第43話 未来が見たかった
団長室に飛び込むと、ヴィームとフェルンとミューマさんも、同時にこの部屋へと飛び込んできた。
「3人とも!! 無事だったか。敵はどうだ?!!」
「俺の方は過半数をやっつけたぜ」
「私もよ。未来を先読みしてきたわ」
そんな中、ミューマさんだけが、石像のように黙ったままだった。
「ミューマさん?」
「ごめんねぇみんな。私、1人も国王軍を倒していないのぉ」
「「「え?」」」
次の瞬間、全ての通路から武装した王国軍が現れた。彼らの持つ各種武器からは、ポタポタと赤い水が流れ落ちている。
王国軍は、何重もの人壁で僕達を囲む。だがしかし、ミューマさんだけは囲まれておらず、囲まれるどころか後ろに並べさせて従えさせている。
「ちょっと、どうゆうことよ!! ミューマさん!!」
「すいませんねぇ~端から私の心は
この人……口調が大胆に変わっていやがる。それに、軍隊を下僕のように従えている。つまりは……そう言うことか……。これは……さすがに予想していなかった。
いや、しようとしなかった。と、言った方が正しいか。なんせ、僕とヴィームをここに勧誘しに来てくれた張本人だからな。
まさに、灯台下暗しだ。ちきしょう……一体2,000人中何名死んだ? 死んだ要因は敵の襲撃のせいか? それとも、間者が革命軍内に潜んでいるということを報告しなかった僕達のせいなのか?
それに、副団長の姿も見えない。まさか……。
「ミューマさん!! 副団長はどうしたんですか!!」
「あ~あの人? 安心して。ちゃんと殺しておいたわ。背後から剣をグサッとね。実にい~い効果音だったわ。食事中にBGMとして使用してもいいぐらいの、素晴らしい~音だった……」
こ、こいつぅぅぅぅぅ……もう……容赦しない。例え今からあいつが死んだとしても、僕は一切の感情を移入しないし、心も痛めない。やつはもう、敵だ!!
「て、てめぇ……ふざけやがって!! お前が間者だったのか!!」
「えぇ、そうですとも。革命軍本部の構造を王国に流したのは私。スリキルキャッシュの正体を暴き、情報を流したのも私。なんにもかんにも私のせいですともぉ」
ヴィームの拳は、おそろしいほどまでに震えていた。この世に存在するすべての負の感情が詰まっていることだろう。かくゆう僕も、表に出していないだけで相当な怒りを抑えている。
今すぐにでも、ケリをつけたい思いだ!!
「まぁ~おしゃべりはこの辺にして、そろそろメインディッシュへと移りましょうか」
するとやつは、指をバチィン!!! と、音を鳴らした。
「やりなさい」
「「「うじゃらばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
怒声とともに人壁がこちらに向かって動き出す。僕達は壁端に追い込まれているため、逃げ場がない。
「おいおいおいおい。どうするんだよぉ、この状況。逃げ場がねぇぞ!!」
「どうするの?! 未来を視ても明るい未来が視えないよ!!」
「慌てるな、2人とも。逃げ道ならある! それを使うには、敵を減らす必要がある。最低でも1,000人以下にしなくては、安全に利用することができない!!」
「つーことはつまり、今目の前にいる敵を半分以上削らにゃならんってことか……いいぜ。やってやる!! 生き残ってやるよ!!」
「私も覚悟はできている。それに、3人だと負ける気がしないわ!!」
「ありがとう、2人とも。いくぞ!!」
僕達は敵に向かって切りかかっていく!!
「攻撃こそ最強の防御だ!! とつっていくぜぇ!!」
ヴィームは次々と敵をなぎ倒していく。とてつもなくきれいで、勇ましいその剣筋は、敵の目を奪うほどのものであった。
彼は、草食動物を狩る肉食動物のような剣を狂い舞わせていく。
僕とフェルンも、負けじと短剣を狂い舞わせていく。
「な、なんだこいつら!! 強すぎる!! 化け物だ!!!」
「ひぃぃ!! やめてくれぇぇ!!」
ちらほらと敵が逃げ始めていくのが見えた。その顔は、恐怖一色に染まっており、彼らにつられてだんだん軍の統制が崩れ始めていく。
「お、おい!! 逃げるんじゃんない!! さっさと戻ってこいラバァァァァ!!」
「ちょいちょい。戦闘中だぜぇ? 隙を見せちゃいけないでしょ~。カルターナ!! そろそろいいんじゃんねいか?!」
確かに、戦う前に比べて、敵の数は半分どころか4分の1以下になっている。
あちら側も、恐れをなしてか、過半数が6メートル以上僕達から離れている。これ以上体力を消耗しても意味がない。ここが引き時だ。
「あぁそうだな。そろそろ引こう!! 2人とも!! 机の後ろにかけられているカーペットをくぐってくれ!!」
「「了解!!」」
この部屋には、万が1に備えての非常口がある。これは、昨日できたばかりの新品だから、まだあいつはこれのことを知らないはずだ!!
「走れぇぇぇ!!」
「行かせませんわ」
「ガフォ!! ガファ!!」
血を吐く音だと!! 一体誰が……!!
僕とフェルンは絶句し、思わず足を止めてしまった。後ろを振り抜くと、そこには、胸部を短剣で貫かれ、大量の血を流したヴィームがいた。
あ、あいつは……憎たらしい笑みを浮かべていた。
「い~い味ですわ~まるで搾りたてのミルクを飲んでいるみたいな感覚だわ~あぁ……し・あ・わ・せ♡」
「お、お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
こいつ!! いつヴィームの背後から短剣を突き刺した!! 許さねぇ……あいつだけはマジで許さねぇぇぇ!!!!!
流れ出る流血の中、消え入りそうな声でヴィームが話しかけてきた。
「カル……ター……ナ……はぁ……はぁ……怒りに震える暇があったら……さっさと……行け……はぁ……はぁ……」
「で、でも!! お前が!!」
「俺のことはいい……お前の脳内にある策で……こいつらを倒せ……はぁ……はぁ……」
「ぅ……」
「いいから、さっさと行けぇぇぇ!!!」
「ッ……!! 行くぞ、フェルン!!」
「……」
フェルンは黙ってついてきてくれた。僕は、できるだけ後ろを見ないようにした。人と目を合わせないようにした。全力で走っていった。
「行かせかぁぁ!! ……!! 短剣が抜けない!!」
「行かせない……か。それは、俺のセリフだぜ?」
「こ、こいつ!! なんという力で刃を持っているんだ!! どけなさい!! その手を早くどけなさい!!」
「はぁ……はぁ……どかすわけねぇだろ……アホタレ……少なくとも、あいつらが逃げ切るまで、俺はどかさない」
「こ、こんの畜生めがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
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