第38話 空席となった頂
視界は茶色で埋め尽くされ、今自分がどこにどんな状態でいるのかが全くわからなかった。
次第に砂埃は薄くなり、目の前に広がっていたのは、ベコボコォォとなった元アジトだった。
アジトは原型をとどめておらず、巨大なデコボコのクレーターが、その存在を現世に残していた。
僕は、クレーターからわずか数10センチしか離れていない場所に座り込んでいた。
危なかった。あと1秒でも遅かったら、今頃クレーターの1部となっていたことだろう。
「みんなは……みんなはどこだ!!」
砂埃が完全に消え、クリアになった視界を必死になって探し回る。
「ヴィーム!! フェルン!! ニゥイルさん!! 生きてたら返事をしてくれぇぇぇ!!!」
「う、うぅ……」
!! 今、声がした。どこだ。一体どこから!!
ズキンと痛む脇腹を押さえながら声のする方向を見る。すると、少し先にいったところにあるくぼみの中に、ニゥイルさんが倒れていた。
体中砂まみれになっており、ところどころから血を流していた。
僕は、傍まで駆け寄って、右手で頭を持ち上げる。
「ニゥイルさん、大丈夫ですか?!!」
「カ、カルターナさん……私は無事ですよ。安心……してください。それよりもほかの2人を捜索してください……」
「……わかりました……ここで横になっておいてください」
ゆっくりと頭を下すと、僕は再び立ち上がった。
「おぉぉぉい、2人ともぉぉぉ!!! どこだぁぁぁ!!!」
草の根を分ける勢いで捜索していると、10数メートルほど離れたところにある茂みの中に、モゾっと動く何かを見た。
もしかしてと思った僕は、砂色になった茂みに向かって、一目散に突き進んでいく。
茂みに着くと、そこには巨大な水晶玉を大事に抱えたフェルンの姿があった。
「大丈夫か、フェルン!!」
「えぇ、私は大丈夫よ。私の体よりも水晶玉の方が心配だわ」
そう言うとフェルンは起き上がり、水晶玉をくまなく調べ始めた。
「私はこのこの無事を確認するわ。カルターナはヴィームの無事を確認してきて」
「あぁ、わかった」
僕は茂みを飛び出すと、全速力で周囲一帯を駆け回った。脇腹の傷が開き、血がにじみ出てくる。
「はぁ……はぁ……一体どこにいるんだよぉ……おぉぉぉいヴィーム!!!」
すると、クレーターの方から声が聞こえてきた。
「おぉぉい、カルターナぁ!! 俺はここだぁ!!」
「わかった!! すぐにいく!!」
全力ダッシュで向かうと、ヴィームはクレーターに落ちかけていた。クレーターの深さは、最低でも30メートルはあり、ひとたび落ちれば2度と這い上がることは叶わないだろう。
そんなとこにヴィームが吸い込まれようとしている。それだけは防がなければ!!
「ヴィーム今引っ張り上げる。手を伸ばしてくれ!!」
「あぁ」
右手でヴィームの手を掴んで、体を一気に引き上げる。安全な場所に着地したヴィームは、1つ安堵の吐息を吐く。
「ありがとよ、カルターナ。みんなは無事か?」
「あぁ、みんな無事だ。しっかりと意識がある。だけど、ニゥイルさんがところどころ血を流しているから早く治療しないと」
「そうか。わかった。じゃぁこのまま現地解散にしよう。んでもって、明後日また店に集まって情報交換をしよう。この状態じゃぁ話すことすら難しいからな」
「わかった。それでいこう」
こうして僕達は帰路へとついた。僕とヴィームは2人を店まで送った後、自分たちの家へと帰っていった。
翌日。ペイダス王国において、最大の力を持つメルネイ盗賊団が壊滅したことが世に広まるのに、そう時間はかからなかった。
僕は、脇腹の治療を済ませ、家のベッドに寝転がっていた。
「はぁ……疲れた……」
昨日は怒涛の1日すぎた。戦って戦って、水晶玉を取り返したと思ったら、今度はアジトの崩落。走りすぎて筋肉痛だ。
だが、今日はめでたいクリスマスだ。昨日頑張った分、今日は食べて食べて食べまくるぞぉ!! ……そして寝る。
窓越しに夜の空を眺めていると、1階からシュリールの声が聞こえてきた。
「カルターナぁぁ!! 晩御飯よぉぉ!!!」
「はぁぁい!! 今行くぅぅ!!」
部屋に入ると、机の上には七面鳥やコールスロー、高そうなワインが置かれており、今日がクリスマスだということをひしひしと感じさせていた。
そんな雰囲気のわりに、シュリールの顔が若干暗かったように思えた。
「椅子に座って」
「え? あ、うん」
彼女の言う通りに椅子に座ると、おもむろに口を開き始めた。
「カルターナ。今から言うことは、1度しか口にしない。だから、よく聞いてほしいの」
「う、うん。わかった」
急にどうしたのだろうか。突然かしこまっちゃってさ。一体どんなことを話すってんだよぉ。
次の瞬間、彼女から聞いた言葉に、僕は驚愕の顔をした。
「あなたの名字であるプラルトは、本当の家名ではないの」
「えぇぇぇぇぇ!!」
と、表面上は驚いておく。そのことについては、メルネイから腕輪についての話を聞いた時、うすうす感づいていた。自分の名は、本当の名ではないことに。
僕の本当の名は、おそらく……。
「あなたの本当の名は、カルターナログマルク。あなたは、ネゾント様を殺した人物の子孫なのよ」
「な、なんだってぇぇぇぇぇ!!」
と、無駄に声を張り上げて返答する。やはり予想は的中していたようだ。でも、名字がまんまログマルクになるとは予想していなかった。てっきり、ちょっとばかしのひねりを加えていると思っていたのだが。
「私は、ネゾント教に入信している身だからこれ以上のことは言えないけど、とにかくあなたは、すごい血を引いているのよ。わかった?」
「う、うん。わかった。脳内に永久保存しておくよ」
「えぇ、それでいいわ……さて!! それじゃぁクリスマスパーティーを始めましょうか!!」
「了解!!」
2人だけのクリスマス。一見、周りから見ると寂しいように思えるが、僕はぜんぜん寂しくなかった。たとえあったとしても、今日を生きられていることへの喜びでかき消されていくであろう。
食べて飲んで食べて飲んでを繰り返していると、気が付けば僕は再びベッドの上に転がっていた。
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