第34話 否訃斬
知らない建物。知らない匂い。知らない景色。知らない雰囲気。これまで見たことのないような、新鮮な情景が目の前に広がっていた。
首を右に向けると、そこには2人の男女が、こちらの方を向いて座っていた。
「お、目が覚めたか」
「大丈夫? すんごい量の傷やアザがあったけど」
「あ、はい。大丈夫……です」
一体ここはどこなのだろう。どうやらこの2人は、私のことを助けてくれた優しい人のようだ。
「私の名はバドラム・エクセルス。そして、こちらが我が妻、カリナムだ」
「カリナム・エクセルスです。夫婦で黄金の鏡っていう店を営んでいます。あなたは……ニゥイルさん……ですよね。国中で話題になっていますよ」
!! もうそんな騒ぎになっていたのか。おそらく、私の首には多額の懸賞金がかかっているだろう。つまり、この人たちは……。
私が警戒の目をすると、2人は慌てて手を振る。
「ま、待ってくれ!! 別に私たちは君をやつらに売るような真似は決してしない。お金なら十分あるし、何よりも、君のような困っているレディを見捨てるほど、私たちは人間を辞めていない」
「そうよそうよ。絶対にあなたを見捨てるようなことはしません!!」
2人の目は、自信と決意に満ちていた。真実と正義の目で満ち満ちていた。
この人たちは、何か違う。私の身分や功績にあやかろうとすり寄ってきたあいつらとは、根本的に違う!! この人達なら……信じてもいいかもしれない。
「あ、ありがとう……ございます……」
気が付くと、ベットの上には水が1滴ずつ染み込んでいた。次の瞬間、私の頭は、カリナムさんの胸の中にあった。
それは、人間の体温だった。ぬくもりだった。すべてを優しく包んでくれる大いなる光であった。
私の中で長い間せき止められてきた感情が、一気に決壊していった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
後日、私はエクセルス家の養子として迎え入れられた。もちろん、戸籍登録はしていない。
あの夫婦は、私に対して、本当の子供のように接してくれた。貴族時代の生活では、確実に手に入らないであろうものを、手にしていくことができた。
ただ、そんな2人に対して何もしないということはできなかったので、私は、黄金の鏡で働きたい!! と、申し入れた。
2人は、最初こそは悩んでいたものの、裏方の仕事で、顔は絶対に見せない。という条件で、私を雇用してくれた。
かくして私は、黄金の鏡で唯一の従業員、ニゥイル・エクセルスとなったのだ。
私は、フェルンのご両親には、一生かかっても返しきれない恩がある。崇拝もしている。私の未来は、劇的に変化したのだ!!
だがしかし、既成された過去はいつまでも私を追いかけてきた。その代表例が、今目の前にいるネイ・ラ・ラビンスだ。
「へいへいへいへいへいぃぃぃ!!!!! とろいとろいとろいぃぃぃ!!!!!」
やはり、こいつは強い。一発一発が、腕にとてつもない振動と負担をかせてくる。だからと言って、負ける理由にはならない!!
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
脚を思いっきし踏み込んで、やつを数メートル先まで吹き飛ばしていく。
「ッ……いきなり本気出しやがって……だがな。無駄なんだよぉぉぉ!!!」
「もう私は……戻らない!!!
互いに踏み込んで突撃していく。剣と剣がぶつかり合い、金属音と火花が2人の間をほとばしる。
「
「なにぶつぶつ言っていやがらぁぁぁ!!」
奴が猛攻撃を仕掛けてきた。あらゆる方向からギラリと光る刃が襲ってくる。私は、ひたすらに防御に徹する。
「ほれほれほれほれ!! 悔しかったら攻撃してきてみろやぁぁぁ!! 無理だろうがなぁぁぁ!!!」
「ッ……
私は、全体重を剣に乗せてやつを吹き飛ばす。奴は、みるみる顔を赤くしていく。
「や、やりやがったなぁ……2度もやりやがったなぁぁぁこのボケナスがぁぁぁぁぁ!!!!!」
再び奴は突撃してきた。先程よりも格段に速い速度で突進してきた。私は。落ち着いて剣を構える。
そして……。
「
「え?」
次の瞬間、私はやつの背後に移動していた。ゆっくりとこちらを向いたネイ・ラ・ラビンスは、3秒後、
「あなやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
バラバラになった剣とともに、胴体から大量の血を流して倒れていった。
剣を払いながら、私はゆっくりと立ち上がる。
「過去とは……乗り越えるために存在する」
「ニゥイルさん!! 大丈夫ですか?!」
通路を抜けると、そこには剣をしまうニゥイルさんの姿と、仰向けに倒れているネイ・ラ・ラビンスがいた。
「……終わったみたいですね」
「ええ。そちらも?」
「はい。それではここから脱出しましょう」
「え? でも、フェルンとヴィームさんがまだ戦ってますよ?」
「あいつらなら大丈夫ですよ。なんたって、僕の相棒ですもん」
僕は、脇腹を押さえながら胸を張って言った。
「……そうですか。わかりました。それでは参りましょう」
こうして僕達は、地上へと脱出するために、通路へと入っていった。
カルターナとニゥイルが合流したころ。フェルンVSコジュレブ。
「黄金血殻!!!」
私の手に、黄金の靄が渦巻く。
「む? なんですかその靄は」
彼は、もの不思議そうにこちらの手を見てくる。
「教えませんよ」
「……ふむ。そうですか。では、続きと行きましょうか」
突撃して来た!! 未来視を使うんだ!!
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