎える。
僕とフェルンは入り口の方に振り返る。その時、沈黙の雰囲気を突き破る一言を、フェルンが発した。
「ねぇカルターナ。さっきから言ってる策ってなに?」
「あぁ、それはな……
「!! 何ですって!! また崩壊ですって!! なんでまた崩壊なの?! なんでそんなに崩壊にこだわるのよ?!!」
「別に、好きこのんで崩壊をしているわけじゃない!! それしか方法が、選択肢がなかったんだ……」
「……崩壊するってことは、中にいる人はどうなるの?」
「それは……全員生き埋めになって死ぬ」
「ヴィ、ヴィーム……も……?」
「あぁ……そうだ」
「助け……られないの?」
「……残念ながらそれは不可能だ。たとえ、もしあそこから救い出すことができたとしても、刺された場所と大量の出血で……どのみち……助からないだろう」
「……」
「……やるぞ」
僕は、腰から短剣を抜くと、本部を支える支保に向かって構える。
支保というものは、大量の木を加工し、使用することで初めて土の重さを支えることが出来る。そのあまりの重さゆえ、どこか一本でも欠けたり、破損してしまったりすると、たちまち全体が崩落していってしまう。
つまり、今、目の前にある支保を数本壊すことができたのなら、そこを中心に本部は一気に崩落していくだろう。
僕は、今からその原理を使う。
「ふぅぅぅ……」
鞘から抜刀するのと同時に支保へと切りかかっていく。
……
パキャリィィィン!!! という音とともに入り口の支保が全て切れ、崩れ去っていく。同時に、
ズンダラガラシャァァァァァンン!!!!!
と、中の支保がドミノ倒しに壊れ去っていく。
僕達は、10数メートル離れた場所まで走っていくと、その場で崩れていく本部をただ眺めていた。
轟音が耳を貫いていく。砂埃が目に入ってくる。体中が砂や土まみれになっていく。
僕とフェルンは、ただその場に棒立ちをしていた。どんなに砂や土が体にかかろうが、1ミリも体を動かすことはなかった。しっかりと目を開け、その事実を目の当たりにしていた。
涙を流すのは今じゃない。そう思った僕は、決壊しそうな堤防を必死になって修復し続けた。
ちらっと横を見ると、そこには、涙があふれて止まらないフェルンの姿があった。声は決して出さなかった。でも、涙は止まらなかった。
ズダラァァァバダァァァン……。
崩壊が終わると、目の前には小高い丘が出来ていた。丘は、きれいな円形をしており、ところどころに大きな岩が転がっていた。
そして、丘の頂上には、一本の木が生えていた。その木は、逞しく丘の頂上に佇んでおり、見るものすべてを圧倒させるほどのものだった。
本当に丘の上に生えているのか。それとも、向こうの岩土山の木がちょうど重なったために見ているのか。そんなことは、今はどうでもよかった。
僕にはあれが、革命の悲に見えた。革命の黒い部分の象徴に見えた。しかし、それとは別の何かが、同時に僕の中に響いてきた。
「カルターナ。お前は前に進め。振り返ってはならない。そんなことをしている暇があったら、前を向け。信念を燃やせ。お前がこれまで信じてきた道を歩き続けるんだ。俺は、ずっと見守っている」
僕は、これがヴィームの声だと、すぐさま気付いた。きっと、あの木越しに声を届けてくれているのだと、そう思った。
きっと彼は、僕達が進むべき道を明るく照らしてくれたんだと思う。なら僕達は、その道を一歩一歩進んでいく。道半ばで死んでいった者たちの思いも乗せて、ただひたすらに歩く。
そこに道がある限り、僕の人生は続いていく。そこに道がある限り、僕達の挑戦は終わることなく続いていく。
どんなことがあっても、足を止めない。這いつくばってでも前に進んでいく。
「また会おうぜ……相棒」
僕達は、丘を背に再び未来へと歩き出して行った。
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