第32話 神書
カルターナがメルネイとの決着をつける数十分前。
ニゥイルVSネイ・ラ・ラビンス。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ザバガレレレレレェェェェェ!!!!! 防戦一方じゃないかぁぁ!!! ほらほらどうしたぁぁぁ!!!!!」
くっ……やっぱり強い。剣の重さが段違いだ。一体、私と別れてから何人もの人たちを殺してきたのだろうか。
今から23年前。私は、貴族の中で1番の権力を持つクラグリム家の長女としてこの世に生を受けた。
幼い頃から英才教育を施されてきた私は、貴族の中ではトップレベルの頭脳と、剣の腕前を持っていた。ひとたび大会に出ると、連戦連勝の負けなし状態だった。
そんなことだから、いつしか周りが「天才」だとか「秀才」だとか言いながら私にすり寄ってくるようになった。
名も知らぬ輩たちにすり寄られ続ける日々に、嫌気が差してきていた8歳の頃、我が家に運命の日がやってきた。
この日、バレント宮殿で行われる国王家主催のパーティーが催され、貴族である我が家はもちろんその催しに参加した。
正午過ぎから始まったパーティーは、順調に進んでいく。パーティーが終盤に差し掛かったころ、私は用を足すために部屋の外に出た。
あれは、廊下の角を曲がった時だった。ふと左を見てみると、壁の下部分に薄い切れ目があったのだ。子供だった私は、好奇心の赴くままに薄い切れ目の部分まで歩いていく。
眼前に到着した時、突然目の前が光りだした。あまりのまぶしさに、私は目をつぶる。次に目が覚めた時、不思議な空間に私はいた。
別に、特別豪華に装飾された部屋でもなかったし、特別変な雰囲気もしなかったと記憶している。ただ、窓が1つもなく、明かりは松明だけで、奥に机があった。
机の上には不思議な本が置かれており、表紙には「神書」と書かれてあった。
「これは……?」
好奇心に導かれるままに本の中身を読んでみる。すると中身は、日記のような形式でこのようなことが書かれていた。
「1322年。ついに私の国、ペイダス王国を建国することに成功した。これから民のために尽力していくことをここに誓う。
1323年。建国してから早くも1年の歳月が経過した。1周年記念パーティーで、とんでもない事件が起きた。なんと、パーティーに招待した占呪師が、外側が乱れた円形の紋様を書いた後、この私に術をかけてきたのだ!!
そのものはすぐに捕らえられたが、捕まる間際に「今かけた呪いは滅亡の呪い!! あなたの家系はいつか途絶える!!!」と吐いてきたのだ。怒りで震えていた私だったが、後からになって呪いのことが急に気になりだした。
そこからはありとあらゆる手段を用いて呪いを解こうとしたが、解くことは叶わなかった……。
1343年。最近はずっとベッドの上で寝たきり生活が続いている。どうやら私の命は、そう長くないらしい。最近、不気味はことがこの本で起こり始めた。なんと、私は何もしていないのに、紙上に文字が刻まれるようになったのだ。
内容は主に、私がいなくなってからことだった。書かれたことは本当に現実で起こっていったので、次第に私はこの本を「神書」と呼ぶようになり、予言の書として後世に残していくことにした。
神書を使ってペイダス王国が、永久の繁栄を築いていくことを、私は願う」
初代国王らしき人物の記述はここで終わっており、その後の文は全て、全く異なる筆跡で書かれてあった。
パラパラとめくって読んでいくと、途中、不自然に端っこが折れてあるページを発見した。読んでみるとそこには
「1792年、8月10日。この日、呪いは発動し、ペイダス王国は滅亡する。滅亡を回避するには、国王一族を途絶えさせる以外に方法はない」
と、書かれてあった。私はしばらくの間放心状態だった。なんにも考えることができず、思考が停止していた。
数分ほど経った時、我に返った私は、ある事実に気が付いた。1774年の今から数えて、国の滅亡まで、残り18年しかないということに。
驚愕の事実に、脳内が大混乱に陥っていると、後ろの扉が開く音がした。私はとっさに机の裏に隠れる。
コツゥゥン……コツゥゥン……。
部屋中に靴の音が響き渡る。私は、本能で危険を察知し、音が出ないよう、必死に黙を貫く。
コツゥゥン……コツゥゥン……。
何分経過しただろうか。次第に靴の音は遠ざかっていき、扉が開いていく音とともに消え去っていった。
「は、早くここから出ないと……!!」
これ以上この部屋に留まるのはマズい!! 直感でそう感じた私は、急いで扉を開けて外に飛び出していった。
数日後、宮殿に呼び出された我が家は、謁見の間でビクビクしながら国王が来るのを待った。
10数分後、謁見の間にやってきた国王は、開口一番にとんでもないことを言ってきた。
「本日、そなたたちを呼び出したのは、そなたたちの領地を縮小するためである」
「「「!!!」」」
全員が驚愕した。貴族にとって、領地が縮小されるのは、処刑の次に重い罰だからだ。父は、すぐさま抗議をする。
「国王陛下!! それはあまりにも突然のことでございます!! 一体私目が何をしたというのでしょうか!!」
「ほう、あくまでもしらばっくれる気か。そなたたちの娘が引き起こした事件だというのに、どうして親が責任を取らないのだ?」
私には、身に覚えがありすぎた。あの時、靴の音を鳴らしていたのは国王だったんだ!! その時に部屋にいるのがバレてしまったんだ!!
冷汗が止まらない。心臓の鼓動がどんどんと速くなっていく。焦りがピーク寸前まで溜まっていく。
そんな時だった。
「国王陛下!! それはどう考えておかしい理論でございます!! どうして事件を引き起こしていない私が処罰されなければならないのでしょうか!! 責任は事件を引き起こしたニゥイルに取らせるべきです!! 死を持って!!」
父は、とんでもないことを言い出した。この人は、自分の領地を守るために、私を殺そうとしているんだ。実の娘である私を!! とんだクズ野郎なんだ!!
「うぅむ。確かにな。お前はどう思う?」
国王は、隣に座っている王妃に意見を求めた。すると王妃は、軽い口調で言った。
「そんなこと、考えるまでもないでしょう? 当事者の死刑よ。それで今回のことは片づけなさい」
「そうだね。君の言う通りだ。ということだ。このものを牢獄に連れて行け」
「「「はっ!!!」」」
「ちょっと!! ねぇ離してよ!! 離してってばぁ!!!」
抵抗するのもむなしく、私はそのまま衛兵に掴まれて牢屋に連れて行かれた。父の顔は、やってやったと言う顔をしていた。母は、致し方ないと言う顔をしていた。
私は実感させられた。この場に味方は誰1人として存在しないのだと。悲しかった。悔しかった。涙が止まらなかった。
光は……存在しなかった。
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