第36話 恩人の姿

 ドグシャレバラガァァァァァンン!!!!!


「な、なんですか一体!!」


「へ、部屋が崩落し始めたぞ!!」


「あなたのせいじゃないですか!!」


「じ、自分のせいですか?! ……いや、自分のせいか……」


 幹部2人が言い争っているのを尻目に、私は棚から水晶玉を取り返して通路に逃げ込んでいく。

 ヴィームは、私が通路に向かっている時についてきた。


「!! お、おい、お前ら!! 逃げんじゃんねぇ!!!」


 私たちが通路に入っていった辺りで、落下物を手で払っていた幹部2名が私たちに気づく。

 2人は、叫びながら走ると、ものすごい勢いで通路に入ってきた。同時に、部屋の崩落が通路までもを侵食し始めた。


「おいおいおいおい!! 通路まで崩落してきたぞ!!」


「そうね……これは予想外だったわ。でも、難関だった問題がこれで解決するわ。ヴィーム、任せるわ!!」


「りょーかい、任せとけ!!」


 私は両手で水晶玉を抱えながら、ヴィームは剣を左手に持って通路や部屋を激走していく。対して、やつらは片手にそれぞれ武器を持って走ってくる。


「待ちなさい!! 賊ども!!」


「待ちやがれこのボケナスどもがぁぁぁぁぁ!!!!!」


 くそ!! あいつら、予想以上に足が速い!! このままでは追いつかれてしまう!! それと同等の速度で崩落も迫っている!! なんとかしなくちゃ!!

 今の私は、いつでもあれが使える!!


「時読!!!」


 目の前に蒼い世界が広がっていく。


「ヴィーム!! この先に強姦室と書かれた看板がある!! それを後ろのどちらかに向かって投げて!!」


「あぁ、わかった!!」


 私たちは、互いにうなずきながら激走していく。ドバラガドォォォンン!!! という音とともに、後ろから死神が鎌を持って迫ってくる。


「いい加減に殺られやがれぇぇぇ!!」


 幹部の1人が、走る速度を急激に上げてきた。私たちの間の距離がどんどんと縮まっていく。

 5メートル、4メートル……2メートル!!


「フェルン!! 足元気い付けろ!!」


 ヴィームは、走りながら剣で看板を削ぎ取ると、速度を上げた幹部の足元に放り投げる。


「うげぇ! な、なんでこんなところに看ばァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


 1人は、通路の崩壊に巻き込まれ、次の瞬間には声さえも聞こえなくなった。


「たっぷりと土の味を味わいな!!」


 やった!! 1人やっつけた!! 残るは小太りの紳士だけだ!!

 この時、私は数秒の間だけ油断をしてしまった。意識が、集中が、数秒だけ揺らいでしまった。ぶれてしまった。

 幹部は、その瞬間を逃しはしなかった。


「うっ……!!」


 やつのレイピアが、ヴィームのふくらはぎを貫通していたのだ!!


「よくも彼を殺ってくれましたねぇ。今度は我輩の番ですよ」


 ヴィームは反射的に速度を緩めてしまった。一瞬だけだった。だがやつは、その一瞬の間に彼との距離をどんどんと詰めていく。

 気が付くと、やつはヴィームから1メートルほどしか離れていないところにいた。


「おさらばです」


 次の瞬間、やつは彼の服を掴んでいた。


 マズい。このままだと彼が死んでしまう!! どうする。どうする……あぁもう!! こんな時は考えるな!! 行動しろ!!


「その手を離せぇぇぇぇぇ!!!」


 私は、踏み込んだ時の反動を利用して、履いていた右靴を脱ぎ去る。靴は、やつの顔面にぶち当たる。

 だがしかし、やつはびくともしなかった。


「このような小細工、我輩には無に等しい!!」


 やつは、腕を後方に振り抜こうと体を前傾姿勢にする。それと同時にヴィームの背筋が自然と伸びる。

 2人と死神との間がどんどんと埋まっていく。8メートル、7メートル、6メートル……。


「ヴィームぅぅぅ!!!」


「さらばだ」


「おいおいおっさん。何か思い違いをしてるんじゃんねぇのか? 死ぬのはあんたの方だぜ!!」


「何をいまさらァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ヴィームは、後ろに投げ飛ばされそうになった瞬間に身をよじらせ、鞘でやつの胸部を思いっきし押し付けた。

 押し付けた反動で彼は加速し、逆にやつは崩落に巻き込まれていった。


「い、生きてる? ちゃんと生きてるよねぇ?!」


「あぁ、もちろんだぜ。この通りピンピンしてるさぁ」


 そこからしばらく走っていると、道が3つに分岐した辺りで崩落が落ち着いていった。

 私たちは、そのまま上り坂の中央の通路へと進んでいく。


 しばし進んでいくと、木の扉がついた部屋を見つけた。そこの看板には拷問室と書かれてあり、ところどころに血の跡がついていた。


「こ、これは……」


「気にしちゃいけねぇ。先に進むぞ」


 そう言われ、地上目指して先に進もうとした時だった。


「だ、誰かぁ……助けて……くれぇぇぇ……」


「「!!!」」


 中から男性らしき声が聞こえてきた。聞こえた瞬間、私たちは中へと入っていく。体が勝手に動いたのだ。


 中には、ペンチや木馬といったありとあらやる拷問具が置かれており、そこら中に血の跡があった。

 声のする奥の方へと進んでいくと、そこには鉄の錠に繋がれた男性がいた。


「だ、大丈夫ですか?! い、今助けますからね!! ヴィーム、手伝っ……?」


 ヴィームは、男性を見たままその場に停止していた。まるで石像のようであり、顔は驚愕で固定されていた。


「あ、あなたは……タラフォンさん……!!」


「久しぶりだね、ヴィーム。9年ぶりかな? 元気そうで何よりだよ」


「ヴィーム、この人のこと知ってるの?」


「知ってるも何も、この人は、俺とカルターナにとって大恩人に当たる人物だ。俺達に読み書きを教えてくれた。俺に至っては、剣術まで教えてくれた貴族だよ!!」


 な、なんですってぇぇぇ!!!

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