第37話 崩れ去るアリの巣

「て、て言うことは、この人は……あなたとカルターナの恩人で、すべてを教えてくれた人っていうこと?」


「あぁ。その解釈で間違いはない。彼は、読み書きや武術、そして何より、人間としての威厳や信念を教えてくれた。そんなあなたが、どうしてこんな姿に……!!」


 タラフォンさんは、何本か歯が抜かれ、爪も何個かはぎとられ、体中のいたるところに鞭で激しく叩かれた跡がある状態だった。

 彼は、ヴィームの言葉に対して、腹の奥から搾り取るような声で答える。


「実はな……1か月ほど前に私が反国王組織に長年関わっていることがあちら側にバレてしまってねぇ……結果、御覧の有様だよ……情けないねぇ……」


「そ、そんなことはありません!! と、とりあえず、脱出して治療しましょう!! さぁ、俺の肩に」


「君の言う通りにさせて……もらうよ……頼ん……だ……」


 彼は、ヴィームの肩に腕を置いたところで意識を失った。崩れ落ちそうになるタラフォンさんの体を反対の手で支えると、ヴィームは彼を背中に抱える。


「よっしゃ、早くこの空間から脱出するぞ!!」


「りょーかいよ!!」


 私たちは急いで拷問室から出ると、上へと向かう通路へと入っていく。その時、ヴィームの顔を見てみると、おそろしいまでに青い顔をしていた。


「ど、どうしたの? 顔が真っ青だよ?」


「俺さ。今、とんでもないことに気が付いたんだよ」


 すると、ヴィームはゆっくりと右を向いてくる。


「ここ、さっき俺が爆破した部屋の近くだ」


「ふぇ?」


 ドガラドガラドガラドガラ……。


「フェルン……走るぞ」


「ふぇふぇ?」


「走るぞ、フェルン!! トップスピードで走るんだ!!」


 ズンダラガラガシャァァァァァァァァァンン!!!!!!!!!


「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」


「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 アジトが大崩落を始めた。それまでここを支えていた支保が、ベキバキッ!! というデグシャレ音とともに、次々と大破していく。

 その中を私たちはずんずんと進んでいく。落ちてくる土や残骸なんて気にしない。だけど、どうしても気になってしょうがないことが1つだけあった。


「はぁ……はぁ……ねぇヴィーム……カルターナ達は大丈夫なの?」


「ん? あいつなら大丈夫だ。なんたって俺の相棒なんだからな。必ず生きて帰ってくる。俺達はただ、それを信じていればいいんだよ」


「……そうね。その通りね。行きましょう!!」


 私とヴィームは、残った体力全てを使ってひたすらに上へ上へと昇っていった。



 時を同じくして、カルターナとニゥイルは、アジト中層付近にいた。


 ズドドドドドドドドドドド!!!!!!


「ま、マズい。アジトの崩壊が始まったぞ!!!」


「ど、どうして急に崩落が始まって……」


「理由は後でじっくりと考えましょう。今それよりも脱出です。急ぎますよ!!」


「はい!!!」


 僕達はすぐさまトップスピードになって激走した。落ちてくる支保や土の塊をかいくぐり、イノシシのように進んでいく。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 まだか。まだ着かないのか。まだ地上に到着しないのか!! もうかなりの距離を走ってきているはずだ。このまま行くと、地上に着く前にぶっ潰れてしまう!!


「カルターナさん、上です!!!」


「なっ!!!」


 前方斜め上から支保と土が落下してきた。ドベラニガァァァ!!! という音とともに進行方向を妨げてくる。


「くそ、塞がっちまった!! 進行方向を……」


 そう思い、360度見渡した時、絶望した。なんと、すでに四方八方の通路がすべて塞がれていたのだ。

 それに加えて崩落の足音も近づいてくる。


 非常にマズい状況だ。このままだと生き埋めになって化石になってしまう。それだけは嫌だ!! どうする? どうする? 解決の糸口はすぐそこにあるはずだ!!


「はぁ……はぁ……」


 血眼になって縦横無尽に目玉を動かす。その時、見渡す限りの土の中に、1つだけ隙間があるのを発見した。隙間の大きさは拳1つ分程度のものであり、どう考えても人1人が入るにはあまりにも狭いものであった。


 見つけた瞬間、僕は考えることを放棄し、手掘りでどんどんと穴をあけていく。


「カルターナさん!! 崩落がもうすぐそこにまで迫っています!!」


「ッ!!!」


 急げ、とにかく急げ!! もっと急げ!! 腕の筋肉をもっと速く動かすんだ!!


「ならぁぁぁぁぁ!!!」


 よし!! 穴が空いた!! これで外に出られる!!


「ニゥイルさん!! 空きました!!」


 そう言いながら僕は穴の向こう側へと走っていく。僕が向こう側へと走っていったのと同時にニゥイルさんも穴を潜り抜けていく。


「はぁ……はぁ……もっと、もっともっと速く!!!」


 粗末な石階段を全速力で上っていく。崩壊は、そんなことお構いなしに速度を緩めずについてくる。

 僕とニゥイルさんは、並立になって風のように駆け上がっていく。


 あともう少しだ。あと数メートル駆け上がれば地上に出られる。ラストスパートだぁぁぁ!!!!!


 ドドドドララララララララ!!!!!!


 やった!! 地上に出てきた!! 左にヴィームとフェルンもいる。このまま2人と合流だ!!


「ヴィーム、フェルン!! 無事だったか!!」


「あぁ、2人とも無事だ!! 無事だからもうちょっとの間走れぇ!!!」


 一瞬何のことだろうかと頭上に疑問符が浮かんだ。だが、その疑問も次の瞬間には消え失せることとなる。


 ジャラドガバキャァァァァァ!!!!!!!!!!


 そう、まだアジトの崩壊は終わっていなかったのだ!!

 一瞬速度を緩めていた僕は、瞬時に速度をトップスピードに上げ直していく。


「ぬぁぁぁらぁぁぁぁぁもう少しなんだぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 ジャドォォォォォォォンンン!!!!!!

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