第41話 革命の時間

 1792年8月10日、午前5時半。革命軍本部、埊匡抗ちおうこう

 僕とヴィームとフェルン、それにミューマさんの4人は、団長室に来ていた。目の前には、背筋を伸ばした副団長が立っていた。


「皆様。よく来てくださいました。早速ですが今日の作戦について語らせていただきます。まず、我が革命軍総勢10,000名のうち、8,000名が宮殿組に。残りの2,000名が本部を守る守備組に振り分けられています。宮殿組を指揮するのは団長、守備組を指揮するのは副団長である私が務めさせていただきます。予定では、午前6時に宮殿組が中に突撃し、国王一家の捕縛を狙います」


 この辺りまで作戦の概要を聞いたところで、ミューマさんが手を上げて質問をしてきた。


「あのぉ……捕らえた後の国王一家は、一体どうするおつもりなのでしょうか?」


「捕らえた国王一家は、後日、公衆の面前でギロチンの刑に処します。民衆は彼らを、空から落ちてきた鳥の糞のような扱いをすることでしょう」


「……そう……ですか。わかりました……」


 その時のミューマさんの声は、若干震えており、体も心のなしか震えているように見えた。


「我々の守備組の任務は、皆が帰ってくるこの場所を死守すること。例え王国あちら側にバレていないとはいえ、くれぐれも気は抜かないように。それでは解散!!!」


「「「「イエッサー!!!!」」」」




 団長の部屋で解散すると、僕とヴィームは、本部内のとある一室にいた。


「ヴィーム。どうだ? 手がかりは見つかったか?」


「いや。これっぽっちも見つからない。2年以上も探しているのにこのざまとは……笑えてくるな」


「ほんと、その通りだ。自分で自分を笑ってしまうよ」


 メルネイ盗賊団のアジトを壊滅させてからというもの、僕とヴィームは秘密裏に間者について調べていた。間者については、革命軍にはいっていない。ゆうと大混乱が起こるし、何より間者本人が雲隠れしてしまう。

 フェルンとニゥイルさんにも、このことは伝えていない。せっかく再開することができた店の営業を、妨げるわけにはいかないからだ。


 肝心の間者に関する手掛かりだが、まったくといっていいほどに情報が入ってこない。辛うじてわかっていることは、間者が女性だということだけだ。

 革命軍にはたくさんの女性が所属している。その中からただ1人を見つけ出すのは、至難の業だ。加えて、相手は隠密行動のプロだ。当然、難易度は跳ね上がる。


 こんな調子なので、この約2年間、ずっと停滞している。


「はぁ……まぁとりあえず、持ち場に行きますかねぇ」


「あぁ、そうだな」


 室内の時計を見てみると、時計の針は5時55分を過ぎていた。

 通路に出て、2人で話しながら持ち場に向かっていた。5、6分ほど歩いたころ。突然、本部内の警報が鳴り響いた。


「緊急事態発生!! 緊急事態発生!! 王国側の者らしき軍がこちら側に攻めてきました。見張りの者からの報告によると、その数は5,000人。全員完全武装をしているとのことです! 全軍、戦闘態勢に入ってください。また、入り口から半径60メートル以内にいるものは、速やかに迎撃態勢に入ってください! 繰り返します……」


 はぁ?! ちょっと待て。いくら何でもタイミングが良すぎるだろう。革命軍内の情報が漏洩しない限り、こんな状況はありえない。やはり、間者の仕業か……僕達は、遅すぎたか……。


「カルターナ!! ここは、入り口から半径60メートル以内の場所に含まれている。急いで向かうぞ!!」


「あ、あぁ!」



 入り口付近に着くと、すでに戦いは始まっていた。


「生死は問わん。反逆者どもをひっ捕らえろぉぉ!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」


「怯むな!! 正義は我々の方にある!! 行けぇぇ!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」


 彼らの怒号が、ここら一帯をけたたましく反響していく。軍の中央には副団長がおり、一糸乱れぬ指揮で、同志達に命令を飛ばしている。前線には、戦っているフェルンとミューマさんの姿が見えた。

 一見有利に見えるこの戦い。しかし、実際のところ、戦況は確実に不利な方へと傾いていた。その大きな要因の1つに、地形があげられる。

 王国軍側が今いる場所は下り坂で、上から一方的に攻めることができる。一方で革命軍側は上り坂で、下から彼らを迎え撃つ構図となっている。


 このまま行くと、この場にいるものは間違いなく皆殺しにされるであろう。


「こりゃマズい。加勢するぞ、カルターナ!!」


「応!!」


 僕とヴィームは、腰から剣と短剣を抜きながら走ってゆく。

 前線に着くと、まず最初に僕達はフェルンとミューマさんと合流した。


「カルターナ!! ヴィーム!! 来てくれたのね!!」


「もちろん来るさ!! それで、視えてるか?」


「えぇ、視えてるわ。悪い方の未来がね」


「なるほどぅ、わかった。それじゃぁその未来を変えにいこうかねぇ!!」


「協力するぜカルターナ。一体何をする気なんだ?」


「まぁ待て。作戦を実行するのは、こいつらの数を減らしてからだ。行くぞ!!」


「「りょーかい!!!」」

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