第28話 連戦開始
カルターナ達が扉の前に着く十数分前。アジト入り口。
「行ったか……」
カルターナ達は非常口を目指して、横穴の向こう側に行った。計画では、あいつらが非常口に入っていった後に俺も入っていく。だったな。それまで俺は茂みの中で待機だ。
それにしても、カルターナはやっぱりすごいよなぁ。皆が、思っているけど口に出して言えないようなことを、堂々と言ってくれる。
そしてなにより、行動力がすごすぎる。最大の賛辞を込めた、行動力お化けだ。
一度宣言したらなにがあっても止まらない。それがあいつだ。
俺が心から尊敬している人物は、この世に3人しかいない。
1人目は、俺に文字の読み書きや武術を教えてくれたタラフォンさんだ。タラフォンさんは、俺に、信念の重要さを教えてくれた。
俺は今でもあの人の言葉である「信念とは、人間の奥底に存在している心の力だ。信念は、人間を根底から支えてくれている、唯一無二の原動力なのだ」を、座右の銘としている。
2人目はお袋だ。親父が貴族の乗った馬に轢かれて死んだとき、自分が最も辛いはずなのに、感情を押し殺して俺を支えてくれた。
何よりも、俺という存在を、この世に産み落としてくれた。世に存在するどんな神様よりも、敬愛し、崇めるべき尊い存在なんだ。
3人目はカルターナだ。俺が14才のとき、お袋が栄養失調で死んだ。あの時の俺は、お袋のおかげで抑えてこれていた混沌が解き放たれ、感情がぐちゃぐちゃになっていた。
親父を轢き殺した貴族に対する恨みや、恩人の貴族への感謝の気持ちがぶつかり合っていた。どうにかなりそうだった。自殺しようとまで考えた。
そんな俺の心を支えてくれたのが、カルターナだった。
あいつは、俺の話を真剣に受け止めてくれた。悲しいことは、全部一緒に背負ってやると言ってくれた。手を差し伸べてくれたんだ。
その日から俺は、一生カルターナについていくことに決めた。それが、カルターナに対する恩返しだからだ。
カルターナの後ろ姿は、いつだってギラギラに輝いている。
そんなことを考えていると、向こう側に行ったカルターナが、石を空中に投げて合図をしてきた。
無事、非常口を見つけたか。じゃぁそろそろ俺も動こうかねぇ。
俺は、アジト入り口に向けて歩き出した。
おそらく、確実に複数人門番がいるだろう。見つかったら必ず騒ぎになる。起こるとしても、できるだけ後に起こす!
入り口の前に着いた俺は、すぐには中には入らなかった。入る前に、もう一度のアジトの入り口を注意深く見てみる。
よぉく見ると、やはり保護色で染められていた布だった。とてつもなく精巧に作られていて、意識して見ないと周辺の草と見間違ってしまう。敵ながらあっぱれな技術だ。
布を左手で上げて中を覗いてみる。すると目の前には敵がいた。
敵は本当に驚いた様子で、口をパクパクしながらその場に固まっていた。それは俺も同じだった。
しばらく場に沈黙の時間が流れる。お互い、目を合わせて動かない。
そして、俺から口を開いて、沈黙を打ち破く。
「あ、どうもぉ……」
俺は、軽く会釈をする。
「あ、あぁどうも……」
相手も軽く会釈をする。
俺は、布をそのまま元の状態に戻そうとした。お互いの目が再び合った瞬間、俺達は正気に戻り、叫ぶ。
「って、門番じゃぁぁぁぁぁんんん!!!」
「侵入者かお前ぇぇぇぇぇ!!!」
俺は剣を振り抜き、相手の胴体をぶった切る。そこら中に大量の血が飛び散っていく。
一体何の時間だったんだよぉぉぉぉぉ!!! いやマジで。任務遂行しろよぉぉ!
「どうしたぁ? 何かあったかぁ?」
しまった、感づかれた! ここで見つかったらあいつらの移動時間が稼げなくなる!! この盗賊団は、4,000人以上もの組員がいる。そのうちの1,000人以上がここに来ると考えると、さすがにきつい。
応援が来る前にあらかた倒してやる!!
俺は、剣を片手に突撃していった。
盗賊団アジト。通称アリの巣。現在、アリの巣の最下層にある大広間にて、盛大な宴が行われていた。
現在、盗賊団全4,000のうち、3,500人もの盗賊がアリの巣に集結している。そして、3350人がこの大広間でどんちゃん騒ぎをしている。
盗賊団は頭を中心に、幹部3名から枝分かれするようにたくさんの組にわかれている。主に強奪組、人身売買組、取引組などがあり、各組に組長と組員がいる。
頭は、特別なことがない限り、顔から仮面を外すことはない。素顔を明かしているのは幹部くらいのものである。
皆、机に大量の食べ物を並べ、酒を酌み交わし、椅子を蹴り飛ばしながら宴を楽しんでいるところに、1人の盗賊が部屋に転がり込んできた。
「か、頭!! 大変です!! 侵入者です!!」
「何だと!! どこのどいつだ!! その命知らずは!!」
「わ、わかりません!! 確かなことは、アリの巣に単独で攻めてきたということだけです!!」
「はぁ?!! そんな馬鹿なことあるかぁぁ!! 単独なのは私たちをおびき寄せるための陽動だ!! ほかにも必ず仲間がいる!! そいつらを炙り出せぇぇ!!」
「「「イエッサーァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」」」
その瞬間、メンバー全員が散り散りに持ち場へと向かっていく。
殺風景となった空間には、ただ、頭と幹部のうちの1名が残っていた。
「ねぇイラス。あなたは行かないの?」
「えぇ行かないわ。私が離れたら一体誰があなたを守るというの?」
「フフフ……そうね。あなたの言う通りだわ。お言葉に甘えて守ってもらおうかしら」
「そうするといいわ」
そこから数秒間、部屋には、不気味な笑い声が響き続いていた。
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