第33話 牢獄の中で
「キャッ!!!」
ゴミをゴミ箱に捨てるように牢屋の中へと放り投げられた私は、地べたに転がっていく。
「正式に処刑が決まるまで、ここで待機していろ!!」
ガシャァァァン!! という音とともに牢の出入り口が閉ざされる。部屋は見渡す限りの石景色で、藁の寝具ぐらいしか置かれているものがなかった。
ボロボロでビリビリに破けた服、体中にできた擦り傷。その恰好に、もはや貴族令嬢としての面影はほとんどなく、あるのはむなしく地べたに転がる自分自身であった。
右手を支えにしてゆっくりと立ち上がろうとした時、部屋の奥から笑い声が聞こえてきた。
「ザバガレレレレレェェ!! 何もないブタ箱にようこそ、新人」
彼女は、身長が160センチほどあり、顔は大変整っており、ありえんほどの美人だった。
「あ、あなたは誰ですか?」
「ん? 私か? 私はなぁ、ネイ・ラ・ラビンスっていうんだ。人を大量に殺したらここにぶち込まれた。お前は?」
「わ、私の名前はニゥイル・クラグリムと言います。父親のせいでここに入れられました」
ネイ・ラ・ラビンスだって?! その名前は、国家の関係者を100人以上殺した大虐殺者だ。どうしてそんな人と同じ部屋になってしまったんだぁぁぁ!!
「へぇ~。そうかいそうかい。何はともあれ、私とおん前は先輩と後輩の関係だ。後輩が先輩に対してやることはたくさんあるだろぉん?」
「え?」
「チッ! だぁぁかぁぁらぁぁ、食料をよこせってことだよぉぉ!! 1日2回やってくる配給のパンをよこせってんだよぉぉ!! わかったかぁぁぁ!!!」
「ひぃぃ……!!!」
やっぱりこいつは殺人者だ。真の殺人者だ!! こんな理不尽で不合理だ!! 私はこんなやつと暮らさないといけないのか? どうして……どうして……!!!
「早く答えろよぉぉぉ!!」
私は、あまりの恐怖と絶望に、口をパクパクと動かすことしかできなかった。体も固まって動かなかった。心が……砕けそうだった。
「はぁ……しょうがねぇなぁ。特別に選択肢を用意してやるよ。いいか? 私にパンをすべてよこせ。はいorYES? お前はどっちを選ぶんだい?」
な!! こんな選択問題ふざけてる!! 答えが実質1つしかないじゃんないか!! いやだ。こんなやつの言いなりなんていやだ!!
返答を先延ばしにしていると、彼女が拳を震わせてきた。
「……!! お前ぇぇ……いい加減にしろよぉぉ? さっさと答えんかい!! このバカタレがぁぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、私の頬を中心に絶大な衝撃が体をほとばしる。歯が折れるかと思った。鉄格子に体を叩きつけられる。立てないほどの衝撃が、背中を中心に駆け巡る。
「さぁ、早く答えな。さぁ!! 早く答えな!!!」
「は、はい……」
私は、完全なる恐怖状態に陥っていた。早くこの痛みから逃れたい。この時の私は、そのことで頭がいっぱいだった。
彼女は大きく深呼吸をすると、満面の笑みを浮かべてきた。
「う~ん。わかればいいんだよ~わかれば。最初からそう言ってたら痛い思いをせずに済んだのに~。あぁもったいない」
そこからの生活は地獄だった。
1日に2回来る配給は、コップ1杯の水と、硬くて冷たいパン1つ。そして、土のついた野菜が少量と、1本のフォークだけであった。
パンは彼女に奪われてしまうので、実質的に私の食べるものは、土の付いた野菜しかなかった。
加えて、食後の運動と称して、私は彼女のサンドバックにされた。殴りや蹴りといったすべての暴力が、私のすべてを壊していった。誇りも尊厳も、何もかもが壊されていく。
私は、次第にやつれていった。
それから1週間後、私は、処刑の日を迎えた。2日前に処刑のことを聞いたとき、私はやっと解放されると喜んだ。やっとこの地獄から抜け出せるのだと、悔しがる彼女を尻目にガッツポーズをとる。
看守からは、こいつ頭おかしいんじゃんないのか? という顔で見られたが、私はこれっぽっちも気にしていなかった。
だがしかし、人間の生存本能はどうやっても起こるもので、処刑前日の夜は、眠ることができなかった。生きたいと願う気持ちが爆発していたのだ。
そこで私は、脱獄することを決意した。決行日はもちろん処刑の日。
絶対に脱獄する!! そう決意すると、意識は次第に遠のいていった。
処刑日当日。私は、誰よりも早く起きると、脱獄をするにあたっての心構えを整え始めた。服は動きやすいように加工し、脳内では、連行された時に通ったルートを逆再生していく。それとともに、脱獄のシュミレーションを行う。
すべての過程が終了したころ、看守が1人、この牢屋にやってきた。
「ニゥイル・クラグリム!! 貴様を処刑場に連行する!!」
ガチャガチャ、ガシャァァァン!
鉄の棒の集合体が、鳥かごの扉を開けるように、ゆっくりと開いていく。私は大人しく部屋の外に出た。
「お? 今日が処刑の日だったかぁ~。じゃんなぁ~フェルン」
ネイ・ラ・ラビンスが、眠たそうに欠伸をしながら手を振ってくる。奴は、最後の最後まで最悪な奴だった。
「さぁ、早く手を出すんだ」
手錠を目の前に出された私は、そこに向かって手を差し出そうとしたその時、私の計画は始まった。
私は、弱りきっていると高をくくって油断している看守の股間を思いっきり蹴り上げる!
看守は、その場に倒れこみ、うずくまって悶絶している。それを尻目に私は走り出す。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
想像以上に体力がなくなっていた私は、息が絶え絶えになり、今にも倒れこみそうだった。
それでも私は走った。生きるためにひたすらに走りまくった。血の味がしてきた。脚の感覚もなくなってきた。
すべての思考を停止して無我夢中で走り続けていると、気が付けば私は、見知らぬ街の路地裏で倒れていた。4肢は動かず、何も考えることができない状態だった。
そんな時、私の目の前に2人の大人が現れた。2人は、私を見るなり大慌てで何かをしてくれた。だけど、そこで私の意識は途絶えた。
次に目覚めた時、そこはベッドの上だった。
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