第30話 ログマルクの腕輪
「ほざけ、糞ネズミ。お主などかみ殺してくれる」
「はん!! 言ってくれるじゃないか」
腹立つなぁ、こいつぅ。さすが大盗賊団の頭といったところか。うざさが違う。澄んだ海のような青い髪をなびかせやがってぇ……ん? ちょっと待て。あの色の髪、見たことがあるぞ!!
「お前は確か、強盗に捕まってた……」
「あぁそうだ。よく覚えていたなぁ」
なんてこったぁ。まさかこんなことになるなんて。全然か弱い乙女じゃねぇじゃんか!!
「あの時私は仕事帰りでねぇ……ゴミに掴まれて吐きそうになってたんだよ。そんなときに現れたのが……お前だったんだよ。いや、正確には、お前の腕輪が、かな?」
「!! まさか……お前が僕の腕輪を奪ったのか?!!」
「そうとも。私が部下に命じて盗ってこさせたんだよ。あの時、お前を見たとき、ビビッときたよ。あの腕輪、ログマルクの腕輪だろぉう?」
ログマルク? 一体何のことだ? ログマルクは1,000年以上も前の人物だぞ。すでに死んでいる。そんな人の腕輪だと? 冗談を言うんじゃんない。
「何を言っているのかわからないなぁ」
「しらばっくれてんじゃんないよ。あれは間違いなくログマルクの腕輪だ。腕輪についていたあの丸い2点の錆。あれは、ネゾント様の返り血だ。間違いない」
なん……だと……なんということだ。あの2点の錆はそういうことだったのか。もしかして、僕の血は……。
次の奴の言葉で、僕は、目が飛び出る思いをした。
「ログマルクの腕輪は、不思議な力で直系のもとに必ず戻るという性質がある。つまり、この腕輪を持っているおん前は、ログマルクの直系だということだ!!!」
もう、わけがわからなくなってきた。頭の整理が追い付かない。僕はログマルクの血を継いでいるということなのか? だとしたら、僕は、大罪人の血を引いているということなのか。
僕は、衝撃的な事実の連続で、何も言い返すことができなかった。
「とにもかくにもおん前は大罪人の血を引いている。文献によると、ログマルクはネゾント様を殺した後、姿をくらましたらしい。
よって、罪を裁かれていないと判断した私は、ネゾント様の代わりとして、おん前を裁くことにした。盗賊が罪人を裁くのは何かおかしいが、私は気にしないことにする」
すると彼女は、ウエストバックからヨーヨーを出すと、こちらに向けてきた。
「ネゾント様の代行として、メルネイ盗賊団の頭として、これより処刑を執行する」
「はぁ? ちょっと待て!! お前は何をほざいて……!!」
僕は反射的に首を横に傾けた。首があった場所には、リムから8枚刃が飛び出したヨーヨーが通り抜けていった。
戻っていくヨーヨーを目で追うと、いつの間にか5メートルのところまで接近していた。
何なんだこいつは。あっという間に僕の近くに来ていやがる。こいつの動きが速いのか? それとも、僕がぼーっとしていたからか? どちらにしても気を引き締めなければ。
ここは敵のアジトなのだから!!
数分前。アジト上層部。
「あぁくそ!! 膿のように次々と湧いてきやがる!!」
正門から無事中に入ったのはいいが、にしても数が多すぎる。見た感じ2,000人以上はいるか? それに加えて……。
「ザリバリィィァァァ!!!!! どこまで走っても、自分たちからは逃げることはできませんよぉぉ!!!」
後ろにいる幹部だ。盗賊どもを統率して追ってきやがる。俺も、いつまでも通路を走るわけにはいかねぇ。どこか、部屋に入って決着をつけなければ!!
部屋間をつなぐ通路を爆走していると、何やら奥の方から火薬のにおいが漂ってきた。俺は、その部屋に飛び込んでいく。
中はなかなかに広い空間で、火薬や爆弾であふれていた。
「はぁ……はぁ……これは……」
俺は見た瞬間感じた。この部屋を使えば、2,000人以上の盗賊を倒すだけでなく、幹部をも倒すことができる。こいつはいける。やるしかない!!
数秒後、中に幹部と大量の盗賊がなだれ込んできた。
「ザリバリィィァァァ!!!!! とうとう諦めたかぁ、ドクサレ野郎がぁぁ!! 今すぐにひき肉にしてやるぜぇぇ!! いけぇい野郎どもぉぉぉ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
頭が割れそうになるほどの轟音とともに盗賊達がなだれ込んでくる。耳の感覚がなくなりそうだ。だが俺はこの瞬間、右口角を上にあげた。
「何がおかしい!! お前はすでに敗北しているんだよぉぉぉ!!!」
「デレスカフ様!! ここ、よく見たら火薬庫でっせぇ!!」
「な、なんだとぉ!!」
「今更気付いたか!! だが、もう遅い!! 勝利へのトリガーは今、高らかに引かれたんだ!!!」
俺は、こいつらが中に入ってくる前に、部屋の入り口付近に、細かくバラした火薬を撒いておいた。盗賊達の足元は、すでに爆弾となっている!!
俺は、やつらから数メートル離れた場所から、さっき通路で借りてきた小型の松明をぶん投げようと構える。
「ま、待て! やめてくれぇ!! いいこと教えてやるからその松明を離してくれぇぇ!!」
「なんだよ。いいことって」
「そ、それはだな。
なんだと?!! それは本当か? 本当だとしたら、あいつから間者の正体を聞き出さなければならない。でも、それはできそうにない。この間にも、盗賊達が足を止めないのだから。
「情報提供ありがとう。だが、松明を離すことはできない。部下のしつけがなってないからなぁぁ!!」
俺は、奴の足元目掛けて松明をぶん投げた。松明は見事に地面に着地し、散らばった火薬達に燃え移っていく。
「い、いや、いやだぁぁザリバリィィァァァ!!!!!」
ドバガラダリバァァァァァンン!!!!!!!!
目の前で大爆発が起こる。俺は、とんでもない爆発風で、部屋の端っこまで吹き飛ばされていく。
壁に激突し、できるだけ早くまぶたを上げると、部屋の入り口が崩落で完全に塞がっていた。
「そこまでは考えてなかったぁぁ……」
次の瞬間、入り口を中心に、アジトの大崩落が始まった。崩落はどんどんとこちら側に近づいてくる。土石流が辺りを埋め尽くしていく。
やばい。このままじゃ生き埋めだ!! 何とかしないと!!
だがしかし、俺の体は壁に激突した影響でしびれて動けなかった。
土石流が眼前に来た瞬間だった。俺がいた地面が崩落し、下の階に落ちていったのだ。
背中には通路にでるための出口があった。土石流もともに落ちてくる中、死に物狂いで出口を目指していく。
「はぁ……はぁ……!!」
通路を右に曲がったところで、ちょうど土石流が止まった。間一髪だった。あと数秒遅かったら、少なくとも俺の足は無くなっていただろう。本当にギリギリだった。
「へへへ。我ながらとんでもない博打をしてしまったぜ」
その場にゆっくりと立ち上がると、俺は最下層に向けて歩き出した。
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